さまざまな表情を見せる石の魅力に触れる 「石の美術館 STONE PLAZA」

ぷらいまり
ぷらいまり
2020.09.08

先日、石に覆われた外観が印象的な「角川武蔵野ミュージアム」がプレオープンしましたが、こちらを設計された建築家・隈研吾さんが初めて石を素材として扱った建物が栃木県那須町にあります。この記事では、石でできていながらも軽やかな建築 「石の美術館 STONE PLAZAをご紹介します。

石だけでつくられた、リズム感のある軽やかな建築

photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)

まずは建築を見てみましょう。3つの重厚な石蔵をはじめとした複数の建物の周囲に大きな池が巡らされ、映り込む空と木々、そして石の風景が美しい美術館です。すべてが石つくられていますが、その建物と建物を橋で結ぶような配置、そして、細く加工された石のパターンが繰り返されるリズム感のある積み方からは、軽やかさも感じられます。

複数ある建物のなかには、池の一部がそのまま室内に繋がっているものも。壁の一部の石も規則的に間引かれ、そのまま屋外とつながっていて、建物の中と外が緩やかに繋がっているような空間です。

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(写真撮影:ぷらいまり)

石を抜き取った部分にガラスをはめ込む代わりに薄くスライスした大理石をはめ込み、屋内の照明を落とすと、薄い石を通して柔らかい光が差し込む場所も。

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この建物に用いられている「芦野石」は、那須町芦野地区で産出される安山岩で、御影石と大谷石の中間くらいの硬さ。準硬石なので加工しやすく、例えば成田山の山門や旧新橋駅舎復元の際の建築、それから石塔、墓地外柵、倉庫、石垣、石塀、門柱など、様々な用途に用いられてきたそうです。

 この芦野石を焼くと、鉄分が酸化して徐々に赤褐色の色味に変化し、また、削りや磨きといった加工方法でも変化していく表情を、茶室をはじめとした建築の随所で見ることができます。

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(写真撮影:ぷらいまり)
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4年間の試行錯誤を重ねて築き上げた、建築家・隈研吾さん初の石の建築

この美術館がある栃木県那須町は、栃木県内でも有数の石の産地。こちらに残る大正~昭和初期に建てられた石蔵を活かし「敷地全体を1つのアートを鑑賞する散歩道」として再構成することをコンセプトにつくられた美術館です。1990年ごろからプロジェクトがはじまり、1994年に建築家・隈研吾さんに基本計画を依頼、2001年に美術館として開館しました。

現在では多数の石の建築を手掛けられている隈さんですが、はじめて石を素材として利用したのがこちらの美術館。「石は本質的には点であるにもかかわらず、つながりやすく、ヴォリュームになりやすい、やっかいな素材である」(※「点・線・面」/ 隈 研吾 より)と、それまでは石を用いることを避けてきたのだそうです。

「クライアントの白井さんには申し訳ないが、これほど条件の厳しいプロジェクトもめずらしかった(中略)古い石蔵を改装して欲しい。でも予算は殆どない。しかし、うちの石の職人(70歳くらい)は好きなだけ使ってくださいという白井さんの甘言にのって、白井さんの石切場から切り出した石と、二人の職人さんと、4年間、ああだこうだ、すったもんだしながら、石で、誰も試みたことのないディテールを想像し、誰も見たことがない石の建築ができた。」(※「隈研吾と石」キャプションより)

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(写真撮影:ぷらいまり)

試行錯誤の末、「コンクリートの上に薄い石を貼りつける」というこれまでの一般的な石の使い方から脱し、石という物質の「豊かさ」を救出するべく、石を細長いルーバーとして扱う方法、そして、隙間をあけながら石を積んでいくという方法に到達したのだそうです。緩やかに建物の内と外がつながる構造がこの軽やかさを生んでいたんですね。蔵と蔵の間の大きな池も、石の”重さ”を水のゆらぎで間引くためなのだそうで、至る所に工夫が凝らされていることに気づきます。

石の建築の実寸代パーツや、加工法など。見応えのある常設展示も

建物の中では様々な展示も開催されています。

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(写真撮影:ぷらいまり)

一番大きな建物である「石蔵ギャラリー」では、常設展示「「隈研吾と石」KENGO KUMA × STONE」が開催されています。隈研吾さんによる石をつかった建築である「LOTUS HOUSE(2005 日本)」や「STONE CARD CASTLE(2007 イタリア)」「LAKE HOUSE(2011 日本)」など、6つの建物の原寸の部分模型や写真、図面などを見ることができます。海外の建築や個人宅などはなかなか実物を見ることができませんが、原寸大の石の模型は写真で見るのとは違った印象・気づきを与えてくれます。

http://www.stone-plaza.com/exhibision/kengo-kuma-exhibition.html

また、もうひとつのギャラリー「石と水のギャラリー」では、様々な企画展示が開催されているほか、「石の学習室」では芦野石の加工方法や歴史について学ぶこともできます。

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(写真撮影:ぷらいまり)

なお、晴れた日も美しいですが、雨が降ると石の地面全体が鏡面のようになり、こちらに写り込んだ建物も美しく見える場所でした。建物と展示物の両方から、石という素材の新しい魅力にも気づくことができる「石の美術館 STONE PLAZA」。さまざまな表情を見せる石の魅力をぜひ現地で体感してみてください。

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(写真撮影:ぷらいまり)

美術館情報

那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA

那須芦野・石の美術館 STONE PLAZA

公式サイト http://www.stone-plaza.com
所在地   栃木県那須郡那須町芦野2717-5
休館日   月曜日(祝休日の場合は翌平日)
※冬季休館(12月末~2月末)(冬季休館の日付はHP Homeお知らせにてご案内いたします。)その他臨時開館・休館することがあります。
開館時間  10:00~17:00(最終入館は16:30)
料金    大人 800円 小中学生 300円

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WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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