なんで1周って360°なの? アナログ時計を眺めながら数学的な秘密を探ろう

みのきち
みのきち
2021.05.24

普段、私たちが見ているこの世界。
ほんの少しだけ「数学」を知ってみると、意外な奥行きが見えてくるかもしれません。

今回は「アナログ時計にまつわる数学」を紹介します。

アナログ時計を観察してみると、不思議なことがたくさんあります。

例えば、1時間で長針が1周360°回転しますが……そういえば、どうして1周って360°なんでしょうね?

アナログ時計の不思議

今、あなたの近くにアナログ時計はありますか?

最近は、スマホやパソコンで時間を確認することが多いので、デジタル時計を使っている人の方が多いかもしれませんね。

とはいえ、職場やお店の掛け時計、腕時計など、様々な場面でアナログ時計を見かけます。円盤に書かれた1から12までの数字と針をパッと見て、時間をすぐに確認できるなんて、便利な道具ですよね。

そんなアナログ時計ですが、よくよく考えてみると、いくつか不思議なことがあります。

例えば、円盤に書かれた1から12までの数字。なんで「1から12」なんでしょうね?「1から10」の方が、キリが良い気がしませんか?

他にも、1時間経過すると、長針がぐるりと1周360°回転しますよね。なんで「1周は360°」なんでしょうね?「1周は100°」の方が、キリが良い気がしませんか?

さらに言えば、それぞれの数字の間は5等分されており、合計60分割で「60秒・60分」を表現していますよね。なんで「60秒・60分」なんでしょうね?これも「100秒・100分」の方が、キリが良い気がしませんか?

「円盤の数字は1~12、1周は360°、1分は60秒、1時間は60分」を「円盤の数字は1~10、1周は100°、1分は100秒、1時間は100分」とした方が、キリが良さそうなのに、なぜそうしないのでしょうか?

もしも1周を100°としたら…?

まずは「1周は360°」について考えてみることにしましょう。

「1周は360°」は人間が決めたルールのようなものです。そのため、これを変更して、思考実験しても何の問題もありません。

試しに「1周は100°」として、考えてみましょう。もしかしたら、360°よりも便利かもしれませんよね!

では、丸いピザを等分することを考えてみましょう。あなたは分度器(半周50°)を持っていて、きっちり角度を測って等分するとします。

もしも、2人でピザを分けるならば、「1周100°」を2等分するので「50°ずつ」に分けることになりますよね。

@ナンスカ

4人でピザを分けるならば、「1周100°」を4等分するので「25°ずつ」に分けることになりますよね。

@ナンスカ

「\(100 \div 2\)」と「\(100 \div 4\)」、どちらも計算はとっても簡単。「1周100°」でも良さそうですね!

では、次に3人でピザを分けることを考えてみましょう。

すると、

\[
100 \div 3=33.3333333 \cdots
\]

となり、残念ながら、割り切れません。

つまり、分度器を使ってピザを3等分する場合、「33.333333…°」を測って分けることになります。これは困りましたね……。

@ナンスカ

また、6等分の場合は「16.6666666…」、9等分の場合は「11.1111111…」を測ることになります。これらも、なかなか大変そうです。

それでは、「1周は360°」に戻して、同じことを考えてみましょう。

2等分: \(360 \div 2=180\)
3等分: \(360 \div 3=120\)
4等分: \(360 \div 4=90\)
6等分: \(360 \div 6=60\)
9等分: \(360 \div 9=40\)

となるので、どれもキッチリ割り切れています。こちらの方が分度器(半周180°)で測りやすいですね!

比較のため、100と360を2等分~10等分した数を書いた表を見てみましょう。

等分数 360 100
2等分 180 50
3等分 120 33.33333…
4等分 90 25
5等分 72 20
6等分 60 16.66666…
7等分 51.428571… 14.285714…
8等分 45 12.5
9等分 40 11.11111…
10等分 36 10

 

100は「2, 4, 5, 10」の4個の数でしか割り切れていませんが、360は「2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 10」の8個の数で割り切れています。こんなにも差があるんですね!

ということは、「1周は360°」を採用した方が何かと便利そうです。

私たちの日常に溶け込んでいる「高度合成数」

突然ですが、小学校で習った「約数」を覚えていますか?

例えば、6の約数は「6を割り切る数(正の整数)」なので「1, 2, 3, 6」となります。7の約数は「1, 7」となり、10の約数は「1, 2, 5, 10」となります。
(※正の整数とは、1, 2, 3, 4, 5, …のような数のことです。6の約数を「6を割り切る整数」とすることもありますが、今回は正の整数に限定します)

この「約数」の個数が多いほど、割り切る数が多くなり、等分するときに便利な数となっているのです。

では、先ほど扱った100と360の約数をそれぞれ求めてみてください。ちょっと大きい数ですが、ぜひチャレンジしてみてくださいね!

100の約数は「1, 2, 4, 5, 10, 20, 25, 50, 100」の9個です。

360の約数は「1, 2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 10, 12, 15, 18, 20, 24, 30, 36, 40, 45, 60, 72, 90, 120, 180, 360」の24個です。

3倍近い差がありますね!

「100よりも360の方が大きいから約数の個数が多いのかな」と思った方もいるかもしれませんが、大きさの違いだけが要因というわけではなさそうです。

例えば、350の約数は「1, 2, 5, 7, 10, 14, 25, 35, 50, 70, 175, 350」の12個なので、360の約数の個数の半分しかありません。他にも、400の約数は「1, 2, 4, 5, 8, 10, 16, 20, 25, 40, 50, 80, 100, 200, 400」の15個です。400の方が360より大きいのにも関わらず、360の約数の個数の方が多いですね。

どうやら360は、特別に約数の個数が多い数のようです。

実は、このような「約数の個数が多い数」を表す「高度合成数」というものがあります。

「高度合成数」とは「正の整数で、それ未満のどの正の整数よりも約数の個数が多いもの」のことです。ちょっと難しそうですが、具体例を見てみると、わかりやすいですよ。

例えば、1~12の約数の個数を表にして考えてみましょう。

正の整数 約数の個数
1 1
2 2
3 2
4 3
5 2
6 4
7 2
8 4
9 3
10 4
11 2
12 6

 

ここで、6に着目してみます。6未満の数である「1, 2, 3, 4, 5」の約数の個数は、それぞれ「1個、2個、2個、3個、2個」ですよね。そして、6の約数の個数は「4個」です。つまり、6の約数の個数は、自分より小さい1~5の約数の個数よりも多いことがわかります。

このような「自分より小さいどの数よりも約数の個数が多いもの」を「高度合成数」と呼びます。

上の表を見ながら、高度合成数を列挙してみると「1, 2, 4, 6, 12」が高度合成数であることがわかります。

さらに、大きな数まで調べて、高度合成数とその約数の個数を列挙してみると……

高度合成数 約数の個数
1 1
2 2
4 3
6 4
12 6
24 8
36 9
48 10
60 12
120 16
180 18
240 20
360 24
720 30

 

となります。

この表に書かれている高度合成数、「なんかよく見る数だなあ」と思いませんか?

例えば

12: アナログ時計に書かれた1~12の数字、1年は12ヶ月、1ダースは12個
24: 1日は24時間
60: 1分は60秒、1時間は60分
360:  1周は360°

ですよね。アナログ時計を観察しているときに出てきた「円盤の数字は1~12、1周は360°、1分は60秒、1時間は60分」の「12, 360, 60」は全て高度合成数なんですね!

このように、さりげなく高度合成数は日常に溶け込んでいます。そして、私たちは、これらの数の便利な性質の恩恵を、知らず知らずのうちに受けているのです。

例えば「四半期」も「12ヶ月を4等分すると3か月になる」からこそ成立しています。もしも、1年が10ヶ月だった場合、4等分すると2.5ヶ月となってしまいます。

他にも、お菓子が12個入りや24個入りであれば、家族や友人と等分しやすいですよね。2人でも3人でも4人でも6人でも、きっちり分けることができます。

こんな視点で、身の周りの数を眺めてみると、今まで気づかなかった発見が色々ありそうです。そういえば、干支の十二支や、大安や仏滅などの六曜も「12と6」で高度合成数ですね!

ぜひ、身近な「高度合成数」を探し出してみてくださいね。そこには何か秘密があるかも……。

補足

今回の記事は「高度合成数の利便性」を解説したものに過ぎません。時間や暦などにまつわる数字の採用理由には、さまざまな歴史的経緯が関わっているようです。
「1日はなぜ24時間で、時計は1周12時間なのか?」(2022/1/9参照)では、

(前略)古代バビロニアで暦や時間体系を決めるにあたっては、数学、天文学、占星術など当時のあらゆる学問、知識を総合的に考えて決定されたのでしょう。

と記載されています。

みのきち
WRITER PROFILE

みのきち

東京生まれ東京育ち。大学と大学院で数学を専攻。最近は、数学の命題をプログラミングして具体例を確かめることにハマっている。入浴剤とドリップコーヒーを集めるのが好き。ドイツ語の勉強中。散歩がてらパン屋を見つけると入ってしまう。

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