昭和と現代の”挑戦者”たちの共演 ーコラボレーション企画展 「川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション ―会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃―」 @大田区立龍子記念館

ぷらいまり
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2021.09.27

「昭和の日本画の巨匠」と「平成の現代アート」の展覧会。

文字だけで見ると共通点が少なそうな組み合わせですが、会場に入るとその印象は一転。時代を超えたアーティストたちの”挑戦”の共鳴が感じられる展覧会です。

この記事では、大田区立龍子記念館でのコラボレーション企画展 「川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション ―会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃―」をご紹介します。

昭和の画壇の巨匠と 現代の日本を代表するアーティストたちの共演

会場に入るとすぐに、今回の展覧会の核となる作品・日本画家 川端龍子の≪香炉峰≫ と、現代アーティスト・会田誠さんの≪紐育空爆の図≫ が目の前に広がり、続いて、龍子の ≪水雷人≫ ≪越後(山本五十六元帥像)≫ と戦争画が並びます。

川端龍子の≪香炉峰≫は、戦時中に龍子の描いた連作「大陸策」の第三作。昭和14年に日華事変に従軍した際、実際に偵察機に便乗し、俯瞰した風景を描いていると言われています。飛行機の機体は透け、骨組みの下に香炉峰の雄大な風景が広がります。

≪香炉峰≫ / 川端龍子 1939年、大田区立龍子記念館蔵 photo by ぷらいまり
≪香炉峰≫ / 川端龍子 1939年、大田区立龍子記念館蔵(写真撮影:ぷらいまり)

幅約7.2m、高さ約2.4mという、見上げるほどの大画面、その大画面いっぱいに描かれたダイナミックな飛行機と香炉峰の風景。独創的な描き方からは、現代アートにも匹敵するような力強さが感じられます。

この作品と対比された会田誠さんの≪紐育空爆の図≫は、「戦争画RETURNS」シリーズとして、1996年に発表された5つの連作のひとつ。日経新聞を貼った自室の襖に、ホログラムペーパーに描かれた零戦がニューヨーク上空を編隊飛行している場面が描かれています。

≪紐育空爆の図≫ / 会田誠 1996年、高橋龍太郎コレクション photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)
≪紐育空爆の図≫ / 会田誠 1996年、高橋龍太郎コレクション photo by ぷらいまり
≪紐育空爆の図≫ / 会田誠 1996年、高橋龍太郎コレクション(写真撮影:ぷらいまり)

あわせて展示されている川端龍子の ≪爆弾散華≫ は、1945年に発表された作品。一見、美しい植物を描いた作品にも見えますが、これも戦争を描いた作品。終戦直前の1945年8月13日に自宅付近の空襲で壊滅的な被害を受けた龍子。その際の爆風に飛び散る自邸の庭の草花を描いたものだといいます。

≪爆弾散華≫ / 川端龍子 1945年、大田区立龍子記念館蔵
≪爆弾散華≫ / 川端龍子 1945年、大田区立龍子記念館蔵

こちらも、高さ約2.5m, 幅約1.9mという巨大な画面に、対角線上に撒かれた金砂子、細かく裂かれた金箔が龍子の自宅を大破させた爆弾の閃光がドラマチックに表され、その「瞬間」を切り取ったような大胆な描き方は、日本画のイメージを一新するかもしれません。

日本画壇の風雲児・川端龍子という作家

川端龍子 (1885-1966) は、大正から昭和にかけて活躍をした日本画家。代表作は、≪鳴門≫(山種美術館蔵)、≪草炎≫(国立近代美術館)などのほか、浅草寺や池上本願寺の天井画の龍図なども手がけています。

本展の会場の大田区龍子美術館の展示室は1つの大きな空間でありながら、複数の曲がり角があり、角を曲がる度に目に飛び込んでくる作品に驚かされるような、まるで「探索」しながら見るような楽しみも感じられます。この独特な大田区龍子美術館の建築意匠デザインも、川端龍子が手がけたものなのだとか。

展示室の様子
展示室の様子

龍子が30年以上にわたって日本画壇を牽引していく際、一貫して主張し続けたのが「会場藝術」という概念だといいます。もともとは、院展時代に巨大な作品を描く龍子に対し、批判的な言葉として使われていた言葉なのだそうですが、龍子は「大衆と藝術の接触」のためには「会場藝術」がむしろ推し進められるべきであり、「画業ー展覧会ー時代ー観衆」の関係性をより緊密にしていく必要があると説いたといいます。この捉え方、なんだか現代にもつながるような感覚のような気がしませんか?

30歳で洋画から日本画に転向したり、院展で日本画の人気画家となるも十数年で脱退したり、「会場藝術」によって日本画を強力に近代化したりと、川端龍子の「挑戦者」である様子が伺えます。

並べて見ることで浮かび上がる、アーティストの「挑戦」

精神科医で現代アートコレクターの高橋龍太郎さんのコレクションと川端龍子作品がコラボレーションし、計20点が並ぶ今回の展覧会。最初にご紹介した会田誠さんのほか、鴻池朋子さん、天明屋尚さん、山口晃さんの、それぞれの作品と共通のテーマを見いだすことができる川端龍子の作品が対となって展示されています。

例えば、日本画の手法や作品を引用して描く山口晃さんのサイボーグのような武者絵 ≪五武人図≫ とあわせて展示されるのは、川端龍子による「義経=ジンギスカン説」を描いた≪源義経 (ジンギスカン)≫。

≪源義経 (ジンギスカン)≫ / 川端龍子 1938年、大田区立龍子記念館蔵
≪源義経 (ジンギスカン)≫ / 川端龍子 1938年、大田区立龍子記念館蔵

西洋技術の技法を用いながら、日本画風の作品を描く山口晃さんは、川端龍子の洋画から日本画への転向には親近感を感じるところもあったといいます。

≪五武人図≫ / 山口晃 2003年、高橋龍太郎コレクション ©YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery
≪五武人図≫ / 山口晃 2003年、高橋龍太郎コレクション ©YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery

また、仏教への信仰が厚かった川端龍子が所有していた奈良時代の≪十一面観音菩薩立像≫や、その作品である≪青不動 (明王試作)≫ ≪吾が持仏堂 十一面観音≫といった絵画と並ぶのは、天明屋尚さんの≪ネオ千手観音≫。一見、厳かな仏画のように見えながら、千手観音の慈悲を表す手すべてには武器が握られ、それが後光のように広げられています。

≪青不動 (明王試作)≫ / 川端龍子 1940年、大田区立龍子記念館蔵
≪青不動 (明王試作)≫ / 川端龍子 1940年、大田区立龍子記念館蔵

天明屋さんは、形骸化した「日本画」ではなく、日本美術の諸要素を導入しながらも現代をうつしだす「ネオ日本画」というジャンルを提唱しており、本作も岩絵の具ではなくアクリル絵の具で描かれています。

≪ネオ千手観音≫ / 天明屋尚 2002年、高橋龍太郎コレクション
≪ネオ千手観音≫ / 天明屋尚 2002年、高橋龍太郎コレクション

「龍子ファンの方々には、現代アートの世界に触れ、その楽しさを発見いただき、また、現代アートファンの方々には、龍子の作品の魅力を再発見していただくことで、龍子記念館にとっても新たな出発点となるものと考えている」という今回の展覧会。それは一見意外な組み合わせのようで、でも、並べることでそれぞれの「挑戦」が浮かび上がり、新たな魅力を発見できる展覧会です。

コラボレーション企画展 「川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション ―会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃―」 @大田区立龍子記念館で2021年11月7日(日)まで開催中です。

展覧会情報

コラボレーション企画展 「川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション ―会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃―」

公式サイト https://www.ota-bunka.or.jp/facilities/ryushi/news/detail?15259

会場   大田区立龍子記念館
会期   令和 3 年 9 月 4 日(土)~11 月 7 日(日)
開館時間 9:00~16:30 (入館は 16:00 まで)
休館   月曜日(9 月 20 日(月・祝)は開館し、その翌日に休館)
入館料  大人 500 円、小人 250 円
※65 歳以上(要証明)と 6 歳未満は無料

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WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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