2021.03.17

アニメのススメ。 -戦時中に突如花開いた暴走するアニメーション。名匠ボブ・クランペットの作品から辿る1940年代のアメリカ社会

普段何気なく見ている、数々のアニメ。幼い頃に見ていたあの作品、今流行りのこの作品も、少し見方を変えるだけで違った楽しみ方が現れてきます。

このシリーズでは、今までとは少し違ったアニメの見方、すなわち「アニメのススメ」を紹介していきます。あの作品、この作品に隠された秘密を、一緒に解き明かしていきましょう。ただ「見る」だけでは決して出会えなかった作品との素敵な出会いが待っているかもしれません。

アニメを注意深く観ていると、多くのアニメが社会情勢や時代背景、そしてそれらに沿った潮流を反映していることがわかります。東日本大震災の影響を色濃く映し出した『君の名は。』や、コロナ禍におけるサブスクリプションの隆盛によって急速に大衆に浸透した『鬼滅の刃』などの例が記憶に新しいでしょう。

そんな社会情勢を反映したアニメの古い一例として、本記事では1930年代から1940年代にかけてワーナー・ブラザースのカートゥーン(短編アニメーション映画)を手がけていたレオン・シュレジンガー・プロダクションから多数の作品を世に送り出した、ボブ・クランペットというアニメーション監督の作品を特集していきます。

太平洋戦争が始まって間もない頃に突如自由性を獲得し、破天荒な作品を次々と送り出したクランペット。彼の作品から垣間見える1940年代のアメリカ社会に迫ります。

知られざる名匠ボブ・クランペット。彼は伝説のアニメーション監督だった!

皆さんは『バッグス・バニー』や『ダフィー・ダック』、『トゥイーティー』といったキャラクターをご存じでしょうか?

現在の日本でもアパレルグッズに採用されるなど、人気を集めているこのキャラクターたち。元々は、アメリカの映画会社、ワーナー・ブラザースによって、1930年代から1960年代にかけて配給された『ルーニー・テューンズ』というカートゥーン・シリーズから生み出されたキャラクターだったのです。

1940年代中盤までの『ルーニー・テューンズ』は、配給会社であるワーナー・ブラザースの傘下にあったレオン・シュレジンガー・プロダクションのもとで作品が制作されていました。テックス・アヴェリー、フリッツ・フリーレング、フランク・タシュリン、ボブ・クランペット、チャック・ジョーンズといった、後にカートゥーン史に大きな名を残す監督たちがしのぎを削り、多数の傑作を演出していたのです。

そして、この『ルーニー・テューンズ』で1930年代後半から1940年代中盤にかけて多数の傑作を生み出した監督の一人が、ボブ・クランペット。日本では未だにあまり知られていない監督ですが、その作風は非常に過激かつ暴力的で、良い意味でスピーディーな狂気に溢れた作品を多数監督した名匠なのです。

クランペットはアニメーターとしてワーナーでのキャリアをスタートさせ、1937年には監督に昇進。5年ほど白黒作品を中心に演出した後で、ワーナーからMGMに移籍したテックス・アヴェリーの後任としてカラー作品の演出に取りかかります。クランペットの本領が本格的に発揮されるようになるのは、このカラー化以降の作品群です。『白雪姫』の黒人版パロディとして作られた『Coal Black and de Sebben Dwarfs』(1943年)、本の中から飛び出したダフィ―・ダックやオオカミたちが縦横無尽に大暴れする『Book Revue』(1946年)など、ワイルド極まりない傑作をわずか数年の間に連続して発表するのです。

この時期のクランペットの作品を一言で表すならば、「暴走」という言葉が最も相応しいでしょう。タガが外れたかのように縦横無尽に躍動するアニメーション、過激かつ暴力的なギャグ、あまりにスピーディーなテンポとタイミング、エネルギッシュな声優の演技と音楽。そのすべてが「暴走」という言葉で形容できるものなのです。

自由すぎる作画と演出から垣間見える1940年代のアメリカ社会

前章で挙げたように、「自由すぎる」カートゥーンを最も得意としていたのはクランペットです。ただ、1940年代前半のカートゥーン業界では、どのスタジオの作品にもこうした暴走の空気が漂っていました。それまでの『ミッキーマウス』のような朗らかでかわいいキャラクターに代わって、『ウッディー・ウッドペッカー』『トムとジェリー』『ドナルドダック』と、より過激で暴力的なキャラクターが開発されるようになったのです。

こうした変化は、1940年代のアメリカにおける社会情勢の変化が関係しています。1941年に太平洋戦争が開戦し、アメリカ国内の大衆は戦争ムードに包まれました。1930年代初頭に発生して、アメリカ社会に暗い影を落としていた大恐慌から一転、戦時国債の流通を通じて景気も回復していきます。そんな社会の動きに比例して、カートゥーンも攻撃性を増していったのです。これはキャラクターが「悪者」と認めた者に対して容赦なく徹底的に攻撃するという価値観を、大衆が求めるようになったということであり、アメリカ社会そのものが「暴走」していたと解釈することができます。

アニメは社会を反映する。これからのアニメの行く末は?

ボブ・クランペットの「暴走」した作品が1940年代の「暴走」したアメリカ社会を反映していたように、アニメは多かれ少なかれ社会情勢や時代背景、そしてそれらに沿った潮流を反映しています。

2020年は、新型コロナウイルスの流行によって、世界全体が影響を受ける年となりました。マスクを着用することが当たり前になり、様々な面での制約を強いられることになった社会。この情勢は、今後のアニメーションの方向性にどのような影響を及ぼしていくのでしょうか。制約された社会の中に、少しでも自由と希望を見出せる作品が生み出されるのか、もしくはがんじがらめになった制約の中に表現を閉じこめてしまうのか。その方向性の舵は、未来の社会を担っていく私たちが握っているといえるでしょう。

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かねひさ和哉

かねひさ和哉

2001年生まれの大学生ライター。幼少期に動画サイト等で1930-40年代のアメリカ製アニメーションに触れ、古いアニメーションに興味を抱くように。以降活動の場を広げ、研究発表やイベントの主催などを行ってきました。とにかく「動く絵」ならなんでも飛びつく筋金入りのアニメ/映画好き。 https://note.com/kane_hisa
Twitter:@kane_hisa

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