銀座駅直結のGinza Sony Parkが 変わり続ける「過程」を楽しむアート空間に / SP. by yuko mohri

ぷらいまり
ぷらいまり
2020.08.06

いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。

この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。

ところが、今回ご紹介するのは、Ginza Sony Parkと現代アーティスト・毛利悠子さんによる「展覧会でも公開制作でもないアートプログラム」。銀座の一等地に存在するGinza Sony Parkが、大きな変化を迎えた今の時代に「場」の新たな可能性を探求するため、アーティストと共に挑む取り組みとは?さっそく会場に伺ってみました。

(写真撮影:ぷらいまり)
会場入り口(写真撮影:ぷらいまり)

現代アーティスト・毛利悠子さんとは?

毛利悠子さんは、磁力や重力、風、光など、目に見えず触れることもできない力の働きにフォーカスした作品で知られる、いま最も活躍が注目されるアーティストのひとり。

毛利悠子さん

作品としては例えば、駅の雨漏りを創意工夫で対処している様子の事例を採集し、その発想を作品に転換。制作現場で実際に水漏れを起こしてそれに対処することで動く立体作品として構成した《モレモレ:与えられた落水》

《モレモレ:与えられた落水》/ 毛利悠子 (日産アートアワード2015での展示風景, 筆者撮影)
《モレモレ:与えられた落水》/ 毛利悠子 (日産アートアワード2015での展示風景, 筆者撮影)

また、ロール紙が床を這い、そこに付着した汚れを入力信号として楽器を演奏するI/Oシリーズなど、身の回りの些細なものごとをユニークな形で可視化・可聴化する作品で知られています。

今回はどんなことが行われていくのでしょうか?

その日、その場所で生まれる表現によって日々変化しつづける展示空間。

会場のGinza Sony Park 地下2階の入り口には、可愛らしい看板が。色合いも形も可愛いこちらは、冷やし中華を解体して再構築したというもの。

中に入ると、SONYの巨大なロゴの看板の前に毛利さんによる回転スピーカーを使った音響彫刻作品《墓の中に閉じ込めたのなら、せめて墓なみに静かにしてくれ》が設置されています。SONYの看板はもともと設置されているものですが、作品とマッチしてまるでインスタレーションの一部のよう。地下3階にある駐車場のような内装のスペースには、その白線におさまるようにして、今回の創作に使用されるピアノも置かれていました。

Ginza Sony Park 地下2階の様子(2020.7.22時点)(写真撮影:ぷらいまり)
Ginza Sony Park 地下2階の様子(2020.7.22時点)(写真撮影:ぷらいまり)

すでにある作品を展示する「展覧会」でも、ゴールを設定して作品を制作する「公開制作」でもなく、その期間にGinza Sony Parkという「場」を活用して作品をつくりあげていくというプログラムなんですね。

Ginza Sony Park 地下3階の様子(2020.7.22時点)(写真撮影:ぷらいまり)
Ginza Sony Park 地下3階の様子(2020.7.22時点)(写真撮影:ぷらいまり)

数日後に再び会場を訪れると、暖色の電灯が搬入された会場は雰囲気が一変。毛利悠子さんご本人が音や動きの調整をされたり、その場で打ち合わせも行われたりしていました。各スピーカーから流れるハウリングのような音は、スピーカーが回転することでひとつひとつの音が揺らぎ、また音同士が干渉し、心地よい浮遊感が感じられます。その音は地下鉄銀座駅の通路までも広がり、作品が日常の中に染み出していくようにも見えてきます。

Ginza Sony Park 地下2階の様子(2020.7.29時点)(写真撮影:ぷらいまり)
Ginza Sony Park 地下2階の様子(2020.7.29時点)(写真撮影:ぷらいまり)

「展覧会」として作品を鑑賞するのではなく、その制作過程や日々変化していく様子が、人によっては通勤の途中、人によってはショッピングの途中に「風景」として組み込まれていくように感じました。

作品を調整する毛利悠子さん(写真撮影:ぷらいまり)
作品を調整する毛利悠子さん(写真撮影:ぷらいまり)

音響彫刻のタイトル《墓の中に閉じ込めたのなら、せめて墓なみに静かにしてくれ》とは、19世紀のフランスの革命家ルイ・オーギュスト・ブランキからの引用であり、長年投獄されていたブランキは、幽閉された要塞内に外からの騒音が伝わって起こる反響音に耐えかねて、この言葉を発したのだといいます(Artscape 「毛利悠子 しなやかなレボリューション」 / 荒木夏実 より)。今、外出や遠出が制限される東京の現状も連想してしまいます。

なお、公式webサイトでは、日々変化する様子が写真で発信されています。https://sp-yukomohri.com/

大友良英さんらミュージシャンとの合同パフォーマンスも予定

さらに、今後は、山本精一さん・鈴木昭男さん・大友良英さんらミュージシャンとのパフォーマンスも予定しているとのこと。Ginza Sony Parkが毎週末「音楽との偶発的な出会い」をテーマに開催している「Park Live」として2020年8月8日(土)に山本精一さんとのパフォーマンスをライブ配信するのを皮切りに、これらのパフォーマンスは発信されていく予定とのことです。 (パフォーマンスに関する情報は、銀座ソニーパーク公式twitterで発信されています。)

コロナ禍によって展覧会をはじめとする多くのアート活動が制限された中での、Ginza Sony Parkからのコラボレーションの提案に対して、毛利さんは以下のように書いています。

大きな湖を目の前に、仕事の仕方をずいぶん変えていかなければと四苦八苦していた私には、その電話はとんでもない朗報で、突然、魚がジャンプする景色が目の前にひろがっていった。スタジオとしてパークを使わせてもらえないか、と提案をして、すぐに一緒に仕事をしたい人たちに声をかけると、やはり液状化の中で何かをしようとしている人たちがこころよく仕事を引き受けてくれた。

「SP. by yuko mohri」特設webサイトより

コロナ禍で中止になった展覧会があり、イベントやワークショップも軒並み中止となる中、展覧会でも公開制作でもない、アートを見せる新しい方法を探るユニークな試みですね。

「SP. by yuko mohri」は、2020年7月20日(月) - 8月26日(水)の間、搬入から搬出まで動き続けるそうです。銀座の街を歩きながら、あるいはwebを通じて、日々変わり続ける現場の様子をご覧になってみてはいかがでしょうか。

プログラム情報

SP. by yuko mohri

SP. by yuko mohri

期間      2020年7月20日(月) – 8月26日(水)
時間      11:00-19:00
会場      Ginza Sony Park (東京都中央区銀座 5-3-1) PARK B2/地下 2 階・PARK B3/地下 3 階
特設Webサイト https://sp-yukomohri.com/
ハッシュタグ #sp_yukomohri
※ 本プログラムは、展覧会や公開制作ではありません。ここで生まれた作品は後日、何らかの形で発表される予定です。
※ 日程は搬出入期間を含みます。また、急遽変更になる場合があります。

Park Live「SP. by yuko mohri Session with Seiichi Yamamoto

出演者 毛利悠子(作品)/ 山本精一(演奏)

日時 2020年8月8日(土)20:00~21:00予定

視聴方法

YouTubeとInstagramにてライブ配信(無料)、異なるアングルでお楽しみいただけます。

Ginza Sony Park公式YouTubeチャンネル(https://youtu.be/KRNHgVUfpJQ

Ginza Sony Park公式Instagram(https://www.instagram.com/ginzasonypark/

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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