名付け親はあの人?!「兼六園」の知られざる名前のヒミツ

谷口純平
谷口純平
2021.03.24

冬が明け、ぽかぽかと暖かい日が続くようになりました。毎年この時期になると、梅や椿の花が春の到来を知らせるかのように、のびのびと花を広げているのを見かけます。草花の息吹を感じながら、自然の中を散策したくなってきますね。

季節ごとに表情を変える「兼六園」にも、この時期になると紅白色の梅の花が、寒さから開放されたように咲き揃います。

ところで、「兼六園」の名前は「6つ兼ね備えた庭園」と書きますが、一体何を6つ兼ね備えているのかご存知ですか? 誰が名前を付けたのでしょうか? 今回は、兼六園の知られざる名前の由来と名付け親について紹介します。

日本三名園のひとつにも数えられる「兼六園」

兼六園 写真提供:金沢市
兼六園 写真提供:金沢市

兼六園は、日本三名園のひとつにも数えられ、日本有数の観光スポットです。日本三名園とは、日本庭園の中でも特に優れた景観を持つ名園の総称です。兼六園の他には、水戸市の「偕楽園」、岡山市の「後楽園」があります。

偕楽園は、徳川斉昭によって造営され、園内には約100品種3,000本もの梅が、春先になると一斉に咲き誇ります。後楽園は、岡山藩主池田綱政によって造営され、広大な敷地を覆う真っ青な芝生と静かに流れる曲水が特徴です。

兼六園 写真提供:金沢市
兼六園 写真提供:金沢市

兼六園は、石川県金沢市にあり、毎年300万人以上の観光客が世界中から訪れます。兼六園は、加賀前田藩の居城「金沢城」の外庭として、歴代藩主たちが長い年月をかけて完成させました。季節によって全く違う表情を見せるので、四季折々の美しさを堪能できます。

広大な敷地の中に建設された兼六園の面積は、約11ヘクタールと東京ドームの約2・4倍もの大きさがあるのです。壮大な自然の中に歴史的建築物がひっそりと佇む空間には、日々の喧騒を忘れさせてくれるような心地よい空気が流れています。

兼六園 写真提供:金沢市
兼六園 写真提供:金沢市

兼六園の名前の由来となった中国の書物

兼六園 写真提供:金沢市
兼六園 写真提供:金沢市

兼六園の名前の由来となったのは、宋の時代に刊行された、当時の名園を紹介する書物『洛陽名園記』。そこには、「庭園では優れた6つの景観を兼ね備えることはできないが、湖園という庭園だけは、この6つを兼ね備えている」といった記述がありました。兼六園は、この湖園にも見劣りせず、6つの景観を兼ね備えていることから「兼六園」と名付けられたのです。

優れた6つの景観とは、宏大、幽邃、人力、蒼古、水泉、眺望のことで、総称して「六勝」と呼ばれています。これらは、それぞれ相反する景観であり、全てを実現することは至難の技です。

「宏大」とは、広く大きいこと。それに対し「幽邃」とは、静かで奥ゆかしいこと。開放的で大胆な雰囲気の広大な場所に、穏やかで上品な空間を演出するのは非常に難しいです。

「人力」と「蒼古」は、相反する意味を持っています。「人力」とは、人の手が加わった人工的な美しさのこと。「蒼古」とは、古き良き趣があることを意味します。長い年月をかけて自然に生まれた美しさは、人の手を加えることで失われますし、人工的に表現することはできません。

「水泉」とは、池や川などの水辺のことを指します。一方で「眺望」とは、遠くまで眺めることができて、見晴らしがいいこと。川や池は低いところにあるので、「水泉」を多くすれば、見晴らしが悪くなってしまいます。

このように、それぞれ対立する要素があり、どちらかを実現しようとすると片方が損なわれてしまうのです。しかし、これらを全て兼ね備えた名園として、兼六園の名前が付けられました。

「兼六園」の名付け親はあの人物

兼六園 写真提供:金沢市
兼六園 写真提供:金沢市

不可能を可能にした名園として名付けられた兼六園。その兼六園の名付け親は、江戸幕府老中を務め、寛政の改革を行った松平定信です。12代藩主前田斉広の依頼により、松平定信が命名しました。

しかしこの松平定信、一説には「兼六園を訪れず、見てないのに名前を付けた」という話があります。忙しくて行けなかったのか、めんどくさくて行ってないのかは定かではありませんが、名前を決めなくてはいけない定信は、『洛陽名園記』から名前のヒントを得たのでしょう。その由来を知ると、庭園の素晴らしさを的確に表現した絶妙な命名だったことが分かります。

名前通りの美しさを体験してみてはいかがでしょうか

兼六園 写真提供:金沢市
兼六園 写真提供:金沢市

かつて加賀百万石とも呼ばれた金沢には、今でも多くの歴史的建造物があり、江戸時代にタイムスリップしたかのような街並みが残っています。

また、北陸新幹線が開通したことで、大阪・東京からそれぞれ約2時間で行けるようになり、国内だけでなく海外からも多くの観光客が訪れます。

風情ある街並みに佇む兼六園は、「兼六園」の名前に匹敵するほどの美しさがあります。ぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。

谷口純平
WRITER PROFILE

谷口純平

福岡在住。伝統工芸など日本文化を中心に活動。夢は「小学生のなりたい職業ランキング」の10位以内に"職人"をランクインさせること。折り紙は結構得意です(折紙講師資格取得)

Twitter:@jumpaper_inc

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