2020.11.28

代表作から実験的作品まで。 彫刻の定義を柔軟に解釈する 彫刻家・名和晃平さん新作個展 「Oracle」(GYRE GALLERY)

彫刻家・名和晃平さん新作個展

いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。

この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。

今回ご紹介するのは、表参道にあるファッション複合ビルGYREの3階にあるGYRE GALLERYで開催中の「名和晃平 「Oracle」」。白い巨大な白い鹿の立体作品《White Deer》などで知られる彫刻家・名和晃平さんの個展です。今回の展示では代表的なシリーズの新作に加え、さまざまな新しい試みが行われています。

彫刻の定義を柔軟に解釈する 彫刻家・名和晃平さんの個展

今回の展示では、まず、名和さんの代表的な作品シリーズの新作を見ることができます。

(右) 《PixCell-Reedbuck (Aurora)》, (左) 《Dune》 / 名和晃平 photo by ぷらいまり
(右) 《PixCell-Reedbuck (Aurora)》, (左) 《Dune》 / 名和晃平

例えば、動物の剥製などのオブジェクトが大小様々なサイズのガラス球に覆われた《PixCell》シリーズ。「PixCell」とは、 Pixel(画素)とCell(細胞) を合わせた造語。オブジェクトを透明の球体で覆うことで、その存在を「映像の細胞」に置き換える立体作品です。ガラス球の中にまわりの風景が映り込むことでオブジェクトの境界はあいまいになっていくようです。新作《PixCell-Reedbuck (Aurora)》では、内部の剥製の表面には角度依存性のある色加工が施されている様子で、ひとつひとつのガラス球の中に玉虫色の世界が広がります。

《PixCell-Reedbuck (Aurora)》 / 名和晃平 photo by ぷらいまり
《PixCell-Reedbuck (Aurora)》 / 名和晃平

また、展示室の壁一面を覆う多数の直線状の絵画は《Moment》シリーズ。粘度を調整した絵具が入ったタンクに一定の圧力をかけ、支持体を移動させながらノズルから出る絵具によって描いた作品。人が直接「描く」のではなく、公転軌道など宇宙空間における力学や恒久的な運動のイメージと身体性、偶然性と意思を接続するような作品です。

《Moment#162》,《Moment#163》, 《Moment#164》/ 名和晃平 photo by ぷらいまり
《Moment#162》,《Moment#163》, 《Moment#164》/ 名和晃平

コロナ禍のなかで生まれた実験的作品群

代表作も並ぶ中、今回は実験的な新作も数多く展示されています。海外への渡航が難しくなった今年、名和さん自身がスタジオで過ごす時間が増える中で、様々な実験的試みを行ってきたのだそうです。

たとえば、こちらの《Blue Seed》という作品。

《Blue Seed_B》 / 名和晃平 photo by ぷらいまり
《Blue Seed_B》 / 名和晃平

一見すると白いキャンバスに描かれた絵画のようですが、描かれたオブジェクトは絶え間なく形を変え、定着しない「動く絵画」のようです。光によって変色する特殊な顔料が塗布されており、裏面からUVレーザーを受けることで青く発色しては徐々に消えていきます。発色する位置が変化しながら、経時で色がじわじわと消えていくことで、絵具のにじみのような不思議な効果が生まれ。ディスプレイ上でCGやアニメーションを見るのとはまた違った、不思議な魅力が感じられる作品です。

《Blue Seed_B》 / 名和晃平 photo by ぷらいまり
《Blue Seed_B》 / 名和晃平

また、過去にプログラマと協働し、ランドスケープの変容を物理シミュレーションで描いた作品を制作した経験から、今度は絵具を使ってその様子を表現出来ないか、という試行錯誤から始まったのが《Dune》シリーズ。

《Dune#16》/ 名和晃平 photo by ぷらいまり
《Dune#16》/ 名和晃平

複数のメディウムや粒度の違う絵具、水などを混合して支持体の上に流し広げ、メディウムの粘度と支持体の傾斜といった物質的・物理的な関係から様々な表情が現れるペインティングシリーズです。その大きな画面は、まるで航空写真で撮影した地形のよう。また、性質の異なるもの同士の関係から凹凸や素材の分離した表面が生まれるのは、自然現象によって地形が生成していく様子を箱庭的な視点で見ているような気分にもなります。

《Dune#16》/ 名和晃平 photo by ぷらいまり
《Dune#16》/ 名和晃平

このように作品ひとつひとつが実験的というだけでなく、ひとつの部屋に異なる作品シリーズが入り混じった状態で展示するのも、今回の展覧会で初めて行う実験的な取り組みなのだそうです。それぞれの作品シリーズは違った印象でありながらも、会場全体には不思議な統一感が感じられます。

現代の技術と伝統技術の融合も

《Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)》 / 名和晃平 photo by ぷらいまり
《Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)》 / 名和晃平

モノトーンを基調とした会場のなかで際立って見えるのは、鎌倉時代の「春日神鹿舎利厨子」へのオマージュとした、木彫漆箔仕上げの《Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)》(通称:雲鹿)。名和さんが近年取り組む、京都の伝統工芸復興プロジェクトから生まれた作品だそうです。名和さんが3Dシステム上でデータを制作し、仏師の方々によって木彫、漆塗り、箔押しなどの伝統的な技法によって作られたというもの。

《Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)》 / 名和晃平 photo by ぷらいまり
《Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)》 / 名和晃平

なお、この会場近くの明治神宮でも、明治神宮鎮座百年大祭に合わせて、本殿手前の南神門には雲鹿と同じ木彫漆箔仕上げで制作された鳳凰《Ho / Oh》(2020年11月3日までの展示)、明治神宮ミュージアム前には《White Deer (Meiji Jingu)》が展示されています。

《Ho / Oh》/ 名和晃平 photo by ぷらいまり
《Ho / Oh》/ 名和晃平

3Dモデリングならでは、というような複雑な立体形状でありつつ、3Dプリンタなどでは力学的に再現するのが難しい形状を、仏師の方々の知識と経験で木の目などを工夫することで成り立っている作品なのだそうです。まさに、現代の技術と伝統技術を融合させることで生まれた作品ですね。

《White Deer (Meiji Jingu)》/ 名和晃平 photo by ぷらいまり
《White Deer (Meiji Jingu)》/ 名和晃平

今回の展覧会のタイトル「Oracle」は、「神託・神意・助言を与えてくれるもの」などの意味をもつそうです。そのタイトルは、この《Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)》のモチーフだけでなく、他の作品の中で試みられている、物理的・化学的な現象を取り入れることで生まれる効果も想起させます。

《Silhouette#2》/ 名和晃平 photo by ぷらいまり
《Silhouette#2》/ 名和晃平

名和晃平 個展 「Oracle」は、2021年1月31日(日)まで、GYREの3階にあるGYRE GALLERYで開催中です。ぜひ明治神宮内の作品とも合わせてご覧ください。

展覧会情報

名和晃平 個展 「Oracle」

名和晃平 個展 「Oracle」

公式サイト https://gyre-omotesando.com/artandgallery/kohei-nawa-oracle/

会期 2020年10月23日(金)– 2021年1月31日(日)

時間 11:00 – 20:00

会場 GYRE GALLERY|GYRE 3F 東京都渋谷区神宮前5-10-1

入館料 無料

875

ぷらいまり

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl
Twitter:@plastic_candy

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