オンラインで感じる新しい「リアル」 / 「エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続」 (東京都写真美術館)

ぷらいまり
ぷらいまり
2020.09.12

いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。

この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。今回ご紹介するのは東京都写真美術館で開催中の展覧会「エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続」。

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《Signature, 2020》/ エキソニモ (2020)(写真撮影:ぷらいまり)

”展覧会は「リアル」な場で作品を見る方が豊かな体験に決まっている”という「当たり前」の意識が揺らぐほど、「展示室」と「インターネット会場」とでそれぞれ異なった魅力のある鑑賞が体験でき、オンラインのなかに新しい「リアル」を感じられる展覧会です。

リアルとデジタルデータの関係性を意識する「実会場」(地下1階展示室)

日本でのインターネット普及のきっかけとなったWindows95の発売から今年で25年。エキソニモは、その発売の翌年1996年に結成された、千房けん輔さんと赤岩やえさんの2人による日本のアート・ユニット。展示室では、その最初期の作品から最新作まで、24年間の活動を総括的に振り返ります。

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東京都写真美術館 地下1階展示室の展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

初期の作品は、キーボードから入力した文字をウェブページに侵入させることで、HTMLにバグを侵入させたり取り除いたりする作品《DISCORDER》(1999)など、観る人が入力した情報によってオンライン上の作品に影響を与えるような作品が並びます。当時、エキソニモ自身はそれらをアート作品という意識ではなく「遊び場みたいなものをつくる感覚」で、ネット上にアップしていったそうです。(エキソニモへのインタヴュー2020 より)

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《DISCORDER》 / エキソニモ (1999)(写真撮影:ぷらいまり)

このほか、マウスに様々な物理攻撃を加え、その時のデスクトップ上のカーソルの動きを記録した《断末魔ウス》(2007)や、キーボードをショットガンで撃ち、その時に入力されたテキストをタイトルとして金属板に刻む《Shotgun Texting》(2019)など、物理的には破壊されてしまうリアルの場での一度限りの入力と、デジタル上での繰り返し再現可能なデータ出力の関係を意識するような作品なども並びます。リアルな展示室で、実際に破壊されたマウスやキーボードとあわせて作品の映像やデータを見ると、そのリアルとデジタルデータの関係性を鮮明に感じられるようです。

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《断末魔ウス》 / エキソニモ (2007)(写真撮影:ぷらいまり)

「インターネット会場」での 美術館とは異なる鑑賞体験

一方、この展覧会には美術館の展示室での展示と連動した「インターネット会場」も存在しますが、こちらの会場には展示室とは違った大きな魅力が。

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インターネット会場のトップ画面(写真撮影:ぷらいまり)

美術館で展示されている全20点の作品解説はもちろんのこと、出品作品以外にも、エキソニモの過去の作品や参加した展覧会の情報、そしてその当時の世間の出来事などが、年表形式で詳細な情報にアクセスできるようになっています。これらの世間の出来事とそれと関連した作品へのリンクも気軽にたどれてしまうのは、インターネット会場ならでは。(膨大な時間軸を表す年表、作品に関連する「世間の出来事」はどこまで遡るのか、是非スクロールしてみてください。)

また、「オンライン・インスタレーション」といった、インターネット会場と展示室を接続する試みも。今回の展覧会のために制作された新作の《Realm》(2020)では、インターネット会場に現れるぼんやりとした風景が展示室の大きなスクリーンと連動しており、「You can’t touch there from your desktop/mobile(デスクトップ/携帯からそこに触れることはできない)」と表示された画面にタッチすると、画面上に指紋のような跡が映し出され、実会場のスクリーンに映し出された美しい風景のなかに、自分自身の指紋の跡がのこっていきます。また《UN-DEAD-LINK 2020》(2020)は、インターネット会場のゲームの中のプレイヤーである自分の手で人に触れると死に、ゲームの中の死と連動して展示室内のグランドピアノが鳴り響くなど、オンラインで鑑賞しながら、リアルの展示室に介入していくような作品です。美術館の会場や図録で作品を見ていくのとは全く違った鑑賞体験になっています。

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(写真撮影:ぷらいまり)
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《UN-DEAD-LINK 2020》/ エキソニモ(2020) 実会場の展示風景(上) とインターネット会場(下)(写真撮影:ぷらいまり)

今回、インターネット会場を充実させたのは、ニューヨーク在住のエキソニモのお二人が設営のための帰国ができない可能性があったことや、新型コロナの影響で美術館が臨時休館するなどのリスクを考えていたからとのこと。そうした状況下で、展覧会は現地で見るほうが”豊かな体験だ”という先入観があるなかで、オンラインとオフラインで優劣なく、それぞれの会場で異なる「体験」ができるというのはユニークな試みですね。

これからの新しいコミュニケーションを考える

美術館の地下1階展示室を出て、2階ロビーに設置されたこちらの作品《The Kiss》(2019)は、顔が映し出された2つのディスプレイが重ね合わされています。それは、ただ映像が映ったディスプレイという「物体」が重ねられているだけなのに、映像の微妙な”揺れ”から生々しさも感じられ、「触感」をも意識してしまいます。ビデオ通話でのコミュニケーションが日常のものになり、もしもそこに触覚などが加わるようになったら、リアルの場で「会う」体験の意味はどう変わっていくのだろう?など、コミュニケーションの未来にも思いを馳せてしまいます。

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《The Kiss》/ エキソニモ (2019)(写真撮影:ぷらいまり)

先ほど紹介した《Realm》(2020)では、インターネット会場の画面にタッチすることで自分の触った指紋のような跡が残りますが、不意に画面の中に他の人の指紋が現れることがあり、どこの誰かはわからないけれど、一緒に作品をみている”誰か”の存在を感じることができます。

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(写真撮影:ぷらいまり)
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《Realm》 / エキソニモ (2020) 美術館での展示(上) とインターネット会場での鑑賞風景(下)(写真撮影:ぷらいまり)

人と気軽に会えない日常や、ニュースで耳にする膨大な感染者数などにリアリティが感じられなくなりつつあるなか、インターネットを使ったコミュニケーションによって新しい「リアル」を感じることができる可能性を感じさせる展示でした。

会場まで足を運ぶのが難しい方も、ぜひインターネット会場を覗いてみてくださいね。

展覧会情報

エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続

エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続

会場  東京都写真美術館 地下1階展示室、2階ロビー
インターネット会場 https://un-dead-link.topmuseum.jp/
会期  2020年8月18日(火)~10月11日(日)
休館日 毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)、年末年始および臨時休館
料金  一般 700円/大学・専門学校生 560円/中高生・65歳以上 350円

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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