台湾の路上で見かけるアートな「変電箱」を食卓に持ち込んで、アップサイクルを実現した鍋敷きとは

Seikyo
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2021.08.05
鍋敷きを重ねることで現れた「台湾電力」のロゴ(画像提供:©️TPCreative)
鍋敷きを重ねることで現れた「台湾電力」のロゴ(画像提供:©️TPCreative)

みなさん、こんにちは。半分台湾人のSeikyoです。

今回みなさんにご紹介するのは、電気に関わる意外なものから作られた、今台湾で話題になっている鍋敷きです。
早速みていきましょう!

台湾の路上で見かける「変電箱」

日本でも都心部の道端などで見かけることのできる路上変圧器。主に無電柱化エリアに設置されており、高圧配電線の電圧から一般家庭用の電圧に変換するための変圧設備です。台湾では無電柱化が日本より進んでおり、特に台北の都心部では地中化率が95%以上と、その分日本よりかなり高い頻度で、路上の変圧器を見かけることができます。

路上変圧器は台湾で一般的に「変電箱」と呼ばれていて、一昔前に環境美化の名目のもと、変電箱の表面に様々な風景画などが描かれるようになり、そんなアートな「箱」が街中の風景の至る所にすっかり溶け込んで、台湾のシンボルにもなっています。設置場所によって描かれている絵が多少異なっていたりと、いつしか地域性を持たせた路上の「オブジェ」と進化したのです。

台湾の市街地の路上で一般的に見かける「変電箱」
台湾の市街地の路上で一般的に見かける「変電箱」
写真がそのままプリントされたかのように描かれているものも多い
写真がそのままプリントされたかのように描かれているものも多い

役目を終えた「変電箱」を再利用

以前の記事でもご紹介した「ベッドサイドランプ Whims E010」を手がけた、台湾電力会社が立ち上げた生活雑貨ブランドの「台電文創(TPCreative)」。今回目をつけたのが役目を終えた「変電箱」たちで、なんと台湾各地から合計4,000に上る使われなくなった変電箱の扉部分を回収して、生活用品として再利用するプロジェクトをスタートさせました。

すでに台湾の人々が見慣れている日常の風景を、形を変えて日々の生活に再び取り込むというビジョンを背負って、台湾各地の電力会社メンバーと協力して材料を集め、日常的に使えるものとして再利用できないか、知恵を集めました。

様々な形に切り抜かれた変電箱(画像提供:©️TPCreative)
様々な形に切り抜かれた変電箱(画像提供:©️TPCreative)
同じ緑色にしても、実にバリエーションが豊かである(画像提供:©️TPCreative)
同じ緑色にしても、実にバリエーションが豊かである(画像提供:©️TPCreative)

食卓で日常的に使う鍋敷きに大変身

食卓での利用シーン(画像提供:©️TPCreative)
食卓での利用シーン(画像提供:©️TPCreative)

今回TPCは台湾で30年以上続く家族経営の金属メーカー「NAKNAK」と共同で開発に取り組み、素材にあったベストな工法で、美学を備えた実用的でシンプルな生活用品を生み出すことを最大の目標としました。開発に携わった当時、NAKNAKクリエイティブディレクターの曾さんは「今まで我々が携わってきたのは新しい素材からものづくりを行うことだったが、今回使い古した変電箱を使うのは極めてチャレンジングだ。」と話しています。

メタルな鍋敷きを形作るために最初に取り掛かったのが、素材のテストです。扉部分から鍋敷きの形を切り抜くためにはレーザーカットを利用するそうですが、レーザーの出力値を何度も調整して、一つ一つの工程の違いから最終的な仕上がりに与える影響を細かく観察して、最終的にベストな数値を見い出すことに成功したのです。

また、材料の表面に描かれた模様にグロス加工かマット加工を施すかによって、見え方にどのような違いが出るのかを見比べたり、手に取った際の質感を比較するなど、加工方法に関しては何度も試験を繰り返して、最終的には本来の姿を最大限に残した、六角形のシンプルな鍋敷きに仕上がりました。不要になった材料を再利用することで、見事にアップサイクルを実現させたのです。

時が刻んだ痕跡を残したままにする

切り抜いた鍋敷きをパズルのように組み合わせると、再び風景画が蘇る(画像提供:©️TPCreative)
切り抜いた鍋敷きをパズルのように組み合わせると、再び風景画が蘇る(画像提供:©️TPCreative)

素材の表面に残る様々な痕跡をあえて残したままにすることで、かつては路上に存在していたことを証明するだけでなく、名も知らない誰かが表面に描いた絵の人間味も使いながら感じ取ることができそうです。また、「台電」のロゴひとつにしてもひそかに見えるくらいの加工にとどめていることから、いつもは特に身に感じることはないが、常に生活に欠かせない電力を供給し続けている電力会社そのものの確かな存在を表しているかのようにも見えます。

一年以上の年月をかけて量産までに辿り着けたこのプロジェクトですが、一つ一つの鍋敷きが独自のストーリー性を持っていて、どれも他にはない時が刻んだ美しさを放っています。何気なく見過ごしていた日常の「美」を拾い集めて生活空間に回帰させるという、クリエイティブなアイデアひとつでサステナビリティを実現した素晴らしいプロジェクトだと感じました。

では、次回もお楽しみに!

商品情報

| 台電文創(TPCreative)
https://www.tpcreativego.com/

| NaKNaK(ナックナック)
http://www.naknakdesign.com/

Seikyo
WRITER PROFILE

Seikyo

1996年台湾生まれ。半分台湾人。東京でグラフィック&Webデザイナーとして働きながら、台湾と日本の文化のギャップをデザイン的な視点で発信中。

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