斬新で魅力的な 古今東西の装いが集結 ーー「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」展 (東京都庭園美術館)

ぷらいまり
ぷらいまり
2022.02.28

みなさんはどんなファッションが好きですか?自分自身ではなかなか身につけられない斬新なファッションも、見るのってワクワクしますよね。東京都庭園美術館では今、「ファッション」と「アート」に注目した展覧会が開催されています。

この記事では、東京都庭園美術館で開催中の「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」展をご紹介します。

東京都庭園美術館 本館 正面外観 photo by ぷらいまり
東京都庭園美術館 本館 正面外観(写真撮影:ぷらいまり)

「美しい」ってなんだろう? 纏足やコルセットからコンテンポラリーアートまで、「モード」の歴史を紐解く

ところで「モード」って、よく聞くけれど、そもそもどんな意味なのでしょうか?辞書をひいてみると「ファッション」や「(服装などの) 流行の型」という意味合いなのだそうです。

会場には「奇想」をテーマにした、古今東西のファッション・作品が集結しています。

例えば、展覧会のメインビジュアルの写真に掲載されている、きらきらと輝く付け襟のような「甲冑(カラー)」。こちら、なんとタマムシの翅で作られているんです。あの「昆虫記」のアンリ・ファーブルを曾祖父に持つヤン・ファーブルは、こうした死と変容をテーマにした作品を数多く生み出していたそうです。

本物の鳥の剥製をつかった「帽子飾り」や「ライチョウの足のブローチ」など、現代の感覚で見るとちょっと驚いてしまうようなものもありますが、もともとは民族のお守りとして使われていたものが発展したものだったり、自然のつくりだす神秘的な美しさが、大胆にファッションに取り入れていったんですね。

ライチョウの足のブローチ、スコットランドWBS (Ward Brothers) 工房、1953年、アクセサリーミュージアム蔵
ライチョウの足のブローチ、スコットランドWBS (Ward Brothers) 工房、1953年、アクセサリーミュージアム蔵

また、「纏足」や「コルセット」といった、身体を美しく見せるためにつかわれた道具たちも紹介されています。実物を見ると、その細さ・小ささに驚きます。その時代・地域の感覚での「美しい」を作り出す道具である一方、身体を拘束して女性の社会進出の足かせにもなり得る側面も伺えます。

コルセット、1880年頃 イギリス、神戸ファッション美術館蔵
コルセット、1880年頃 イギリス、神戸ファッション美術館蔵

一方で、ファッションが自由な表現手段になる様子も紹介されています。1930年代〜40年代に精力的に創作活動を行なったイタリアの女性デザイナー エルザ・スキャパレッリは、女性のファッションに新風を吹き込み、同時代に活躍したココ・シャネルとも人気を分けたといいます。鮮やかな「ショッキング・ピンク」という色も、彼女の命名によるもの。服が絵画のように見立てられた《イヴニング・ケープ》など、芸術性を重視したファッションが展示されています。

エルザ・スキャパレッリ《イヴニング・ケープ》1938年、京都服飾文化研究財団蔵、広川泰士撮影
エルザ・スキャパレッリ《イヴニング・ケープ》1938年、京都服飾文化研究財団蔵、広川泰士撮影

「シュルレアリスム」と「モード」の 意外なつながり

この展覧会の軸のひとつは「シュルレアリスム」。「シュルレアリスム」と「モード」って、ちょっと意外な組み合わせにも聞こえますよね。

目に見えるそのままの風景ではなく、「無意識」の世界を表現することを試みた「シュルレアリスム」。例えば、マン・レイの写真作品「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出会いのように美しい」など、まったく異質な対象物を出会わせて、常識的な考え方を崩すような方法は、「裁縫」につながる部分もあるためか、シュルレアリスムの表現には「裁縫」にまつわるイメージが度々登場するといいます。

また、洋服を着せる人形「マネキン」も、シュルレアリスムではよくモチーフとして使われてきたり。

ファッションの中にシュルレアリスムの感性が取り入れられたり、シュルレアリストたちが作品の中にファッションアイテムを活かしていったりと、双方に影響を与えてきたそうです。

ハリー・ゴードン《ポスター・ドレス》1968年頃、京都服飾文化研究財団蔵、畠山崇撮影
ハリー・ゴードン《ポスター・ドレス》1968年頃、京都服飾文化研究財団蔵、畠山崇撮影

現代でもおなじみの歴史あるファッション誌「Vogue」も、サルヴァドール・ダリをはじめとしたシュルレアリストたちが表紙を手がけてきたそうです。会場では、こうした絵画のほか、ダリの立体作品なども楽しむことができます。

「シュルレアリスム」と「モード」の意外なつながり。その自由な想像力と発想は相互に影響を与えていたんですね。

異分野との掛け合わせで生まれる新しい「モード」

シュルレアリスムだけでなく、ファッションとアートは常に近い領域にあるのかもしれません。

例えば、花魁の履く下駄をモチーフとした、舘鼻 則孝さんの作品「ヒールレスシューズ」は、レディー・ガガが実際にステージ衣装として身につけるものでありつつ、現代アートの作品としても扱われています。会場では、日本の伝統工芸と現代のファッションの感覚を組み合わせた作品たちが、インスタレーションとして空間に広がります。

舘鼻則孝《Heel-less Shoes(Lady Pointe)》2014年、個人蔵、GION撮影
舘鼻則孝《Heel-less Shoes(Lady Pointe)》2014年、個人蔵、GION撮影

「曲線の女王」とも言われる建築家ザハ・ハディドのデザインした靴は、最新のコンピューターグラフィックスで「設計」され、一見して靴には見えないものの、その美しい曲線に見とれてしまいます。

自由な発想でつくられ、日常の感覚から飛躍した「奇想」のファッションは、「アート」の境界なんてないのかもしれませんね。

なお、会場の「東京都庭園美術館」は、もともとは昭和8年につくられたアールデコ建築の邸宅。装飾の美しい展示空間で見るファッションは、ちょっとプライベートな空間で見るようで、ちょっと贅沢な気分にもなれますよ。

東京都庭園美術館 本館 大客室
東京都庭園美術館 本館 大客室

「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」展は、2022年4月10日まで、東京都庭園美術館で開催されています。

展覧会情報

奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム

公式サイト https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/220115-0410_ModeSurreal.html
会期    2022年1月15日(土)~2022年4月10日(日)
会場    東京都庭園美術館(本館+新館)
休館日   毎週月曜日
※ただし3月21日は開館、3月22日(火)は休館
開館時間  10:00–18:00(入館は閉館の30分前まで)

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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