1丁のはさみで紙から物語を取り出す / タナカマコト展 “風、抜ける” (調布市文化会館たづくり)

ぷらいまり
ぷらいまり
2021.10.18

天井から床までを覆う、まるでレースの様に細やかな模様…  ため息が出るほど繊細な切り絵の作品です。その細やかさに思わず引き込まれてしまいますが、よく見るとこれらの紙、ただの紙ではないようです。

≪切りひらひらく≫ / タナカマコト photo by ぷらいまり
≪切りひらひらく≫ / タナカマコト(写真撮影:ぷらいまり)

この記事では、調布市文化会館たづくりで開催中の「タナカマコト展 “風、抜ける”」展をご紹介します。

1丁のはさみで生みだす、繊細な切り絵の世界

照明を落とした空間の中に浮かび上がる多数の涼しげな風鈴たち。くるくると動き回る風鈴の短冊部分に光が当たると浮かび上がるのは、とても繊細で、だけどどこかユーモラスな影絵。風鈴の短冊部分が、すべて緻密な切り紙で作られています。

photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)
≪風、抜ける≫ / タナカマコト photo by ぷらいまり
≪風、抜ける≫ / タナカマコト(写真撮影:ぷらいまり)

この作品を生み出したのは、切り絵作家・タナカマコトさん。美術界に限らず音楽、CMにも作品を提供するなど幅広く活動されています。

とても細かい作品ですが、制作に使っているのはなんと1丁のはさみ!紙を半分に折り、細かな下書きはせず、フリーハンドで切り抜いているのだそうです。「切りはじめても、何が出来上がるか、自分でもわからない」 (展覧会キャプションより) なんて、そんな即興性から独特の造形が生まれているんですね。

≪風、抜ける≫ / タナカマコト photo by ぷらいまり
≪風、抜ける≫ / タナカマコト(写真撮影:ぷらいまり)

タナカマコトさんの代表作 「タダのカミ様」のシリーズは、レシートを切って作られた作品。「人間の欲望の証拠」とも言えるレシートから「神様」の造形を切り出して浄化するというコンセプトで制作されているそうです。

「タダのカミ様」より ≪エジプト塩のカミ様≫  / タナカマコト  photo by ぷらいまり
「タダのカミ様」より ≪エジプト塩のカミ様≫ / タナカマコト(写真撮影:ぷらいまり)

≪ハンドジェルのカミ様≫ や ≪帽子のカミ様≫ など、そのレシートをもらったときに購入した商品を連想させるようにつくり出された「カミ様」たちは、皆、ルーペで拡大して見たくなるほどに細かく、一方でなんだか可愛らしくて親しみやすい雰囲気ですね。

「タダのカミ様」より≪ハンドジェルのカミ様≫  ≪帽子のカミ様≫  / タナカマコト  photo by ぷらいまり
「タダのカミ様」より≪ハンドジェルのカミ様≫ ≪帽子のカミ様≫ / タナカマコト(写真撮影:ぷらいまり)

紙に書かれた文章から ”言葉” を切り出し、物語を取り出す

ついつい、超絶技巧的な細かさに目が行ってしまう作品群ですが、その作品に近づいてよーく見てみると、その紙の上にはたくさんの文字が…

「言の葉」より《はははははっ、はははははっ》/タナカマコト  photo by ぷらいまり
「言の葉」より《はははははっ、はははははっ》/タナカマコト(写真撮影:ぷらいまり)

レシートや書籍など、「文字」が書かれた紙から切り絵が作り出されています。はさみでモチーフを切り出しながらも、そのモチーフと対応するような「言葉」は巧みに残し、まるで紙面から「言葉」と「イメージ」をはさみを使って一緒に取り出しているようです。

文庫本を使って作られたインスタレーション ≪切りひらひらく≫ は、3歳になる娘さんに布団の上で即興で物語をつくって聴かせる中で、即興の物語と、ご自身の下書きをせずに作り出す切り絵のスタイルがつながって感じられてうまれたものなのだとか。

≪切りひらひらく≫ / タナカマコト  photo by ぷらいまり
≪切りひらひらく≫ / タナカマコト(写真撮影:ぷらいまり)

作品の中に書かれたすべての文章は読めないけれども、そこに残された「言葉」と作り出されたイメージから、見た人が新しいストーリーを想像してしまう作品です。

≪切りひらひらく≫ / タナカマコト  photo by ぷらいまり
≪切りひらひらく≫ / タナカマコト(写真撮影:ぷらいまり)

身近なできごと・身近なものから生まれる、幻想的な作品

コンビニのバイトで見つけたレシートや、娘さんにお話する即興のストーリーなど、身近にあるもの・出来事とつながるタナカマコトさんの作品。昨年から皆が共通して体験した、コロナ禍での生活で生まれた作品たちも展示されています。

最初に紹介した「風鈴」の作品 ≪風、抜ける≫ も、自粛生活でどこにも出かけられない中、娘さんと紙コップで風鈴作りをしたことがきっかけとなっているそう。風鈴には、昔から魔除けの効果が信じられていたのだとか。

photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)

また、昨年の最初の緊急事態宣言の際に、お店からトイレットペーパーがなくなり、公演の遊具にはテープが巻かれて遊べなくなる中、はじめて意識して川を覗いてみたことをきっかけにつくられたという ≪流るるる≫ は、なんとトイレットペーパーでつくられた作品。12本のトイレットペーパーで、川、陸、空に住む様々な生き物たちが表現されています。

≪流るるる≫ / タナカマコト  photo by ぷらいまり
≪流るるる≫ / タナカマコト(写真撮影:ぷらいまり)

私たちにとってもごく身近な出来事を発想の出発点に、身近なものを使いながら、日常からは少し離れた幻想的な世界をつくりだすタナカマコトさんの切り絵の世界。是非、会場で実物をご覧ください。

2021年11月14日(日)まで、調布市文化会館たづくりで開催されています。

展覧会情報

タナカマコト展 “風、抜ける”

photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)

公式サイト https://www.chofu-culture-community.org/events/archives/5130

会期 2021年9月18日(土) 〜 2021年11月14日(日) 10:00~18:00
※会期中の休館日は以下のとおり
9月27日(月)~30日(木)、10月25日(月)・26日(火)
会場 調布市文化会館たづくり 展示室(たづくり1階)
料金 無料

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WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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