制約の中でこそ生まれる新しい表現。映像作家・ 石川将也さんによる立体映像装置「Layers of Light」。(レポート&インタビュー)

ぷらいまり
ぷらいまり
2021.03.06

空中を動き回る光。白色光のなかから特定の色の光だけをすくいあげたり、再び合体させたり。

光をまるで物質のように三次元空間で取り扱うこの不思議な映像は、映像作家・石川将也さんによる新しい立体映像装置≪Layers of Light≫によるもの。それは、新しい「デバイス」であるのと同時に、今までに体験したことのない「映像表現」の世界です。

この記事では≪Layers of Light≫をご紹介するとともに、作者の石川将也さんに「新しい表現が生まれるまで」のお話を伺いました。(なお、2021年3月5日(金)〜14日(日)に東急プラザ銀座で開催される「ENCOUNTERS」展にて、作品の一部が展示されます。)

「如実な立体感」と「気持ちの良い動き」。新しい立体映像装置「Layers of Light」とは?

作者の石川将也さんは、2019年までクリエイティブグループ「ユーフラテス」に所属し、2020年に独立した映像作家・グラフィックデザイナー・視覚表現研究者。Eテレ「2355」の≪factory of dream≫や「ピタゴラスイッチ」の≪ねじねじの歌≫などの映像を手掛けてきたほか、2020年の文化庁メディア芸術祭では、≪Shadows as Athletes≫(佐藤 雅彦氏、佐藤 匡氏、貝塚 智子氏らとの作品)でエンターテインメント部門の大賞を受賞されています。

2021年2月、石川さんのオフィス「cog」で開催された「Layers of Light / 光のレイヤー」展では、共通の原理を用いた8 つの立体映像装置による、12の作品が展開されました。

《凸包》 / 石川将也 photo by ぷらいまり
《凸包》 / 石川将也(写真撮影:ぷらいまり)

装置の構成は2枚の蛍光材料を用いたスクリーン板とピント合わせのいらないフォーカスフリープロジェクタと、いたってシンプル。蛍光ペンなどにもつかわれている 特定の波長の光を吸収・励起し、それよりも長い波長(色)の光を発光する「蛍光」という現象の特性、また、その蛍光アクリル板が吸収するよりも長い波長の光は透過するという特性を利用しています。

スクリーンの間隔をあけて積み、プロジェクタの光を入射することによって最大3層の立体の映像が生まれます。

《study Triangle》 / 石川将也    上のようなRGBの映像をプロジェクタから出力することで、下のような光の立体造形が生まれる photo by ぷらいまり
《study Triangle》 / 石川将也:上のようなRGBの映像をプロジェクタから出力することで、下のような光の立体造形が生まれる(写真撮影:ぷらいまり)

その装置を使った作品は「如実な立体感」だけではなく、“なめらかに光りをすくいとる” “光がジャンプするように層と層の間を行き来する”といった「気持ちの良い動き」が印象的です。このような表現はどのように生まれたのでしょうか? 石川さんにお話を伺いました。

「映像をつくる」のではなく、「メディア」や「表現手法」からつくる

石川将也さん cog オフィス前で photo by ぷらいまり
石川将也さん cog オフィス前で(写真撮影:ぷらいまり)

ー たった3層なのに不思議な気持ちの良さのある動きですね。

「仮現運動」という、”実際には動いていなくても「動き」の認知が現れる現象”を利用したり、今までに研究してきたアニメーションの表現手法を取り入れたりしています。例えば、層の間をものが移動するときに、重力の様子が感じ取れるように、層の間隔を変えたり、スピードを調整したり。新しい立体映像のデバイスに、いままでやってきたアニメーションの動きを加えることで、足りない部分を見る人の認知能力で補うことを試みています。

ーこれらの作品は、どのように生まれてきたのでしょうか?

もともと、国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) で「サイアロン」という蛍光物質に出会ったのがきっかけです。蛍光材料がLEDライトなど、私たちの日常に欠かせない物質であることを知り、ずっと気に留めていました。この蛍光物質と、やはり気になっていた機材であるどこにでもピントが合う「フォーカスフリープロジェクタ」を組み合わせたところ、光が分離するような現象を発見し、その現象を用いた表現を追求したのが今回のプロジェクトです。

未来の科学者たちへ #05 「サイアロン蛍光体」

私が慶應義塾大学 佐藤雅彦研究室に所属した学生時代からずっと学び実践してきたのは、ただ「表現や映像をつくること」ではなく「表現手法」や「映像の作り方」からつくることだったんですが、今回は「表現手法」だけでなく「メディア」から見つけて、「この媒体ならどんな表現手法ができるか?」ということを考えていきました。

人間の「認知」を使うことで拡張していく表現

ーどの作品も、このメディアでないと作り出せない独自の表現ですね。

私は1980年生まれで、映像メディアの急速な発展と一緒に育ってきました。子供の頃はファミコンとかテレビとかもまだ発展途上で、メディアの解像度が足りないところに、人間の能力やメディアの特性をうまく生かして補ったり拡張したりして、人間の認知を使って表現を拡張していく表現が面白いと思っています

今はスマホをはじめ映像メディアの解像度がどんどん上がり、メジャーな表現はより「リアル」を求めた方向に動いています。一方で、今回のデバイスのように制約のあるメディアの中では、そのように人間の認知を利用した表現ができる。それを観ることによって「自分が生きている」感じ、「人間としての能力を使っている」ことを実感できる独特な喜びが感じられるんじゃないかと思います。

《離陸と着陸》/ 石川将也 + イトケン(sound design) 1色の光の一部が分離(離陸)して、2色の光に分割されていく様子が心地よい作品です。 photo by ぷらいまり
《離陸と着陸》/ 石川将也 + イトケン(sound design) :1色の光の一部が分離(離陸)して、2色の光に分割されていく様子が心地よい作品です。(写真撮影:ぷらいまり)

ー 確かに、一般的なディスプレイだと「受動的」に見てしまうのに対して、石川さんの作品は、想像力を働かせながら「能動的」に見ている感じがします。

メディア・アートでは、メディアと人間の関係性を扱った作品を扱います。「ちょっと足りていない」というところから、そのメディアと人間の関係を改めて考えられるのではないかと思います。

今回は半年くらい表現を追求してきましたが、グラデーションを使った中間色の表現など様々な新しい発見がありました。まだまだ見つけられていない表現があるんじゃないかと思うので、これからも追求していけたらと思っています。

ー 今後の展開も楽しみです。本日はありがとうございました。

この「Layers of Light」を展示する「メディア芸術クリエイター育成支援事業の成果展は3月5日〜14日に東急プラザ銀座で開催予定です。写真や動画では伝わりきらないこの感覚、ぜひ生で体験してみてください。

※本プロジェクトは、令和2年度 文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業(http://creators.j-mediaarts.jp/)の支援を受けています。
※本展覧会で発表する装置は特許出願中です。(特願2020-206990)

展覧会情報

「ENCOUNTERS 令和2年度メディア芸術クリエイター育成支援事業成果プレゼンテーション」

公式サイト http://creators.j-mediaarts.jp/encounters-2021

日時 2021年3月5日(金)〜14日(日)
会場 東急プラザ銀座
入場無料/申込不要

[プロジェクト紹介展示]
日時 2021年3月5日(金)〜14日(日) 11:00-19:00
会場 東急プラザ銀座3F・4Fみゆき通り側エスカレーター横、10F・11Fパブリックスペース
出展作家:
石川 将也/大西 拓人/佐藤 壮馬/細井 美裕/牧野 貴/山田 哲平/INDUSTRIAL JP/株式会社ねこにがし/Team Yuri Suzuki at Pentagram

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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