ミクロの世界に広がる幻のテクノロジー「トシカネ」の魅力を伝える -「Missinglink」プロジェクト

センノヂ
センノヂ
2021.02.16
「Missinglink」プロジェクト

私たちを取り巻くこの世界は日々進歩し続け、昔と比べ驚くほどに便利になっています。
欲しい情報を手にするのも、買い物するのもすべて指一本でこと足りてしまう。画面の向こうにいる相手の顔を見ながら話すのなんて、最早普通の世の中…かつて夢見ていた近未来のような暮らしが、今当たり前のように行われているのです。

昔は謎に満ちていた事象も、解明できないことなど無さそうにも思える今日この頃ですが、ロストテクノロジーと呼ばれ、現代のあらゆる技をもってしても再現不可能なテクノロジーがあるのをご存じでしょうか?

確かにあったはずなのにいつしか忘れ去られ、失われる──そんなテクノロジーがこの日本にも存在します。これにスポットをあて、探求するべく動き出したのが「Missinglink」というプロジェクト。

今回は「Missinglink」のプロジェクトをご紹介しながら、その第一弾、幻の有田焼のジュエリー「トシカネ」の魅力も含めてお伝えしていきたいと思います。

ボタンからはじまった、歴史に埋もれたテクノロジーと出会う旅

時代の流れやさまざまな理由から人々に忘れ去られてしまったり、歴史に埋もれて、いつしか再現が不可能となってしまった──「Missinglink」はそんなロストテクノロジーを見つけ出し、深く掘り下げ、その史実やストーリーを後世に伝えるプロジェクトです。

立ち上げるきっかけとなったのは、佐賀県の有田で見つかった陶磁器で作られた軍服のボタン。割れ物とは思えないほどの強度と、精密な技巧を持つその姿に魅せられ、プロジェクトメンバーたちがボタンの復刻をしたいと考えたのがはじまりでした。

「現在のテクノロジーを駆使すれば、再現できるはず…」そんな思いがあったものの、素材、製法が不明であり、再現は不可能。まさにロストテクノロジーと出会った瞬間でした。

「Missinglink」プロジェクト

なんとしてでも復刻させたい思いから、さらに全国を訪ね続ける中で出会ったのが「陶磁器の宝石」と呼ばれる「トシカネ」。圧倒的な美しさと生々しいまでのリアルさは、異彩を放っていました。

しかし、現在「トシカネ」の職人はほとんど残っていないうえに、技術は門外不出──そう、この「トシカネ」も今や再生不可能なロストテクノロジーだったのです。
こうして魅力ある技術が失われる事実を目の当たりにしたことから、ロストテクノロジーを探し、立ち向かおうと、「Missinglink」というプロジェクトは立ち上げられました。

展示が企画されたのも、歴史の中に埋もれてしまった「トシカネ」の技術やストーリーが、未来の技術へとつながるヒントとなるよう…そんな思いからでした。

帯留め作りからはじまったポーセリンジュエリーブランド

「トシカネ」は、昭和6年(1931)創業の有田焼のジュエリーブランド。有田焼の窯元・小島俊一氏と有田焼の絵付師・南兼蔵氏によって、元々は帯留めのブランドとして立ち上げられたのがはじまりです。
ブランド名である「トシカネ」は、創業者2人の名前からそれぞれ一文字ずつをとって付けられたもの。

象牙や珊瑚、彫金などで作られるのが一般的であった帯留め。その中、焼き物で作られたものは大変珍しく、当時としても新しい発想だったことがうかがえます。

時代の流れや人々の好みにより、かたちを変えていくジュエリー

のちに太平洋戦争がはじまると、贅沢品として帯留めの制作が禁じられ、「トシカネ」は軍人微章作りに転じます。さらに戦後は進駐軍向けにアクセサリーを制作するようになります。

「トシカネ」は時代とともにかたちを変えながら、試行錯誤の中で独自のデザインを生み出していました。「トシカネ」のオリエンタルなデザインは欧米で大変人気を博し、一時は年間数万個の注文があったほど。

「Missinglink」プロジェクト

しかし、昭和60年(1985)の世界的な経済事情からアメリカへの輸出が完全に無くなったあとは次第に姿を消し、いつしか幻のジュエリーとなったのでした。

今となっては再現不可能な超絶技巧、オリエンタルで魅力的なデザイン、流通するのは現存するもののみという希少価値の高さ…これらの理由で、海外コレクターの間では再び人気を集めており、1円玉サイズのものが数万円の高値で取引されているのが現状です。

ミクロの世界で繰り広げられる、美の限界突破

日本情緒を感じさせるモチーフや、オリジナリティあふれるオリエンタルなデザイン。これらが、小さいものだと直径10mmほどのミクロの世界の中で表現されているというから驚きです!まさにスーパークラフトと呼べるでしょう。

緻密な彫刻で鱗や毛並みひとつひとつを再現し、さらに糸より細いラインで絵付けすることで陶磁器とは思えない繊細な「極限の美」を追及しています。

「Missinglink」プロジェクト

また、洋食器に使う絵の具を混ぜるなど、有田焼ではタブーとされた方法での絵付けも特徴。このような職人の試行錯誤によって、繊細でまるで生きているかのようなリアルな絵付けを実現しています。手に入りにくい原料を用いていていたため、色によっては再現不可能なものも存在します。

「Missinglink」とともに、過去と未来の「失われたつながり」を探す旅へ

「Missinglink」プロジェクト

新たなテクノロジーが次々に誕生し、私たちの暮らしはこの先ももっと便利になり続けるのでしょう。しかしそんな中で、私たちは多くのものを忘れてきてしまっているようです。
今あるものが、いつまでも変わらずに存在するということは、けっして当たり前ではないのかも知れません。

「Missinglink」プロジェクトでやろうとしているのは、昔は良かったとノスタルジーに浸るのではなく、新たな技術や情熱につなげられるようなきっかけを作ること。

現実的な旅に出るのがむずかしい今だからこそ…「Missinglink」とともに、過去と未来の「失われたつながり」を探す旅に出るのも、きっと素敵ですよ!

プロジェクト情報

プロジェクト名 Missinglink(ミッシングリンク)
公式サイト   https://missinglink2.mystrikingly.com/

センノヂ
WRITER PROFILE

センノヂ

昭和40年代のセンスに魅せられ古着やインテリアにハマるが、現在ではその頃に建てられたとおぼしきビルや住宅を愛でるのが何よりの癒し。いつか、自分でプロデュースした雑居ビルを建ててみたいです。

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