写真の中の風景は本物?それとも… 並べて見える、写真ならではの面白さとは? / 松江泰治 マキエタCC (東京都写真美術館)

ぷらいまり
ぷらいまり
2021.12.06

展覧会のチラシを手に取ると、そこには、東京の街を空から撮影したような風景。空撮写真かな…?と、写真の中のビル群を眺めていくと、そのビル群のなかには、建物までも分割する真っ直ぐな「亀裂」が入っていることに気づきます。

松江泰治 マキエタCC

えっ、これってどういうこと?

この不思議な写真は一体何なのか、東京都写真美術館で開催中の展覧会「松江泰治 マキエタCC」へ行ってみましょう。

どちらが本物?ものの見え方の感覚を揺さぶられる展覧会

1963 年に東京に生まれ、東京大学理学部地理学科卒業という経歴を持つ写真家・松江泰治さんの個展。タイトルは「マキエタCC」という聞き慣れない言葉ですが、<makieta(マキエタ)> <CC> というふたつのシリーズを組み合わせた展覧会です。

「松江泰治 マキエタCC」 展示風景 photo by ぷらいまり
「松江泰治 マキエタCC」 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

ポーランド語で「模型」を意味する <makieta(マキエタ)> は、都市や地形の「模型」を撮影したシリーズ。一方、 <CC>はアルファベット3文字で都市を表す(例えば、東京なら「TYO」など)「シティコード」を略したもので、「実際の都市」を撮影したシリーズです。

<CC> シリーズは、画面に地平線や空を含めず、また、被写体に影が生じないよう太陽光が真正面から当たる時間に撮影するなどのルールに従って撮影されており、画面の隅々にまでピントがあったその写真は、例えば「ミニチュア風の写真」とは真逆の平面性が感じられます。

会場ではこの <CC> と <makieta(マキエタ)> の2つのシリーズを分けることなく展示しています。

でも、「実際の風景」と「都市の模型」とでは全然違うのでは?なんて思ってしまいますが、違いがはっきり分かるものもあれば、「あれ、これはどっちだろう?」と迷ってしまうものも。

≪JDH 44139≫ / 松江泰治 photo by ぷらいまり
≪JDH 44139≫ / 松江泰治(写真撮影:ぷらいまり)

なぜならば、模型を撮影した<makieta(マキエタ)> シリーズでは、通常は隅々までピントを合わせるのが難しいミニチュア模型の撮影方法を工夫することで、 <CC>シリーズと同じような均一な光とピントを実現しているんです。そのように撮影された模型の中の風景が大きなサイズにプリントされることで、「本物の風景」にも見えてきてしまいます。

どちらが「本物の都市」で、どちらが「都市の模型」? 自分の目に見えているものの感覚が揺さぶられるようです。

≪OSA 13829≫/ 松江泰治  photo by ぷらいまり
≪OSA 13829≫/ 松江泰治(写真撮影:ぷらいまり)

並べることで見える、模型の個性とそれを切り取る視線

「実際の風景」にも見えてしまう「都市の模型」も、よく見ると、模型ごとに個性があるのが見えてきます。

本物に近い素材でつくられているものもあれば、コルクや陶器など、建物全体が均一な素材でできているように見える模型もあったり。また、建物はとても精巧にできているのに対して、道路や鉄道、木、人といった部分は「つくりもの」であることが分かりやすかったりするものも。

≪PRG 164177≫  / 松江泰治  photo by ぷらいまり
≪PRG 164177≫ / 松江泰治(写真撮影:ぷらいまり)

世界中の職人が独自の技術で作っているから、みんな違うんだ。共通の技法がない。
みんな一所懸命、技法を編み出して、克明に写し取ろうとしている、そうしたマニアックな行為は尊いよね。

東京都写真美術館ニュース eyes107 松江泰治へのインタビューより

ここに写し取られている模型自体は、世界の誰かによって作られた作品だけれども、その中から視点を見つけ、独自の方法で写し取って並べることで、写真家の作品へと変化していく面白さも感じることができます。

≪TYO 90842≫/ 松江泰治  photo by ぷらいまり
≪TYO 90842≫/ 松江泰治(写真撮影:ぷらいまり)

目に見える風景とは違う、写真ならではの面白さ

今回の展覧会の中でも目を引く作品の一つが、幅約4M, 高さ1.2Mのパノラマ写真≪LPB 1733≫。

≪LPB 1733≫/ 松江泰治  photo by ぷらいまり
≪LPB 1733≫/ 松江泰治(写真撮影:ぷらいまり)

目の前が覆い尽くされるほどの大判写真は、広範囲の建物群を撮影しながらも、やはり、隅から隅まで光が均一に当たっています。さらに、レンズによるゆがみも見えず、どこまでもピントのあった風景は、まるで建物の写真を平面上に並べていったようにも見え、現実では人間の目で捉えることが出来ない風景のようにも見えてきます。

ボリビアの事実上の首都で、世界一の高所にある首都といわれるラパスの都市を撮影したこの写真は、通常は1つのフレームには収まりきらない写真を、デジタルの技法を使うことで、超解像度で切れ目なく表現しているといいます。

デジタルカメラを手にしたらデジタルにしかできないことを技法に取り入れたい。その一例がこのパノラマ写真で、ここまできたら、大判フィルムから次のステージに来たと思う。

東京都写真美術館ニュース eyes107 松江泰治へのインタビューより

≪ALPS 171000≫ ≪GUATEMALA 190955≫ / 松江泰治  photo by ぷらいまり
≪ALPS 171000≫ ≪GUATEMALA 190955≫ / 松江泰治(写真撮影:ぷらいまり)

現実の大きさに縛られずに撮影する人の視点を再現することができ、人間の目では捉えることのできない・目で見た印象とは違った光景をも表現ことが出来る。そんな写真というメディアならではの表現の面白さも伝わってくるような展覧会です。

迫力のサイズの写真も、是非会場でご覧ください。

松江泰治 マキエタCCは、恵比寿にある東京都写真美術館で、2022年1月23日(日)まで開催中です。

*出展:東京都写真美術館ニュース「eyes」 107号 松江泰治インタビュー

展覧会情報

松江泰治 マキエタ CC

公式サイト https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4031.html

会期    2021年11月9日(火)-2022年1月23日(日)
会場    東京都写真美術館 2 階展示室
〒153-0062 東京都目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
時間  10:00-18:00(木・金は 20:00 まで)入館は閉館 30 分前まで
休館日 毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合開館し、翌平日休館)、年末年始(12/28-1/4、ただし1/2、1/3 は臨時開館)
観覧料 一般 700 円/大学・専門学校生 560 円/中高生・65 歳以上 350 円
※小学生以下及び都内在住・在学の中学生、障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2 名まで)は無料。
※1 月 2 日(日)、3 日(月)は無料。開館記念日のため 1 月 21 日(金)は無料。
※本展はオンラインによる事前予約を推奨します。詳細はホームページをご参照ください。

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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