2020.04.01

本と出会いに、ちょっと六本木へ 文喫

交差点を六本木通り沿いに歩いたすぐのところに「文喫」があります。
ここはかつてバブル華やかなりしころ、ディスコへ向かう若者たちがこぞって闊歩したエリア。綾小路きみまろの漫談よろしく、あれから30年、待ち合わせのメッカと言われたアマンドから徒歩1分の電気ビルに、文化を喫する場所として、異業種が持ち前のソリューション力を生かして興したユニークな書店があります。

今回は2019年12月で1年を迎え、さらに文化交流の場として醸成しつつある書店「文喫」にフォーカスします。

文喫とは

2018年12月11日、文喫は鳴り物入りでオープンしました。〝入場料1500円を支払って入る本屋″としてさまざまなメディアが取り上げ、六本木というロケーションにしゃれた外観が目を引くその斬新なシステムの本屋は、言うなれば〝とんがった経営″ばかりがフィーチャリングされたのです。

働き方改革などが取りざたされている昨今、なぜか文喫では個人会員の数が毎月増えているといいます。文喫は読書室としてだけでなく、ワーキングスペースとしても秀逸なもの。こんな折だからこそ、気分を刷新し、特別な空気で包み込んでくれるこの場所が重宝がられているのかもしれません。

百聞は一見にしかず。文喫に入店してみれば、その入場料にも納得がいきます。料金を払って入ったその先は、同じものが二つとない3万もの書籍があなたとの出会いを待ち受けているのです。

聞こえるか聞こえないくらいに響くBGM、棚に整然と並んだ書籍と平積みされた書物。それらを手に取り、好きな席でじっくりと本を吟味し、購入することができるのです。入場料というのは実はこの時間と空間を占有するための金額だったのだとハッとさせられます。

今回お話を伺ったのは文喫六本木の店長 伊藤晃(いとう あきら)さんです。

文喫が生まれるまでの物語

文喫は異業種がそれぞれの持ち味を生かして興した異色の本屋であると前述しました。母体は日本出版販売株式会社・リノベーション推進部で、同社がスープストック東京を手掛けたスマイルズ との交流の中で生まれたのがぼんやりとしたハコモノ構想です。ここに「文喫」として肉付けや運営を任されたのがリブロプラスというわけ。

出店場所が六本木の電気ビルというのも意図的なのかと思ったら、それこそたまたま良い出物があったのだとか。幸福な偶然と、3社のいい感じのアイデアの融合が、成功の裏にはあるものなのですね。

店長の伊藤さんはリブロプラス所属。つまり、「文喫」はあくまでも本屋であるというコアな部分は揺るがず、「文喫」でしか味わえない読書体験を展開するのが彼の使命でもあるわけです。

文喫でしか味わえない読書体験とは

「本と出会うための本屋」、文喫のサイトの扉に掲げられたこの言葉こそ、文喫でしか味わえない読書体験と言えるでしょう。平日 税抜き1500 円の入場料をエントランスで支払ってバッジを受け取れば、あとは自分が好きなだけここにある本と対話することができます。

所蔵本はおよそ3万冊。それらはすべて購入が可能です。「文喫でしか出会えない本」、もしくは「文喫と出会えたことで特別となる本」をスタッフが集め、提供しています。棚ごとに分かれたジャンルはそれぞれ専任のスタッフがいて、ポップの作成や書籍の補充を行っています。

例えば日本文学。すべての書籍は筆者のデビュー順に並べられています。さらに80年代以降は芥川賞・直木賞を筆頭にさまざまな文学賞を受賞者順にソートするなどのアイデアを凝らしています。

旅行書もしかり。文喫にはいわゆる旅行のガイドブックが陳列されていません。ガイドブックは年度ごとに新しいものが刊行されます。その年度で売れなければ返品対象となってしまうのですが、そうした入手しやすい本は置かないようにしているのです。

というのも、文喫は書籍を返品しない書店としての矜持があるから。
返品しないというポリシーが、文喫の選書のキーのひとつになっているのですね。

旅のガイドブックの代わりにあるのは、読めば旅をしたくなるような本、旅行した気分に浸れる本など。アプローチはさまざまだけれど、とにかく本を通して旅を想起させてくれるものを中心に置いているのです。

本との出会いは一期一会、人とのそれと同じ感動を提供したい

活字離れが叫ばれている昨今、文喫のミッションはまさに人と本との出会いの場としてその機能を果たすことにあります。

本に触れたくなる最善の空間と時間を人に提供する。本との出会いは人同士の出会いと同じほど、人生に何かしらの力を及ぼすものだからでしょう。

そのミッションを果たすためのハコモノとして、文喫はあるのだと言えます。企画展にしろ喫茶メニューにしろ、すべては人と本との距離をより近くし、関係をより深くする装置のひとつ。そのためにスタッフは知恵を絞り、書棚のポップ内容を考えます。

サイトでもそのモットーは同じです。文喫にある書籍を、毎日1冊紹介する〝本日の1冊″では、限られた文字数の中でその本のプロフィールを垣間見ることができます。このコンテンツは文喫 総勢20名のスタッフのうち数名が担当していて、読んだ本や読みたい本など、一度は〝個人″のなかで醸成された言葉でまとめられています。

他の人の書評を見て読みたくなる本もあるでしょう。本を手にするきっかけになりそうなことにはすべて手を尽くしているのです。

まさかのデジャブ、が六本木に

店長から聞いたこの話は、記者の若かりし頃、好んで通っていた池袋のリブロを彷彿とさせるものでした。西武デパートの中にある本屋リブロには、そこでしか出会えない本が確かにあり、独特なレイアウトで本が陳列されていたのです。リブロイムズがここでもしっかりと生きているのですね。

読書以外もOK

文喫では本に囲まれて仕事ができるよう、Wi-Fiを完備したワーキングスペースも完備しています。さらにしっかりと本と向き合いたい方には、誰にも邪魔されず〝個″を満喫する読書スペースも。

小腹が空けば、読書を邪魔しない程度の軽食をいただくことができます。小腹を満たす程度だろう、とあなどるなかれ。スープストック東京プロデュースのスマイルズが絡んでいるのですから、おいしくて体に優しいメニューが! 文喫のカフェを利用しに来るだけでも価値があります。ただここはあくまでも書店、小腹のお供で本をくれぐれも汚さないように気を付けなくては。

企画展—いかに本と触れ合ってもらえるかを命題に

文喫では常にイベントを行っています。前述した通り、これらはすべて、本との出会いをつくるきっかけ。企画案は外部から持ち込まれることと、文喫のスタッフから持ち上がることとほぼ半々だとか。

取材したこの日は、社団法人手紙寺の企画した手紙展が開催されていました。

手紙にまつわる本を集めて展示即売するほかに、文喫で見ず知らずの誰かが書いた手紙を読めるという趣向。もちろん、自身も手紙を書いて匿名で手紙をここに託すこともできるのです。

企画案は基本、受け入れる体制で

文喫で催される企画は、やはり文喫ならではのカラーが強いのです。灰汁(あく)が強いと言ってしまえばそれまでですが、本を手に取るきっかけになりそうなものなら基本的にイベントとして成立する――というか、成立できるように全力を尽くすのです。

基本、本屋は懐の深いものだと思っています、と伊藤さんは言います。

来るものは拒まない、むしろ、一見して本との出会いを作るとは思えない企画でも、本を手にするきっかけになるよう力技で持っていくのです。

そういう意味からも、TRYPEAKSとのコラボレーション企画〝文喫オリジナルビールをつくります!″は、『読書の傍らに時間を楽しめるようなビール』をMAKUAKEのクラウドファンディングで出資者を募り、ビールのお披露目を文喫で行おうというもの。

ビールの味づくりも興味深いですが、ビールがお供になる本の選定がさらに興味深いところ。

活字離れを杞憂される若手が中心

こうした奇抜で斬新な企画案をはじめ、本の選定やレイアウトなどはすべて、『本離れ・活字離れ』を指摘されている若手が中心となっています。
そのせいか、文喫の利用者も30代から40代が中心。自分の部屋や職場とは違う、自分だけの特別な場所として利用する人が多いようです。

六本木という土地柄もあって、外国の方の利用もなくはありませんがごくわずかといったところ。週末には都内のみならず、地方から人が訪れるほどの人気ぶり。

六本木の名所として、いまや有名となったのかもしれません。

読書する行為、読書する人を包み込む箱モノとして

今後の文喫についてお話を伺いました。
店長の伊藤さんは、「文喫」という本との出会いを提供する仕掛けを持ったハコは、なにも六本木だけで止まる必要はない、と言います。

他のどこかに文喫があったら、きっとそこで本と出会う機会が生まれるに違いないと考えているようです。具体的なことは言えませんが、もしかしたらこの先、文喫が六本木以外に現れるかも。

その時は、その土地に根差したハコとして、六本木の文喫とは全く違った顔をもった文喫が現れるかもしれません。名前だってもしかしたら違うかもしれません。

本屋として、読書人口を増やしたい、業界を盛り上げていきたいという強い思いが、これから先の文喫を支えていくのだと感じました。

店舗情報

文喫 六本木

住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F

アクセス:地下鉄日比谷線・大江戸線六本木駅 3・1A出口より徒歩1分

営業時間: 9:00~ 22:00 (L.O. 21:30)

定休日:不定休

席数:90席

入場料:1,500円(税抜)※土日祝の入場料は 1,800 円(税抜)となります 。

公式サイト:https://bunkitsu.jp/

Instagram:https://www.instagram.com/bunkitsu_roppongi/

Twitter:https://twitter.com/bunkitsu_rpng

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今井 美枝子

今井 美枝子

1965年生まれ。化学メーカーのテクニカルライターと車両板金塗装専門誌記者を経て、フリーランスライターへ。チームでインタビュー記事や企画など、コンテンツのプロデュースも行っています。

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