2020.11.10

日本古美術の「裏」の楽しみ方を知る/リニューアル・オープン記念展 Ⅱ 日本美術の裏の裏(サントリー美術館)

いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。

この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。

サントリー美術館 エントランス photo by ぷらいまり
サントリー美術館 エントランス

今回ご紹介するのは、六本木の東京ミッドタウンの中にあるサントリー美術館で開催中の リニューアル・オープン記念展 II日本美術の裏の裏。歴史や技法などが分からないと少し難しそうなイメージもある日本美術。でも、今回の展覧会ではそんな見方とは違った、教科書では教えてくれない「裏ワザ」的な楽しみ方を教えてくれるのだとか。いったいどんな鑑賞方法なのでしょう?

作品がつくられた当時の感覚を追体験する

室内装飾をはじめ、身のまわりの調度品など「生活の中の美」を紹介していくことを理念としたサントリー美術館。掛け軸や壺や屏風…現代の日常では身近ではないこれらのものも、制作された当時は身近なものだったのでしょう。今回の展示は、当時の人たちがこれらの作品をどのように楽しんできたのか?と当時の見方を追体験していく企画になっています。

例えばこちらの銚子。

《雛道具のうち 牡丹唐草文蒔絵銚子》 / 七澤屋(江戸時代 19世紀) ※作品はすべてサントリー美術館蔵 photo by ぷらいまり
《雛道具のうち 牡丹唐草文蒔絵銚子》 / 七澤屋(江戸時代 19世紀) ※作品はすべてサントリー美術館蔵

表面は精巧な蒔絵で彩られ、内側にも朱色の漆が施されて豪華な感じがします。ところが、少し引いてみて見ると… 実はなんと幅3.7cmほどのミニチュア!

奥《鈴虫蒔絵銚子》(江戸時代 17世紀), 手前《雛道具のうち 牡丹唐草文蒔絵銚子》 / 七澤屋 (江戸時代19世紀) photo by ぷらいまり
奥《鈴虫蒔絵銚子》(江戸時代 17世紀), 手前《雛道具のうち 牡丹唐草文蒔絵銚子》 / 七澤屋 (江戸時代19世紀)

このほか硯箱や厨子棚など、それ自体は現代ではあまり身近でないものの、実際の道具とミニチュアを並べて展示されることで、その精巧さと可愛らしさを実感することができます。現代でもドールハウスのような精巧なミニチュアを見ると思わず心が踊ってしまうのと同じ感覚ですね。

《雛道具》/ 七澤屋 (江戸時代 19世紀) ミニチュアながら短冊箱の中には金銀砂子で装飾された短冊が入っているなど、細部にも仕掛けが。 photo by ぷらいまり
《雛道具》/ 七澤屋 (江戸時代 19世紀) ミニチュアながら短冊箱の中には金銀砂子で装飾された短冊が入っているなど、細部にも仕掛けが。

続く展示室には絵巻物の数々。古い文字は読めないし生活様式も現代と異なると、やはり少し難しくも感じてしまいます。ところが、例えば《鼠草子絵巻》には、ネズミたちを主人公に様々な生活の場面が描かれていて、その可愛らしさに思わず笑みがこぼれてしまいます。今もネズミをモチーフにした様々なキャラクターは人気ですが、昔からこんなふうに愛らしく描かれてきていたのですね。

《鼠草子絵巻》(5巻のうち 室町〜桃山時代 16世紀) photo by ぷらいまり
《鼠草子絵巻》(5巻のうち 室町〜桃山時代 16世紀)

室町時代から江戸時代初期にかけて愛読された御伽草子のなかで、人間以外の生き物が主人公として登場する「異類物」というものは数多く制作されていたそうで、今回の展示では雀や猿を主人公にしたものなど、その可愛らしさや、絵の表現の面白さを楽しめる作品が並びます。

作品から自分だけの楽しみ方を見つける

日本美術の中でも、特に知識がないと難しそう…と身構えてしまうのが、壺や茶碗のようなやきもの。今回の展示では、こちらもちょっとユニークな方法で展示されています。

第4章 「景色をさがす」展示風景 photo by ぷらいまり
第4章 「景色をさがす」展示風景

作品は1つずつ展示台の上に置かれ、ぐるりと360度まわりながら見ていくことができます。やきものには窯で焼く際に偶然できた色合いや質感の違いがあり、これを「景色」と呼ぶそうです。決められた一方向からでなく360度少しずつ味の異なる「景色」を見ていくと、風景の中からカメラで自分の好きな場面を切り取るように、「自分ならこの面を正面に置きたいな」と、自分なりのベストポジションを探すようになってきます。

《瀬戸黒茶碗 銘 礎石》/ 美濃 (桃山時代 16世紀) 黒一色のなかにも、様々な「景色」が見えてきます。 photo by ぷらいまり
《瀬戸黒茶碗 銘 礎石》/ 美濃 (桃山時代 16世紀) 黒一色のなかにも、様々な「景色」が見えてきます。

展示されている《旅枕花入》という花入には壁や柱に掛けるための穴がいくつか開けられていて、歴代の持ち主が自分なりのベストポジションを見つけて使っていたことが伺えるのだとか。もともと実用品であったものを、当時の持ち主が自分の好きなように愛でていたと考えると、なんだか親近感が湧いてきますね。

また、絵画作品では、円山応挙の《青楓瀑布図》の縦180cmに及ぶ「実物大」ともいえる掛け軸や、一枚の絵の中に四季の花と、異国情緒のある庭園を描いた屛風《四季花鳥図屛風》(伝 土佐広周)(※展示は10/26まで) など、没入感のある巨大な作品を、生活の中に異空間や理想の空間を出現させることができるAR(拡張現実)に喩えています。

《青楓瀑布図》/ 円山応挙 (江戸時代 天明7年(1787)) photo by ぷらいまり
《青楓瀑布図》/ 円山応挙 (江戸時代 天明7年(1787))

リズム感のあるデザインが美しい《武蔵野図屛風》や、華やかな街の風景で彩られた《洛中洛外図屛風》など、もし自分だったら、どんな作品をどのように飾りたいかと考えてしまいます。自分とは少し遠い世界にあるように思えていた美術品が、「自分ごと」になっていくような感覚があります。

《武蔵野図屛風》(江戸時代 17世紀) photo by ぷらいまり
《武蔵野図屛風》(江戸時代 17世紀)

もうひとつの鑑賞体験「ハンドブック」にも注目

今回の展示のもうひとつの面白い取り組みは、今回の展覧会の作品をおさめた「ハンドブック」

photo by ぷらいまり

A5サイズと小ぶりな書籍ですが、例えば、ミニチュアサイズの作品は実物大の作品を同じサイズの写真として掲載することでどちらがミニチュアかわからないほどの精巧さを見せたり、やきものの作品は展示と同様にぐるりと1周するように写真が掲載されていたりと、遊び心にあふれた1冊です。

同じ作品を過去の図録の解説と比べてみても、徹底して作品を「楽しむ」という視点で書かれていたり、作品にまつわる「裏話」的な学芸員さんたちのお話なども収録されていたり、気軽な読み物としても楽しめます。ハンドブックによって、展示では気づかなかった新しい魅力にもまた気付けるかもしれません。

なお、今回の展覧会の日本語のタイトルは「日本美術の裏の裏」ですが、英語のタイトルは「Japanese Art : Deep and Deeper」。「裏」というと王道から外れているようにも感じられますが、その見方は作品をより「深く」楽しめる見方でもあるのかもしれませんね。

サントリー美術館のリニューアル・オープン記念展 Ⅱ「日本美術の裏の裏」は、11月29日まで (会期中展示替えあり) です。

展覧会情報

リニューアル・オープン記念展 Ⅱ「日本美術の裏の裏」

リニューアル・オープン記念展 Ⅱ「日本美術の裏の裏」

展覧会公式サイト https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2020_2/index.html

会場 サントリー美術館

会期 2020年9月30日(水)~11月29日(日)

開館時間 10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)

※11月2日(月)、22日(日)は20時まで開館

※いずれも入館は閉館の30分前まで

休館日:火曜日

※11月3日、24日は18時まで開館

※本展ではshopxcafeも休館日は休業

入館料 一般 ¥1,500、大学・高校生 ¥1,000

※中学生以下無料

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ぷらいまり

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl
Twitter:@plastic_candy

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