「借金が雪だるま式に増える」を数学的に考えてみよう ~複利法と指数関数~

みのきち
みのきち
2022.03.16

普段、私たちが見ているこの世界。
ほんの少しだけ「数学」を知ってみると、意外な奥行きが見えてくるかもしれません。

今回のテーマは、私たちの生活に欠かせない「お金」にまつわる数学です。

ローン、預金、資産運用……大人になると、誰もが考えなければならないお金の話。そのなかでも、今回は「利息」について、考えていきましょう。

借金が雪だるま式に増える

「借金が雪だるま式に増える」という言葉がありますよね。

雪だるま 写真:Unsplash

雪だるまをつくるとき、まずは手で固めて小さな雪玉をつくり、それを転がしながら、雪を付着させていき、雪玉を大きくしていきます。

雪玉は転がすごとに、どんどん大きくなっていくので、「最初はあんなに小さい雪玉だったのに!」と驚きますよね。

そんな風に、借金も大きくなっていく……という意味が「借金が雪だるま式に増える」という言葉に込められています。

では、この「雪だるま式」の様子を、数学の視点から探っていきましょう。

1000円だけ借りたはずなのに……!?

まずは、架空のお話を紹介します。

ある日、太郎さんは、昼食代が足りなかったので、次郎さんに「1000円、貸して」とお願いしました。

すると、次郎さんは「いいよ。でも、1ヶ月経つごとに、1割増やして返してほしい。1ヶ月後に返すならば、1000円を1割増やして、1100円。2ヶ月後に返すならば、1100円を1割増やして、1210円。3ヶ月後に返すならば、1210円を1割増やして、1331円ね」と言いました。

太郎さんは、この提案を受け入れて、次郎さんから1000円を借りることに。返済が遅れても、数百円多く支払うだけならば、問題ないと考えたのです。

少額の借金だったため、太郎さんは、借金のことをすっかり忘れ、返済することなく月日が過ぎていきました。

そして、12ヶ月後。次郎さんは、太郎さんに「あのときの借金返してよ」と言いました。

太郎さんは「いいよ。いくらになってる?」と聞いたところ、次郎さんは「小数点以下切り捨てで、3138円」と告げたのです。

なんと、借金は3倍以上に!太郎さんは、次郎さんに騙されているのでしょうか?

写真:Unsplash

確認するために、次郎さんへの返済額を計算してみましょう。

1ヶ月後:\(1000\times 1.1=1100\)
2ヶ月後:\(1100\times 1.1=1210\)
3ヶ月後:\(1210\times 1.1=1331\)
4ヶ月後:\(1331\times 1.1=1464.1\)

となっていくので、1.1を掛け算していくことで、計算できます。

この計算をくりかえして、表にしてみると……

0ヶ月後 1000
1ヶ月後 1100
2ヶ月後 1210
3ヶ月後 1331
4ヶ月後 1464
5ヶ月後 1610
6ヶ月後 1771
7ヶ月後 1948
8ヶ月後 2143
9ヶ月後 2357
10ヶ月後 2593
11ヶ月後 2853
12ヶ月後 3138

(小数点以下は切り捨て)

確かに、12ヶ月後には3138円となっているのです。

0ヶ月後と1ヶ月後、1ヶ月後と2ヶ月後、2ヶ月後と3ヶ月後の差額は、それぞれ100円、110円、121円ですが、10ヶ月後と11ヶ月後、11ヶ月後と12ヶ月後の差額は、それぞれ260円、285円となっていますね。

返済額は、じわじわと加速しながら増えていくことがわかります。

もっと先まで考えてみましょう。

2年後、つまり、24ヶ月後の返済額は、9849円(小数点以下切り捨て)となり、約10倍の額となります。

5年後、つまり、60ヶ月後の返済額は、30万4481円(小数点以下切り捨て)となり、300倍以上の額となります。

10年後、つまり、120ヶ月後の返済額は……なんと9200万円以上となるのです!

最初は1000円で、増え方も数百円単位だったのに、こんなにも大きくなるなんて驚きですよね。

今回のケースのように、前の期間の利息を繰り入れて、次の期間の新元金として計算していく方法は「複利法」と呼ばれています。

0ヶ月後から1ヶ月後は元金1000円だけに対する利息を考えていましたが、1ヶ月後から2ヶ月後は1100円、つまり、「元金1000円+利息100円」を新元金として、これの1.1倍を計算することで、1210円としていましたよね。

そして、先ほど計算した通り、複利法を用いると、最初の利息が少額だったとしても、年月を追うごとに、加速しながらどんどん大きくなっていくのです。

そのため、短期的だけでなく、「長期的にどうなるか?」もしっかり確認しておく必要があるんですね。

今回は借金をテーマにしましたが、資産運用でも、同様の計算をすることがあります。来年、再来年だけでなく、数十年後のこともよくよく考えて、計算しなければならないことがわかりますね。

※次郎さんのような行為を、真似することはやめましょう。違法行為に該当する可能性があります。

複利法と数学

実は、この複利法は、数学の重要なトピックと関わっています。

そのことを確認するために、もう一つ、架空のお話を紹介します。

次のお話は、お金に関することではなく、「招待制SNS」がテーマです。複利法とは関係なさそうに見えますが、一体どんなつながりがあるのでしょうか?

写真:Unsplash

とある招待制SNSがリリースされたとします。

このSNSは、「1人のSNSユーザーが、新規に3人の友人を招待できる」というもの。

まずは、SNS運営者の1人が、3人を招待しました。これを第1段階としましょう。

そして、その3人もそれぞれ、3人を招待すると、9人を新規に招待したことになります。これを第2段階としましょう。

さらに、その9人もそれぞれ、3人を招待すると、27人を新規に招待したことになります。これを第3段階としましょう。

このように、「招待された人が、新規に3人招待すること」を繰り返していった場合、どのようになっていくのでしょうか?

まずは、第10段階までの新規SNSユーザーを計算してみましょう。3を掛け続けていけば良いので、以下のようになります。

 

第1段階 3
第2段階 9
第3段階 27
第4段階 81
第5段階 243
第6段階 729
第7段階 2187
第8段階 6561
第9段階 19683
第10段階 59049

 

ここまででも、かなり大きな数になりました。

「1人から始めて、3人しか招待できない」というルールだったのに、意外なほど増えていきますね。

さらに先まで計算してみましょう。

第15段階までいくと、1434万8907人となります。

第16段階までいくと、4304万6721人となります。

第17段階までいくと、1億2914万163人となります。日本の人口くらいの人数になりました。

そして、第20段階までいくと……34億8678万4401人となるのです!

あっという間に、とんでもない人数になってしまいました。

このように、1より大きい一定の数を掛け算し続けていくと、想像以上にどんどん大きな数になっていくのです。

このことを、数学では「指数関数的な増え方」などと表現します。

先ほどの借金の例でも、1.1を掛け続けていましたよね。つまり、複利法も「指数関数的な増え方」をするものの一例なのです。

では、指数関数とはどのようなものなのか、見ていきましょう。

まず、招待制SNSの例を数式にしてみると、第\(x\)段階の新規SNSユーザーを\(y\)人としたとき

\[
y=3^x
\]

となります。

数式にすると、一見難しそうに見えますが、

第1段階:\(y=3^1=3\)
第2段階:\(y=3^2=3\times 3=9\)
第3段階:\(y=3^3=3\times 3\times 3=27\)

のように、具体例を計算してみると、納得いくと思います。

現状では、この\(x\)には、\(1,2,3,4,\cdots\)のような正の整数と呼ばれる数のみを代入していますが、代入できる数の範囲を、実数と呼ばれる数にまで拡張することができます。

実数は、「数直線上の数」に対応しており、小中学校で学ぶ、ありとあらゆる数が実数に含まれています。例えば、\(1.25\)などの小数や、円周率\(\pi\)も、実数です。

\(3^x\)の\(x\)に代入する数を、正の整数だけでなく、実数へと広げることが可能なので、例えば、\(3^{1.25}\)や\(3^{\pi}\)の値も考えることができるようになります。

「どのように実数へ拡張するのか?」については、高校で学ぶ数学Ⅱのテキストなどを参照してみてくださいね。

そして、\(x\)に実数を入れることができるようになった

\[
y=3^x
\]

という関数は、「3を底(てい)とする指数関数」と呼ばれています。

では、この関数のグラフを描いて、増え方の様子を見てみましょう。

原点付近では

built by Desmos

となっていて、比較的なだらかな増え方に見えます。

しかし、縮尺を変えて、広い範囲でグラフを見てみると……

built by Desmos

急激に増えていく様子がわかりますね!

このように、「指数関数的な増え方」では、最初のうちは小さな増え方に見えても、どんどん加速していき、あっという間に驚くほど大きくなってしまう性質があるのです。

借金の例も数式にしてみると、\(x\)ヶ月後の返済額を\(y\)円としたとき

\[
y=1000 \times {1.1}^x
\]

となります。これも、\(x\)に代入できる数を実数へと拡張すれば、\({1.1}^x\)という部分が「1.1を底(てい)とする指数関数」なので、\(3^x\)の場合と同様に、「指数関数的な増え方」をしていきます。

今回挙げた2つの例では、1.1を掛けたり、3を掛けたりと、「1より大きい一定の数を掛け算し続けていく」という、とてもシンプルな計算をしていただけなのですが、その増え方は凄まじいものでした。

理系の人は、このような様子を「発散スピードが速い」といった表現することがあります。ざっくり言うと、「正の無限大へ向かうスピードが速い」という意味です。\(y=2x\)などの一次関数をグラフ化した右肩上がりの直線も、正の無限大に向かっていきますが、その速度は、指数関数には全く及びません。それほどまでに、指数関数は圧倒的なのです。

このように考えると、なかなか恐ろしいものですが、複利法はじめ、私たちの身の回りには「指数関数」が、さりげなく潜んでいます。

もしも、日常のなかで「1より大きい一定の数を掛け算し続けていく計算」を見つけたときは、電卓などで計算しながら、その行く先を注視してみると良いかもしれません。

【記事内のグラフ描画に使用したサイト】
Desmos https://www.desmos.com/calculator?lang=ja

みのきち
WRITER PROFILE

みのきち

東京生まれ東京育ち。大学と大学院で数学を専攻。最近は、数学の命題をプログラミングして具体例を確かめることにハマっている。入浴剤とドリップコーヒーを集めるのが好き。ドイツ語の勉強中。散歩がてらパン屋を見つけると入ってしまう。

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