「作品が1つもない展覧会」って、一体どんな展覧会? ー「作品のない展示室」展 @世田谷美術館」

ぷらいまり
ぷらいまり
2020.07.22
(写真撮影:ぷらいまり)
(写真撮影:ぷらいまり)

いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。

この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。今回ご紹介するのは、世田谷美術館で開催中の「作品のない展示室」展。

その名のとおり、展示室には作品がひとつも展示されていない、ちょっと変わった展覧会です。「”美術館”といえば 作品が展示されていて、それを見るところ。」そんな「当たり前」を崩し、美術館のさまざまな魅力に気づかせてくれる展示です。

建築の魅力に触れる

エントランスの荘厳な吹き抜けの空間から会場に向かうと、そこは光の入る長い回廊。展覧会タイトルを横目に展示室に入ると、その先には目の前いっぱいに緑が広がる開放的な扇型の空間。Uターンして次の展示室に入れば、今度は天井高のある明るく広大な空間…

(写真撮影:ぷらいまり)
(写真撮影:ぷらいまり)

建築家・内井昭蔵さんによるこの建築は、ビルのようなひとつの大きな塊ではなくいくつかの建築の集合体のような造りになっており、それぞれ違った雰囲気の部屋を渡り歩くことでストーリーが感じられます。

(写真撮影:ぷらいまり)
(写真撮影:ぷらいまり)

美術館で作品を見ていると、建築そのものには目がいかなかったり、展示室内が壁で仕切られて全体像が捉えづらかったりする中、何もないからこそリズム感のある建築を体感できるように感じられます。

(写真撮影:ぷらいまり)
(写真撮影:ぷらいまり)

コレクション展開催中の2Fには建築模型があり、建築の全体像を俯瞰することができます。からっぽの展示室を見た後だと、この抑揚のある構造がとてもよく分かりますね。

(写真撮影:ぷらいまり)
※ 建築模型は特別に許可をいただいて撮影させていただきました。(写真撮影:ぷらいまり)

作品がないからこそ見える風景に出会う

それにしても、展示室にあるたくさんの大きな窓はとても印象的で、そこから見える緑いっぱいの風景自体が絵画のようにも見えます。そんな魅力的な風景ながら、作品を展示しているときには隠してしまっていることが多いのだそうです。

(写真撮影:ぷらいまり)
(写真撮影:ぷらいまり)

「生活空間としての美術館」、「オープンシステムとしての美術館」、「公園美術館としての美術館」という3つのコンセプトに基づいて設計されたというこちらの美術館。作品を置かないことで意図された外との繋がりが感じられるようです。

普段は開けることのない作品搬入用の出入口なども今回特別に開放されており、今だからみられる風景と出会うことができます。

「建築空間」と「作品」と「人」の繋がりを知る

展示の後半には、過去の展覧会を紹介するスライドショーの上映や、「建築と自然とパフォーマンス」という特集コーナーも設けられています。

1986年の開館直後から、美術館の中で音楽、演劇、ダンスなどの公演を行ってきたという世田谷美術館。90年代には実験映画や現代音楽、2000年代以降は「建築空間との対話」をテーマに、展覧会を起点としたパフォーマンスなども開催してきたそうです。

その舞台は、展示室だけではなく、エントランスホールや外の庭園など、とてもユニーク。建築空間と、そこに企画展示された作品と、パフォーマンスが絡み合う様子を映像や資料を通じて伺うことができます。作品のない展示室で、純粋に建築だけを見てきた中で、この空間がこう活かされるのかと、よりその絡み合いの面白さを体感することができます。

(写真撮影:ぷらいまり)
特集「建築と自然とパフォーマンス」展示室 (特別に許可をいただいて撮影) (写真撮影:ぷらいまり)

建築家・内井昭蔵さんの言葉として「人間は建築の目的や機能で生活を満たす。しかし、建築と人とのかかわりは目的や機能だけではない。人々はそれぞれの建築の持つ独自な空間を共有し、そのスピリットを共感することで相互に強固に結び付けられる。これは精神の伝達のことである。」(「健康な建築をめざして・再び”健康な建築”について」『新建築』1980年9月号より)とありましたが、まさにその精神が具現化しているように感じられます。

(写真撮影:ぷらいまり)
(写真撮影:ぷらいまり)

作品のない展示室の窓から見る緑は風景画のようだと思いましたが、今回、コロナ禍で気分が沈みがちな中で、美しい緑を見て欲しいということも意図のひとつとしてあったそうです。そして、この展示が企画されたのも、新型コロナ影響で海外からの作品の借用が難しくなり、開催予定だった企画展が開催できなくなったことに由来するもの。

ポジティブに考えづらい状況から 普段とは違った魅力を発掘する、そんな発想の転換が魅力的な展覧会でした。8月27日までです。

展覧会情報

(写真撮影:ぷらいまり)
(写真撮影:ぷらいまり)

作品のない展示室

公式サイト https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00203
会場    世田谷美術館
会期    2020年7月4日(土)~2020年8月27日(木)
開館時間  10:00~18:00
休館日   毎週月曜日(祝・休日の場合は開館、翌平日休館)
※8月10日(月・祝)は開館、翌8月11日(火)は休館
入館料   本展示は無料(コレクション展は 一般 200円/65歳以上 100円/大高生 150円/中小生 100円)

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

FOLLOW US

RELATED ARTICL

関連記事

SPECIAL

特集

HOT WORDS

CATEGORY

カテゴリ

何気ない毎日に創造性のエッセンスをもたらす日常の「なにそれ?」を集めました。
ちょっとしたアクションで少しだけ視野を広げてみると、新たな発見って実は身近にあるのかも。