ひとりずつしか入れない・SNS禁止・世界最小の美術館が秋葉原に誕生「明和電機マイクロミュージアム(MMM)」とは? 明和電機・土佐社長インタビュー

ぷらいまり
ぷらいまり
2020.11.15

いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。

この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれないアートスポットをご紹介していきたいと思います。

今回ご紹介するのは、2020年11月1日に秋葉原に誕生した「明和電機マイクロミュージアム(MMM)。1畳にも満たない小さな美術館で、展示内容はSNSでの公開禁止。いったいどんな美術館なのか、なぜ今SNS禁止なのか、明和電機・土佐社長にお話を伺いました。

秋葉原の電気街に誕生した 世界最小の美術館

その美術館があるのは、秋葉原の電気街口にある「東京ラジオデパート」の中。創業から約70年の電子部品・電子機器パーツ専門デパートの2階に上がると、「明和電機」の青い看板が見えます。

東京ラジオデパート 外観 photo by ぷらいまり
東京ラジオデパート 外観(写真撮影:ぷらいまり)

「明和電機」は土佐信道さんプロデュースによる芸術ユニット。青い作業服を着用し作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶなど、中小電機メーカーのスタイルで様々なナンセンスマシーンを開発し、ライブや展覧会などを行っています。その製品(作品)のひとつ、電子楽器の「オタマトーン」は国内外で80万本を販売するなど大ヒットしています。

photo by ぷらいまり
明和電機・土佐信道社長(写真撮影:ぷらいまり)

2019年3月30日に開店した「明和電機 秋葉原店」では、明和電機の製品(作品)や、そのマスプロダクト(量産品)を展示・販売しています。

1点ものの作品から、マスプロダクトのオモチャまでが並ぶ明和電機秋葉原店 photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)
1点ものの作品から、マスプロダクトのオモチャまでが並ぶ明和電機秋葉原店 photo by ぷらいまり
1点ものの作品から、マスプロダクトのオモチャまでが並ぶ明和電機秋葉原店 (写真撮影:ぷらいまり)

きれいに陳列された作品群はこれだけでも「美術館」のようですが、「明和電機マイクロミュージアム」はその店舗の奥にある白い小部屋。腰をかがめないと入れないほどの高さの白い扉の中にある「美術館」は、幅90cm、奥行き160cm、高さ210cmと、1畳にも満たない広さなのだとか。

こちらの小部屋が明和電機マイクロミュージアム(MMM) photo by ぷらいまり
こちらの小部屋が明和電機マイクロミュージアム(MMM)(写真撮影:ぷらいまり)

1度に入れるのは1人まで、撮影禁止、SNSでの公開禁止。普通の「美術館」とは異なる鑑賞体験

早速、開催中の「淋しい熱帯魚」展へ入場します。(※ こちらの展示は2020年11月30日まで。それ以降も随時新しい展覧会を企画されるそうです。)

毎時0分・30分の30分入れ替え制。展示を見ることができるのは一度に一人まで。鑑賞中は他に人が入ってこないよう鍵がかけられます。内部は1人だけの空間ですが、撮影禁止・SNSでの公開禁止ということで、スマホやカメラはスタッフの方に預けて入場します。

…ということで、残念ながら展示の内容自体は記事に載せることができません。

ただその鑑賞体験は、展示物を独り占めして見られる優越感や、他の人と共有できないものをこっそりと見る背徳感のような感情、小さなスペースの中で自分ひとりの世界に浸かるような感覚と、”開かれた”美術館での鑑賞体験とは全く異なる体験に感じられます。

多くの美術館で撮影可能な作品が増え、大規模なインスタレーション作品が流行する中、いったいなぜこのような美術館を作られたのでしょう?

「マイクロミュージアム」は なぜ生まれたのか?土佐社長インタビュー

明和電機・土佐信道社長にお話を伺います photo by ぷらいまり
明和電機・土佐信道社長にお話を伺います(写真撮影:ぷらいまり)

ーー明和電機は早い時期から、個展やコンサートでの写真撮影・SNSでのシェアをOKにされていましたが、今回、それに逆行するように「ひとりしか入れない」「SNSでの公開禁止」の美術館をつくろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

きっかけのひとつに「貸本」をつくったことがあります。

「内容をいっさいSNSなどで公開しない」という条件で、店舗で貸し出しをされている手書きの「貸本」

僕はSNSでよく発信をしているんですが、何でもかんでもそこで発表しなくてはいけないんじゃないかと思うようになってきて。でも、そこにはSNS以前にあったアンダーグラウンドな、表に出せないような面白さがなくなっている感じが気になりまして。

じゃあ逆に「SNSに載せられないものって何かな?」と考えた時に、“手書きで、この世に1冊しかなくて、内容を言っちゃいけない本”を作ってみたら面白くて。SNSにのらないエンターテイメントもあるんだなぁと思ったんです。「SNOS(エスノス)」って呼んでいるんですけど、最近は「SNSがNOなエンターテイメント」の事を考えています。

コンサートでも 撮影・SNSシェアOKの明和電機
コンサートでも 撮影・SNSシェアOKの明和電機

それから、2020年は本来であれば海外で大規模な個展を開催する予定でしたが、新型コロナの影響で開催できなくなってしまったんですね。「見せる」ということはやりたいけれど、従来の方法ではそれがすごく難しくなってきたなと思って。コロナ後には美術の見せ方も変わってくるなと思った時にひらめいたのが「ひとりしか入れないミュージアム」でした。

ーーマイクロミュージアムは、美術館での明和電機の展示とは全く違った見せ方ですね。

明和電機が美術館で開催している「ナンセンスマシーン展」は、「見世物小屋」的なものをやろうと思って始めたんです。思いついた当時は、「スターウォーズ展」や「ジブリ展」、「人体の不思議展」みたいな、「宇宙人」、「お化け」、「死体」の展示にお客さんがたくさん入っていて。じゃあ明和電機が見せるのは「カラクリ」だ!と考えたんです。

美術館で開催される「ナンセンスマシーン展」の様子 (明和電機ナンセンスマシーン展 in 大分(2018年))
美術館で開催される「ナンセンスマシーン展」の様子 (明和電機ナンセンスマシーン展 in 大分(2018年))

このマイクロミュージアムはそれとは少し文脈が違って、どちらかというと「覗き部屋」、デュシャンの《遺作》に近いかもしれません。フィラデルフィア美術館にあるその作品も一人ずつしか見られないんですね。体験を一人ずつしかできないというのは面白いなぁと思って。

(※マルセル・デュシャンの《与えられたとせよ 1.落ちる水 2.照明用ガス》;通称《遺作》。開くことのできない木製の扉の床から150cm程度の位置に2箇所、小さな穴が開けられ、鑑賞者はその穴から内部を覗きこむかたちで作品を鑑賞する。)

ーー通常の「美術館」での展示とは違った方向性とする一方で、これまでは「ギャラリー」として使っていたスペースを「ミュージアム」としてリニューアルされたのは?

「ミュージアム」っていうのが面白いんです。これからTシャツとかマグカップみたいなミュージアムグッズも作ろうと思っているし、巡回展もやりたいし。あと、この中で1対1のアーティストトークをやったりとかね(笑) 「ミュージアム」という場でやっている事をここでやったらどうなるのかというのに興味がありますね。

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(写真撮影:ぷらいまり)

あと、僕は自分で自分の全作品を持っているので、いつか美術館をつくりたいなと考えていたんですが、冷静に考えたら、コレクターの方々もマルチプル作品や製品を相当持っているなぁと気づいて。「集中型」の美術館をつくりたいと考えていたけれど、「分散型」もあるなぁと思って。ここが本館だとすると、世界中に小さな「明和電機マイクロミュージアム」の分館ができたら面白いなぁと考えています。

ーーここからまだまだ新たな展開が広がりそうで楽しみです。ありがとうございました。

隣接するスペースは、「見る人」も「創る人」も楽しめる場所

マイクロミュージアムの隣には、明和電機の発想法などの書籍を読めるスペース、その隣には、明和電機の工作キットなどを組み立てられるスペースも。いずれも1畳程度のスペースです。これも「考えて」「作って」「見せる」という流れを超コンパクトに体験できる「マイクロファクトリー」という土佐社長の構想を形にしたものなのだそうです。

1畳ずつの「考える」「つくる」スペース photo by ぷらいまり
1畳ずつの「考える」「つくる」スペース(写真撮影:ぷらいまり)

また、隣接する「ラジオスーパー」では、アーティストの方々がコンテナに作品を入れて展示・販売も行っています。こちらもユニークな作品が多く、「見る」人にも「創る」人にも楽しいスペースです。

コンテナでの作品展示・販売を行う「ラジオスーパー」 photo by ぷらいまり
コンテナでの作品展示・販売を行う「ラジオスーパー」(写真撮影:ぷらいまり)

ミュージアムも店舗も、小さなスペースにたくさんのこだわりが詰まった場所。明和電機マイクロミュージアム、ぜひ一度「体験」してみてください。

ミュージアム情報

明和電機マイクロミュージアム(MMM) (「明和電機 秋葉原店」 「ラジオスーパー」)

公式サイト https://www.maywadenki.com/news/maywadenkishop_akihabara/

場所   東京ラジオデパート2階(〒101-0021 東京都千代田区外神田1丁目10-11 )
入館料  1,000円(30分入替制)
開店時間 13:00〜18:00 ※火曜定休日
お問い合わせ mail@maywadenki.com

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WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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