2021.02.28

コロナ以降の新しい展覧会のかたちを探る。リアルとオンライン空間で多層的に展開する展覧会。 / 多層世界の中のもうひとつのミュージアム——ハイパーICCへようこそ(ICC, オンライン)

わたしたちに新しい発見を与えてくれたり、日常を忘れるような美しいものを見せてくれたり、時には今までの常識を考え直すきっかけを与えてくれる「展覧会」。ところが、2020年には多数の美術館・博物館での展覧会が中止・延期となり、その後も展覧会のかたち自体が変化してきています。

展覧会の会場をまるごとVR化したり、動画や写真で作品を紹介したりと、オンラインと組み合わせた新しい展示の方法も試みられてきました。

そんな中、リアルな会場をそのままオンラインで見せるのとは違った、新しい展覧会のありかたの模索も行われています。この記事では、リアル会場とオンラインの会場で、メディア・アートの手法によって新しい展覧会のあり方の可能性を探る試み「多層世界の中のもうひとつのミュージアム——ハイパーICCへようこそ」展をご紹介します。

多層世界の中のもうひとつのミュージアム――ハイパーICCへようこそ photo by ぷらいまり
リアル会場(ICC) エントランス

リアル会場で体験する、リアルとヴァーチュアルを融合した作品群

この展覧会を開催しているのは、新宿の東京オペラシティ内にあるNTTインターコミュニケーション・センター (ICC)。1997年のオープン以来、VRやインタラクティヴ技術などの最先端テクノロジーを使ったメディア・アート作品を紹介してきたほか,ネットワーク上での作品公開などもいち早く展開してきました。

リアル会場であるICCの展示室に入ってまず目をひくのは、先日「GINZA SIX ART CONTAINER」の記事でもご紹介した藤倉麻子さんによる作品《それらしい場所》。カラフルな立体作品が並びます。そこにアプリをダウンロードしたスマートフォンのカメラを向けると、リアルな作品にARの世界が重ね合わされ、目の前の世界が、動きを伴う立体的な映像作品へと変化していきます。

《それらしい場所》/ 藤倉麻子 (ICCでの展示風景) photo by ぷらいまり
《それらしい場所》/ 藤倉麻子 (ICCでの展示風景)

また、コンピューター上に仮想の世界を構築し、それをキャンバスの上に絵画として描き出す作品を展開する原田郁さんによる《WHITE CUBE – WHITE CUBE》は、リアル会場ではその質感のユニークな絵画を楽しめるほか、壁面と床面の二次元に描かれた絵をカメラで撮影すると三次元の奥行き感が見える作品など、リアルな場でありながらも「目で鑑賞する」だけではない作品が並びます。

《WHITE CUBE - WHITE CUBE》/ 原田郁 (ICCでの展示風景) photo by ぷらいまり
《WHITE CUBE - WHITE CUBE》/ 原田郁 (ICCでの展示風景)

特殊な機器は不要。自宅で体験する ヴァーチュアル会場だからこそ楽しめる作品群

一方、こちらの展覧会でユニークなのは、「ヴァーチュアル初台」「ハイパーICC」として、その展覧会そのものを自宅のPCダウンロードできてしまうことです。

「ハイパーICC」ではオンラインの空間に展覧会場が再現されていますが、会場がそのまま再現されているわけではなく、ヴァーチュアル空間ならではの鑑賞方法が取り入れられています。

例えば、紙の漫画とは読み方の異なる「ハイパーフレーミング・コミック」という独自の手法の漫画を展開する尾焼津早織さんの作品《全天球コミック》。ヴァーチュアル空間のなかでバルーン状の球体に入り込み、その内部に描かれた漫画を読むことができます。紙の漫画のように読む順番に制約がなく、視点の移動によっていくつものストーリーが並行して展開される漫画を読むというのは、物理的な制約でリアルな空間では体験できない不思議な鑑賞です。

《全天球コミック》 / 尾焼津早織 (ハイパーICC内での展示風景) photo by ぷらいまり
《全天球コミック》 / 尾焼津早織 (ハイパーICC内での展示風景)

また、さきほど紹介した原田郁さんの作品では、ヴァーチュアル会場にある絵画を「窓」として仮想の世界に入り込み、その世界を散策することもできます。仮想世界にあるオブジェはペーパークラフトとしてダウンロードし、自宅で再現することもでき、展覧会の会場、ヴァーチュアルの会場、そして自宅と、何層ものレイヤーからその作品を楽しむことができます。

《WHITE CUBE - WHITE CUBE》/ 原田郁 (ハイパーICC内での展示風景) photo by ぷらいまり
《WHITE CUBE - WHITE CUBE》/ 原田郁 (ハイパーICC内での展示風景)

リアル会場の“代替”ではない。オンラインでのあたらしい展覧会のかたち

ところで、このヴァーチュアルの会場を歩き回っている間、その主体は操作を行っている「自分自身」だと無意識に思い込んでしまいます。ところが、しばらく操作をしているうちに、会場を歩き回っている「身体」は、ご自身のアバターを使った作品を多く製作するメディア・アーティストの谷口暁彦さんのアバターであることに気付きます。視点と身体が別々であるというのは、テレビゲームなどの世界では当然のように受け入れられることですが、作品鑑賞のなかでは自分自身が「視線」だけの存在になるような、不思議な感覚になります。

《ヴァーチュアル・フォトグラフィ/ヴァーチュアル自撮り》 / 谷口暁彦  (ハイパーICC内) photo by ぷらいまり
《ヴァーチュアル・フォトグラフィ/ヴァーチュアル自撮り》 / 谷口暁彦 (ハイパーICC内)

ヴァーチュアル会場の中では《ヴァーチュアル・フォトグラフィ/ヴァーチュアル自撮り》として、そのヴァーチュアル空間の中で,仮想のスマートフォンを使って写真撮影を行うこともできます。「PCの画面のなかで、仮想の風景を仮想のスマートフォンで撮影をする」という体験はナンセンスな体験にも感じられますが、例えば、自分たちが展覧会の会場で写真作品の写真を撮影したりするのはそれと違うのだろうか?と、身近にもある入れ子の構造を意識してしまいます。

会場に足を運んでリアルな作品を見ることの”代替”としてのオンライン空間での鑑賞ではなく、オンラインの会場であるからこそ見えてくるものがある、そんな新しい展覧会のかたちについて考えさせられる展覧会です。

会期中には「ハイパーICC」のアップデートや、作品の追加やポッドキャストコンテンツの追加、パフォーマンスの開催など、展覧会自体も拡張されていくようです。

何層もの鑑賞体験の可能性を感じられる新しい鑑賞体験の試み、まずは気軽に自宅から体験してみませんか?

展覧会概要

多層世界の中のもうひとつのミュージアム――ハイパーICCへようこそ

●オンライン展示

開催期間 2021年1月16日(土)—3月31日(水)
会場   https://hyper.ntticc.or.jp/
体験料  無料

●リアル展示

開催期間 2021年1月23日(土)—3月14日(日)
会場   NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]  ギャラリーA
開館時間 午前11時—午後6時
入場料  無料(事前予約制)https://www.e-tix.jp/ntticc/
休館日  月曜日,保守点検日(2月14日(日))

※ 休館日以外においても,開館時間の変更および臨時休館の可能性がございます。

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ぷらいまり

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl
Twitter:@plastic_candy

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