アートと緑に囲まれて 五感が解放される温泉旅館 / 板室温泉大黒屋・倉庫美術館

ぷらいまり
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2020.10.07

いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。

この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない場所をご紹介していきたいと思います。今回ご紹介するのは栃木県那須塩原市にある板室温泉 大黒屋。創業469年の「老舗旅館」と「現代アート」なんて意外にも見える取り合わせを特徴とするこちらの旅館、どんな旅館なのでしょうか?

板室温泉 大黒屋 エントランス photo by ぷらいまり
板室温泉 大黒屋 エントランス(写真撮影:ぷらいまり)

お庭も廊下もサロンも。アート作品に囲まれた旅館。

旅館に到着すると目に入る作り込まれたお庭。暖簾もなんだかカラフルで面白い形だし、館内の廊下にも作品が多数…

庭園《風の耕路》/ 菅木志雄 photo by ぷらいまり
庭園《風の耕路》/ 菅木志雄(写真撮影:ぷらいまり)

これらは全て、「もの派」の代表作家の一人・菅 木志雄さんの作品。1944年生まれで、68年の初個展から現在に至る50年以上の活動をなされている作家さんです。

板室温泉大黒屋 菅木志雄さん作 のれん「耕風」 photo by ぷらいまり
板室温泉大黒屋 菅木志雄さん作 のれん「耕風」(写真撮影:ぷらいまり)

菅木志雄さんの作品を中心に、多数の現代アーティストによる作品が、館内外のいたるところに展示されています。浴衣に着替えて温泉に向かいながらアート鑑賞ができてしまうなんて、なんだか不思議な感覚ですね。

館内の廊下を利用したギャラリー photo by ぷらいまり
館内の廊下を利用したギャラリー(写真撮影:ぷらいまり)

館内のギャラリー「大黒屋サロン」では月替りで展覧会が開催されています。常設の「何回来ても変わらずに再会できる作品」と、サロンでの「訪れる度に新しく出会える作品」があると、繰り返し訪れるの楽しみもできますね。

大黒屋サロン (「re:planter 村瀬貴昭展」(2019)の際の展示風景)
大黒屋サロン (「re:planter 村瀬貴昭展」(2019)の際の展示風景)

作品数は250点以上!壁一面の作品に圧倒される「菅木志雄 倉庫美術館」。

こちらの旅館、なんと「美術館」まであるんです。それが、菅木志雄さんの作品を常時展示するスペースとして2008年に開館した「菅木志雄 倉庫美術館」。

菅木志雄 倉庫美術館 入口  photo by ぷらいまり
菅木志雄 倉庫美術館 入口(写真撮影:ぷらいまり)

倉庫のようにたくさんの作品を保管、展示したいという菅さんの思いと、国内外の方々にまとめて菅さんの作品を観ることができるスペースを作りたいという代表の室井さんの想いから「倉庫美術館」と名付けられたこちらの美術館では1980年代から現在に至るまでの菅さんの作品およそ250点が展示されています。

鑑賞はツアー形式で、事前予約をすれば宿泊者以外でも参加が可能です。菅木志雄さんというアーティストについての説明から、菅さんが制作した5つの庭のインスタレーション、作品ひとつひとつの解説まで、代表の室井俊二さんが自ら軽快なトークで説明してくださいます。

《集空庭》/ 菅木志雄  photo by ぷらいまり
《集空庭》/ 菅木志雄(写真撮影:ぷらいまり)

「倉庫美術館」の中は圧巻。壁一面に多数の作品が並びます。例えば鉛筆や画鋲、木材の破片や糸のような身近な素材を使いながらも、それらの素材の軽快な並びかた、ユニークな素材の組み合わせ方や色使いなど、見ていくのが楽しい作品です。

倉庫美術館 内部  photo by ぷらいまり
倉庫美術館 内部(写真撮影:ぷらいまり)

「視覚」的な作品に見えつつ、これらの作品の多くはタイトルとなる「言葉」を作るところから始まり、そこからイメージを作り出しているのだそうです。意味を捉えるのが難しそうな作品も、こんな風に解説を聞きながら見ていくことができるのは嬉しいですね。

倉庫美術館 内部   photo by ぷらいまり
倉庫美術館 内部(写真撮影:ぷらいまり)

若手アーティストの支援も。

代表の室井さんは、2002年から12年間、毎年菅さんによる新作展を開催し、作品を買い上げながら、海外に作品を紹介するなどの活動を行われてきたと言います。

その後は、2017年まで毎年公募展を開催。現在も、大賞を受賞された方などの展示をギャラリーやサロンで定期的に行っているそうです。大黒屋から3分ほど歩いた場所にある「しえんギャラリー」でそうした大黒屋が支援する作家の作品を展示・販売したり、また、貸しギャラリーとして「○△□ギャラリー」といったギャラリーも運営したりもするなど、若手アーティストの育成・支援にも継続して力を入れているんですね。

しえんギャラリー。現在は今井貴広さん・木城圭美さん・對木裕里さんの作品を展示中。   photo by ぷらいまり
しえんギャラリー。現在は今井貴広さん・木城圭美さん・對木裕里さんの作品を展示中。(写真撮影:ぷらいまり)

もちろん、アート以外も。隅々まで心地よい温泉旅館。

アートの側面からばかり紹介してしまいましたが、もちろん、温泉旅館としてもとても心地よい空間です。例えば、お部屋でゆったりと楽しめる目にも美味しい季節食事に、お風呂は内湯・露天風呂・アタラクシアという黄土でつくられた暖かい部屋での黄土浴の3種類。

食事は部屋でゆったり   photo by ぷらいまり
食事は部屋でゆったり(写真撮影:ぷらいまり)

旅館のすぐ隣を流れる緑でいっぱいの那珂川のほとりを散歩して庭園のいろりでお茶をいただいたり、旅館内では好きな花器で自分で好きなお花を生けて部屋に飾ることができたり、美術書も充実した館内の図書室で本を楽しむこともできたり。

周辺の散策も楽しい   photo by ぷらいまり
周辺の散策も楽しい(写真撮影:ぷらいまり)

なぜ温泉旅館に現代アートなのか?代表の室井さんは以下のように語っています。

“なぜ、アートなのか。それは、アートの持つエネルギーが我々の持つ美意識に働きかけてくれるからです。日常忘れかけている心の美に気付き、それに触れる時、我々は本当の自分に出会えるのではないでしょうか。”(「感性論哲学からのアプローチ 進化するアートスタイル経営」 / 山本 英夫 (著), 室井 俊二 (監修) より)

時には忙しい日常から離れて、静かな空間でアートや緑に触れ、心の美を探してみるのはいかがでしょうか?

施設情報

板室温泉大黒屋

板室温泉大黒屋

住所  〒325-0111 栃木県那須塩原市板室856番地
TEL  0287-69-0226
FAX  0287-69-0497
E-mail onsen@itamuro-daikokuya.com
菅木志雄 倉庫美術館の鑑賞は予約制です。毎朝10時から菅が制作した5つの庭のインスタレーションも含めたツアーでご鑑賞いただけます。(日本語のみ)
時間  10:00から約1時間
料金  500円
※荒天の場合はツアーが中止になる場合があります。
※宿泊以外のお客様もご覧いただけます。事前にお電話で来館日、お名前、人数をお知らせください。 ツアー参加当日は10時までに大黒屋フロントで受付をお済ませください。
※ご希望の方は作品を購入することができます。

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WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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