‘違うこと’から生まれる価値とは? 福祉実験ユニット「ヘラルボニー」による「The Colours!」展 (ANB Tokyo)

ぷらいまり
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2022.08.05

カラフルで個性的な絵柄のトートバッグやハンカチ、ネクタイなどのファッションアイテムや、家具たち。ぱっと目を引くデザインのこれらの製品、実は、知的障害のあるアーティストの作品をさまざまなかたちで社会に展開する福祉実験ユニット「ヘラルボニー」が展開するブランドの商品なんです。

ヘラルボニーの手がけるトートバッグなどの製品 (「The Colours!」展でのポップアップショップにて)(写真撮影:ぷらいまり)
ヘラルボニーの手がけるトートバッグなどの製品 (「The Colours!」展でのポップアップショップにて)(写真撮影:ぷらいまり)

人と ‘違うこと’ によって生まれる価値とは?この記事では、「ヘラルボニー」の活動とともに、「ヘラルボニー」がライセンス契約を結ぶアーティストによる展覧会「The Colours!」の様子をご紹介します。

福祉実験ユニット「ヘラルボニー」って?

「ヘラルボニー」は、「異彩を、 放て。」をミッションに掲げる、福祉実験ユニット。主に知的な障害のあるアーティストや福祉施設と契約を結び、作品をファッションやインテリアなどの製品デザインに展開したり、その作品の画像データを様々な企業の製品や街づくりに活かすライセンスビジネスへ展開したりといった事業を展開しています。

「ヘラルボニー」のブランドとして手がける商品は、ネクタイやハンカチ、ブラウスと言ったファッションアイテムから、エコバック、傘といった日用品、チェアやスツールと言った家具まで。個性的でぱっと目を引く華やかさがありつつ、日常でも使いやすそうなデザインです。

ヘラルボニーの手がける雑貨やライフスタイル製品(「The Colours!」展でのポップアップショップにて) (写真撮影:ぷらいまり)
ヘラルボニーの手がける雑貨やライフスタイル製品(「The Colours!」展でのポップアップショップにて) (写真撮影:ぷらいまり)

岩手県盛岡市にあるショップのほか、ポップアップショップや、オンラインショップで販売されています。気に入ったデザインを長く使い続けられる質の良いものづくりにこだわっていて、ネクタイなどは百貨店にも置かれる高品質のものなのだとか。

ヘラルボニーの手がけるトートバッグやハンカチなどの製品 (「The Colours!」展でのポップアップショップにて) (写真撮影:ぷらいまり)
ヘラルボニーの手がけるトートバッグやハンカチなどの製品 (「The Colours!」展でのポップアップショップにて) (写真撮影:ぷらいまり)

ユニットを立ち上げたのは、双子の兄弟である松田崇弥さん・文登さん。「ヘラルボニー」という耳慣れない言葉は、彼らの兄で、自閉症と知的障害がある翔太さんが複数の自由帳に記していた言葉であり、意味は書いた本人もわからないのだそう。そんなブランド名には、一見「意味がない」と思われる思いを、企画して世の中に価値として創出したい、という意味が込められているのだそうです。

「違い」が価値となって社会を彩る 「The Colours!」展

そんな「ヘラルボニー」とライセンス契約を結ぶアーティストの中から、色のパワーが感じられる12人の作品をセレクトした展覧会「The Colours!」展が、六本木にあるアートコンプレックス「ANB Tokyo」で開催されています。

「The Colours!」展 展示風景 (左から 森啓輔さん、中尾涼さん、国保幸宏さんによる作品)(写真撮影:ぷらいまり)
「The Colours!」展 展示風景 (左から 森啓輔さん、中尾涼さん、国保幸宏さんによる作品)(写真撮影:ぷらいまり)

会場には、色彩にあふれた作品たちが並びます。

《Scratch Works Yay! Yay! No.6》(左) 《Scratch Works Yay!Yay!No.5》(右) / 左岡部志士(写真撮影:ぷらいまり)
《Scratch Works Yay! Yay! No.6》(左) 《Scratch Works Yay!Yay!No.5》(右) / 左岡部志士(写真撮影:ぷらいまり)

クレパスの柔らかい色で画面が覆われ、近づくとこすったりひっかいたりした跡などの質感も面白いのは、岡部志士さんの作品。色を塗り、その表面を削ってできたクレパスのカスを集めて団子にしたかたまり(作家さん本人は「コロイチ」と呼んでいるもの)をつくるために描いているそうで、じつは私たちが「作品」だと思って観ているものは、作家さんからすれば副産物のようなものなのだとか。作品には上下も無く、観る側も常識にとらわれず、自由に観られる作品ですね。

《迷路》ほか / 高田祐(写真撮影:ぷらいまり)
《迷路》ほか / 高田祐(写真撮影:ぷらいまり)

カラフルな幾何学模様を画面いっぱいに描くのは、高田祐さん。「迷路」を描いているそうで、作家さんによれば、作品の中心が迷路の入り口で、右側が出口として描かれている事が多いのだそう。そのように聞くと、立体的な構造物が描かれているようにも見えてくる作品です。

《タイトル不明》/ 中尾涼(写真撮影:ぷらいまり)
《タイトル不明》/ 中尾涼(写真撮影:ぷらいまり)

黒い地に、数字やアルファベットが複数の色を使って描かれているのは、中尾涼さんの作品。1つの作品には3-4日をかけて制作するそうなのですが、1日の制作時間はなんと60秒から100秒程度!つまり、ひとつの作品を300秒程度で仕上げてしまうのだそうです。勢いのある作品、見た目にも創作過程にも、ストリートアートのようなクールさが感じられますね。

井口直人さん作品(写真撮影:ぷらいまり)
井口直人さん作品(写真撮影:ぷらいまり)

そして、壁一面を埋めるカラフルな作品は、井口直人さんによるもの。コピー機で自分の顔と一緒にお気に入りのものを写し取ったという作品。毎日、施設に行く前に近所のコンビニでプリントするのが日課になっているのだそう。一緒に写しているのは、飲料の缶や、食品のパッケージ、ポイントシールを集めた台紙など、身近なものながら、すぐにはそうだと気づかないかっこよさがある作品です。

ひとりひとり、全く異なる動機、画材、描き方で制作された作品ですが、1枚ずつの作品に向き合うと、それぞれの強い個性の魅力に引き込まれていく展覧会です。

「障害」という意味がゆらぐ世界を目指して

創業から4周年を迎え、作品をモチーフにした雑貨の販売だけで無く、アートを原画として展開していく活動なども広げていくという「ヘラルボニー」。

副社長の松田文登さんは、知的障害のあるお兄さんに対し、周囲から「かわいそう」と言われることに小さい頃から違和感を覚え、それをどう変えていけるかを考えていたといいます。

そうして、「障害のある人の作品」としてではなく、作品のそのものの素晴らしさに触れ、これが社会に浸透していったときに、「障害」=「欠落」ではなく、「障害」=「個性」に変換され、「障害」という意味がゆらぐ世界をつくっていけるのではないかと思い至ったのだそう。

左から、松田崇弥さん(ヘラルボニー 社長)、松田文登さん(ヘラルボニー 副社長)、井口直人さん(展示作家)、黒澤浩美さん(金沢21世紀美術館キュレーター)、山峰潤也さん(一般財団法人東京アートアクセラレーション共同代表)
左から、松田崇弥さん(ヘラルボニー 社長)、松田文登さん(ヘラルボニー 副社長)、井口直人さん(展示作家)、黒澤浩美さん(金沢21世紀美術館キュレーター)、山峰潤也さん(一般財団法人東京アートアクセラレーション共同代表)

また、ヘラルボニーの企画アドバイザーで、今回の展覧会を手がけた、金沢21世紀美術館キュレーターの黒澤浩美さんは、「The Colours!」展のタイトルに、1人1人違う色・違う才能を持つひとたちが集まることで、多彩な個性があふれる世界への希望を込めたといいます。

これらの作品を観ながら、‘違うこと’ から生まれる価値を考えてみませんか?

ANB Tokyoエントランス(写真撮影:ぷらいまり)
ANB Tokyoエントランス(写真撮影:ぷらいまり)

展覧会情報

ヘラルボニー4周年記念「The Colours!

公式サイト https://taa-fdn.org/events/2331/
会期    2022年7月16日(土)~2022年8月7日(日)
会場    ANB Tokyo(2F : ポップアップショップ / 3・4F:展覧会 )
開館時間  11:00-19:00
休館日   月曜 ※月曜祝日の場合は翌日に振替
入場料   無料 ※予約不要 / 直接会場にお越しください

出展作家  井口直人、伊藤大貴、岩瀬俊一、岡部志士、衣笠泰介、木村全彦、国保幸宏、Juri、高田祐、中尾涼、早川拓馬、森啓輔(12作家)

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WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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