現実世界に飛び出す 個性的な映像の世界観。AC部による初の現代アート展。/ AC部『九越 -Transmorph-』展 (MITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERY)

ぷらいまり
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2021.01.02
現実世界に飛び出す 個性的な映像の世界観。AC部による初の現代アート展。/ AC部『九越 -Transmorph-』展 (MITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERY)

いつもの「当たり前フィルター」を外して日常に目を凝らすと、そこは「発見」の宝庫。あえて少しだけ日常から踏み出すことで、一生知ることが無かったかもしれない「発見」と出会えることも。そんな「発見」が、あなたにとても大事な「化学反応」をもたらすかもしれません。

この記事では、あなたの「当たり前フィルター」が外れるきっかけになるかもしれない展覧会をご紹介していきたいと思います。今回は、日本橋三越本店 本館6階にあるMITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERYで開催中のAC部『九越 -Transmorph-』展をご紹介します。

一度見たら忘れられない?! 従来のアニメーションの常識を崩す AC部の映像世界

AC部は安達亨さん、板倉俊介さんによるTV・ミュージックビデオ・ウェブサイトなどを手がけるクリエイティブチーム。多摩美術大学の同級生であったお二人が大学在学中に制作したアニメーション動画がNHK「デジタルスタジアム」で2000年の年間グランプリを受賞し、キャリアをスタートしました。

2018年にスタートしたアニメ「ポプテピピック」が大ブレイクし、その中の「ボブネミミッミ」というコーナーでその名を広く知られることになったAC部。その映像作品は一度見たら忘れられないほどのインパクト、そして何度も見返したくなる中毒性があります。

group_inouの楽曲「THERAPY」のミュージックビデオに登場するキャラクター「イルカのイルカくん」は、JR東日本 × 警視庁とコラボレーションした「忘れ物防止注意喚起動画」にも登場し、電車でご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。

イルカのイルカくん × JR東日本 × 警視庁 忘れ物防止注意喚起動画(YouTube AC部公式チャンネル)

また、スケッチブックを矢継ぎ早にめくる手動アニメーションである「高速紙芝居」2014年の文化庁メディア芸術祭・エンターテインメント部門の審査委員推薦作品に選出されるなど、表現の幅を広げています。

高速紙芝居「安全運転のしおり」(YouTube AC部公式チャンネル)

それらの作品は『違和感を感じる作品』を目指し、アイデア出しも作画もアニメーションも2人でごちゃ混ぜに行うなど、従来のアニメ制作の工程を意図的に崩すようにして作られているのだそう。*1 そんなAC部による初の現代アート展、どのような展覧会なのでしょうか?

海外アーティストとの初のコラボレーション

今回の展覧会の軸になるのは、ニューヨークを拠点とする世界的なエクスペリメンタルロックバンド・バトルスの楽曲『Sugar Foot』のミュージックビデオ。2020年11月に公開されました。

Battles - Sugarfoot ft. Jon Anderson & Prairie WWWW (Official Video)

新型コロナウイルス感染拡大の影響でさまざまな活動が制限された2020年。中止になってしまったイベントの無念を晴らすべく開催された「大宇宙ロボット祭」を舞台とした作品。ロボットアニメのバトルシーンのようでありながらも、そこでは神輿やねぶたなど、日本的なモチーフが多数登場する楽しいお祭りが展開されます。途中で場面が転換しウイルスを思わせる脅威が登場しますが、ユニークな方法で打ち勝っていきます。

「この時代を生きる鑑賞者に勇気を与えるべく制作されたミュージックビデオである」と語るAC部。映像の中には、これまでのAC部の作品では見られなかった新しい映像表現も導入され、バトルスのイアン・ウィリアムスは「(映像の)どのショットもフレームに入れて飾れるクオリティ」と語っています。

ドローイング、キネティック・アート、オブジェ… 映像の世界観を補完するような作品群

会場ではミュージックビデオの映像とともに、その映像作品の世界観を補完するような作品群が展示されています。アイディアスケッチや絵コンテなどからは映像ができるまでの試行錯誤を伺うことができ、また、映像の一コマ一コマに膨大なモチーフ・アイディアが組み込まれていることにも気づかされます。

アイデアスケッチ(ドローイング)群 photo by ぷらいまり
アイデアスケッチ(ドローイング)群(写真撮影:ぷらいまり)

アクリルパネルとペインティング等を2枚組み合わせた作品は、鑑賞者が歩くことで見え方が変化していくキネティック・アートのような作品。今回の映像の中でも、二次元を重ね合わせて三次元を構成するように見えるアニメーション表現があり、その様子が平面作品に表現されているようにも感じられます。

photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)

映像に登場するねぶたの山車のようなロボットをモチーフにした巨大なオブジェも。アニメーションの世界観がそのまま現実に飛び出してきたようです。

photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)

映像に登場するモチーフをアクリル絵具と水性マーカーでキャンバスに描いた作品も。アニメーションらしい“線”に見える部分が実は細かい点描で描かれていたり、幾何学模様を組み合わせたデザイン画のようにも見えながら浮世絵の役者絵的な雰囲気も感じさせたり、絵画の中にもいくつかの違和感を混在させているように感じられます。

≪RGB dots(border)≫ / AC部 photo by ぷらいまり
≪RGB dots(border)≫ / AC部(写真撮影:ぷらいまり)

このほか、ビューイングルームでは、イルカのイルカくんをキャンバスに描いた作品なども展示されています。

(左) ≪イルカのイルカくんのほほえみ≫, (右) ≪Lac d'Annecy≫ともにAC部 photo by ぷらいまり
(左) ≪イルカのイルカくんのほほえみ≫, (右) ≪Lac d'Annecy≫ともにAC部(写真撮影:ぷらいまり)

こちらの≪イルカのイルカくんのほほえみ≫をシルクスクリーンにしたものや、≪イルカの金だるまくん≫のフィギュアなど、エディション付きの比較的購入しやすい価格帯の作品もそろっています。

photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)

アニメーションから、さらに活動の幅をさらに広げていくAC部の今後の活動にも期待が高まる展覧会です。2020年12月23日~2021年1月4日と短い会期ですが、映像から飛び出してきたようなAC部の新しい世界をぜひ会場でご覧ください。

*1 “あえて「ヘタ」に描く違和感で、AC部はアニメ界に挑む!”  / WIRED (2018年3月24日)

展覧会情報

AC部『九越 -Transmorph-』展
特設webサイト http://ac-bu.info/transmorph/
会期      2020年12月23日~2021年1月4日
時間  10:00〜19:00 (最終日は17:00閉場)
会場       MITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERY(日本橋三越本店 本館6階)
観覧料   無料
※日本橋三越本店は、12月31日(木)は午前10時~午後5時。地下1階・地下2階は午後6時閉店。新年は1月2日(土)午前10時から初売出し。午後6時まで営業。
※1月1日(金・祝)は店舗休業日。1月3日(日)からは通常の営業時間。

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WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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