クリエイターAKR、疾風怒涛の3か月―伊勢丹相模大野店 閉店編―

今井 美枝子
今井 美枝子
2019.10.18
2019年9月30日、伊勢丹相模大野店がこの地に29年の幕を閉じた。閉店後の様子

2019年9月30日、小田急相模大野駅構内にあふれる人、人、人。このあたり、週末はポケモンGOやドラゴンクエストウォークに興ずる人たちであふれるのですが、今日は月曜日。

そう。この日は相模大野の地で29年間愛され続けた伊勢丹の、まさに閉店の日。
伊勢丹に続く商店街はエスカレーターの上まで人があふれ、かつてないほどのにぎやかさを見ました。NHKの取材クルーも訪れ、ローカル枠とはいえゴールデンタイムに閉店を惜しむ声が放送されるほどの華々しさ。有終の美を飾ったに違いありません。

この閉店に先立ち、9月25日に店を閉めたクリエイターズショップがあります。クリエイターAKR氏(以下は敬称を略します)がオーナーを務めるショップ「EVERYDAY SUNDAY」(エブリデイサンデー)です。

「EVERYDAY SUNDAY」閉店の日

EVERYDAY SUNDAY外観。AKRのキャラクターグッズが入り口付近をにぎやかに飾る

9月25日、この日はTwitterとブログで告知していた閉店日でした。EVERYDAY SUNDAYはもともとは古着とかわいらしい雑貨からスタートしました。それが今や若い女性に人気の服飾ブランドからAKRがセレクトした新作の服がそれらに加わり、ショップのキャラクター「くまのまーくん」グッズを販売するクリエイターズショップへと成長。

同店のコミカルなブログは8年にも及び、オンラインショップも徐々に売り上げを伸ばしていく一方、実店舗の隠れ家的雰囲気と店長であるAKRの人柄に惹かれて、店を訪れる客も同時に増やしていたショップでもありました。ショップ経営に不可欠なイベントはブログやTwitterで告知し、AKRのファンである客がイベントを企画したりと、手作り感あふれるショップでもありました。

まずAKRにはクリエイターであるという自覚、というか主張はそれほど強くありません。彼自身はショップのオーナーで、そのショップをプロモートする手段がブログやTwitter、Instagramであり、はてはキャラクターとして“くまのまーくん”を筆頭としたAKRが描き出したゆるキャラがいるということ。

むしろ、クリエイターとしての出発点はこのEVERYDAY SUNDAYレガロ店の閉店ということになるのかもしれません。

お洋服と雑貨の店“エブサン”とは

レガロビルの1テナントであったEVERYDAY SUNDAYは、大人の諸事情でその所在が二転三転した経緯があります。

当初、その中二階の小さなスペースでスタートしたEVERYDAY SUNDAYレガロ店、古着と新しい洋服の販売がメーンで、自身のキャラクターグッズはぼちぼちといったところ。それに加え、さまざまなジャンルのクリエイターの作品を委託販売も行っていました。同店は自ら“エブサン”と店名を短縮形で名乗り、ブログも“エブログ”と称し、読者間で親しまれるようになります。

その在り方はまさにAKB方式と言ってもよいかもしれません。ファンとタレントの距離がとても近いのです。

エブサンのフラッグシップキャラクター くまのまーくん

ほどなくして、1階へと階を移ります。中二階での賃料と同等とはいえ、1階のエントランスから入って奥のスペースは、エントランスからは見えづらく、エスカレーターの真後ろにあたるため、商店街からは様子がうかがいにくい、という場所。お世辞にも好立地とは言えません。

思えば店の転居理由が良くわからないというのも不思議なものでした。エントランスの目前に座していた店が撤退し、がらんとして見栄えがパッとしないため、とりあえず2階の人たちに来てもらおうぜ、とする苦肉の策でぶち上げた構想だった?
ともかくぽっかり空いた空間を埋めるように中二階からの移転してきたのは言うまでもありません。

いずれにしろ好条件であったのは賃料据え置きで1階に場所を借りられるようになったということのみ。それ以外は得体のしれない虫が入ってくると、過去のブログでぼやいています。

それが功を奏してか、EVERYDAY SUNDAYはかえって“知る人ぞ知る店”、“隠れ家的な店”としての印象を深めます。もともとエブサンはブログからその人気に火が付いたこともあるため、ブログリーダーにとっては実店舗の存在を知っていることそれ自体がこの上ない優越感となったに違いありません。

隠れ家的な雰囲気は立地だけでなく、店舗の全所に感じられる

伊勢丹相模大野店 閉店のあおり?コリドー商店街の衰退

1階に転居後も幾度となく訪れる経営の危機。ささやかな雑貨店だからこそ、世の中の大きな経済の動きやうねりに飲まれそうになることが多々あります。その都度、エブサンはAKRの柳に風のような経営スタイル(あらがわず、出すぎず、あきらめない経営)で何とか乗り越えていきます。過去のブログではその辺のショップオーナーとしての苦労が垣間見えるものも。

エブサンファンとしては、ショップ経営の大変さを疑似体験できるとともに、そこでもひょうひょうとしているAKRの人物像そのものが魅力的に映っていると言えるのです。

しかし今度ばかりは撤退することを決意します。その契機となったのが伊勢丹相模大野店の閉店です。

伊勢丹相模大野店の閉店=伊勢丹から専門ショップ・テナントが撤退

閉店後のコリドー商店街は人通りがいっそう少ないように感じられる

伊勢丹相模大野店の閉店自体は1年以上前に計画、発表されていたものでした。閉店の理由で上がっていたのは構造物としての老朽化。すでに建築から29年経過したビルであることは、これほど地震が方々で頻発している近年、一番の不安点であったことは確かです。

小田急小田原線、小田急江ノ島線の分岐点である相模大野駅で降車すると、コリドー街をまっすぐに見下ろすように2階エントランスが広がる伊勢丹相模大野店は、閉店した今でも雄姿を現しています。

何が違うかと言えば、コリドー商店街が伊勢丹相模大野店閉店とともに衰退してしまったということ。事実大型のチェーン店の中にはこれを機に閉店してしまったものがあります。こうなるとシャッター街の印象は否めません。

伊勢丹相模大野店の閉店を待たずにレガロビルから撤退したエブサン。風のうわさでは、伊勢丹相模大野店の専門店の一つがレガロの1階に入るか?ということでしたが、10月に入っても何が入るのかは定かでなく、オープンの日だけが裏口のガラスに張り出されている始末。

そしてエブサンレガロ店最終日。閉店準備でかなり品物のしぼられた店には全国のファンが引きも切らさず店を訪れ、恒例の写真撮影を行い、閉店時間を1時間延長しての盛況ぶり。

最終日にエブサンを訪れたファン。AKRのツイッターから引用

なぜファンが全国から訪れるのかというと、ブログファンのみならず“ぼくのりりっくのぼうよみ”、“奇妙礼太郎”、“official髭男dism”といったアーティストの、オフィシャルグッズやミュージックビデオにイラストを提供するなどの活動を通じて、クリエイターであるAKRの作品を知りファンになったから、その一言につきます。

さらにTwitterとInstagramを駆使し、フォロワーになればすべて更新情報が得られるようになっており、ブログも連動しているのでタイムリーにエブサン情報をつかむことができるのです。

ブログメーンで構成されているいらEVERYDAY SUNDAYのウェブサイト。ウェブサイトは凝った作りではないものの、Twitter、Instagramと連動している。

ウェブサイトhttps://edsunday.jimdo.com/

エブサンの魅力とは? キーワードは“ほどよい…”

EVERYDAY SUNDAYの魅力とはいったい何なのでしょう?趣味のいい古着やお洋服、小物や雑貨、キャラクターグッズに共通する感覚---それは、オーナーのAKRの“ほどよさ”、何事に対しても“○○すぎない”感覚。甘すぎず、辛口過ぎないテイスト、高尚過ぎず、低俗過ぎない“ほどよさ”が付き合いやすさにつながっていると言えそうです。

筆者自身はキャラクターの魅力というよりも、AKRのブログにこそ魅力が満載されていると感じています。ブログには、そこかしこにちょっとした毒が仕込まれています。誰もが持つようなジェラシーや欲求不満、怒りなど、どちらかと言えばネガティブになりがちな内容でもちょっと笑ってしまうような筆致で軽妙にブログ内で展開しているのです。

中毒性のあるブログの面白さと、女性客の心にぴったりと沿うようなファッション感覚のギャップも不思議な魅力なのかもしれません。

EVERYDAY SUNDAYレガロ店は、おもちゃ箱をひっくり返したような面白さがありました。ネットショップには掲載しきれないがらくたのような可愛いものが実店舗では所狭しとひしめき合っていました。

モラハラやパワハラ、セクハラと、コンプライアンスにうるさい方々には目くじら立てられるような内容でも、ブログでは鼻で笑ってしまうように描かれています。
キャラクターのくまのまーくんもまた、可愛いばかりではありません。ダメなところ、ドジなところを愛情をもってあざ笑うことができる、そうしたほどよい毒のあるところが魅力と言えるのです。

そしてAKRのほどよい2.5枚目的風貌も実店舗での繁盛ぶりを裏打ちするものでした。
ブログやTwitterにちらっと垣間見ることができるAKRのプロフィール。実際会ってみるとほどよいハンサムなのです。それと、性別も不思議な感じ。外見は男性ではあるけれど、洋服や雑貨や小物をセレクトしているのが極めて繊細で気が利いているのです。ネオ・フェミニンというか、ジェンダーレスが進んだ現代では言葉選びに非常に苦戦するのですが、おおむね近い言葉があるとすれば、本当に女子力が高いというか。

チラリズムの美学か?ちょっとしか見せないAKRのプロフィールは、その風貌を知りたい欲求にかられる

作風は次々回以降のクリエイターズファイルで深堀することとして、エブサンレガロ店はまさにそんな“そこそこハンサムな店長のいる店”であり、“隣のきさくなお兄さんと話しができる店”であり、“まーくんを描いているクリエイターが店番している店”だったのです。

長い年月をかけ、そこまでに成長した店。AKRの飛躍がレガロビルの事情で潰える(ついえる)とはとても考えられない。

AKRのクリエイターとしての道はこのレガロ店の閉店で始まると冒頭にお話ししました。彼がここでレガロ店に決別したのは、まさにクリエイターとしての歩みを確かにすべき道が開いているからです。

10月22日、世がまさに令和の式典で沸いているその日に、渋谷の丸井でEVERYDAY SUNDAYのポップアップストアが1週間限定で始まります。そのライフスタイルも脱力系であるAKRが、自分からセルフプロデュースを駆使してチャンスをつかみ取ったとは思えないからこそ、どんな店になるのか興味が湧きます。

ポップアップストア告知もTwitterで

この模様は次回、「クリエイターAKRの疾風怒涛の3か月 渋谷ポップアップストア編」で詳しくお伝えします。

さらに11月1日11時、1が5つも並ぶ、何だか縁起が良さそうなその日に、キャラクターグッズを主とした店として相模大野銀座というローカルエリアでEVERYDAY SUNDAYは再び始動します。

新店の様子やクリエイターAKRについては、クリエイターズファイル内“どうしてそこナンスカ?”で近々特集します。お楽しみに。

新店舗の準備もAKR流にぼちぼち、準備中

店舗情報(2019年10月8日時点)

店舗名       EVERYDAY SUNDAY
オンラインショップ http://everydaysun.thebase.in/
公式サイト     https://edsunday.jimdo.com/

今井 美枝子
WRITER PROFILE

今井 美枝子

1965年生まれ。化学メーカーのテクニカルライターと車両板金塗装専門誌記者を経て、フリーランスライターへ。チームでインタビュー記事や企画など、コンテンツのプロデュースも行っています。

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