カチカチと柱時計の音が響き、時折ジリリと聞こえてくる黒電話のベル。和箪笥の上には木彫りのクマ…
なんだかレトロな旅館に迷い込んだようなこの空間、目黒にあるホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財 「百段階段」で開催中の、「古今東西ニッポンの風景」展への入り口です。
レトロなのに新鮮な、ここでしか体験できない”ニッポンの風景”への旅を楽しめる本展をご紹介します。
文化財建築の中でタイムスリップの旅へ
「古今東西ニッポンの風景」展は、日本各地の、その土地ならではの風景や食、民藝品など、地域の歴史や風土をつくるものに注目した展覧会です。
旅先で出会う、その土地ならではのものや風景は、わたしたちを少しだけ非日常に連れて行ってくれますよね。今回は文化財建築の空間に、時には創作も交えたさまざまな「ニッポンの風景」が登場します。
東京都指定有形文化財「百段階段」とは?
ホテル雅叙園東京にある文化財「百段階段」は、今年で築88年となる木造建築。急斜面の坂に沿って建てられた7つの部屋を、99段の階段廊下でつないでいます。
各部屋の天井や欄間には、建設当時の著名な画家達による絵画が描かれ、部屋ごとに豪華な装飾も楽しめる建築です。
撮影も楽しめる 映画のセットのような空間
それでは展覧会へ。最初の部屋は「十畝の間」。横山大観らと並ぶ近代日本画壇の大家、荒木十畝による天井画の美しい部屋です。
こちらには、旅館や古いおうちにあるような家具が並びます。映画のセットのような空間に入り込み、中で撮影を楽しむこともできるんです。
階段箪笥で仕切られた「書斎」のエリアには、螺鈿の火鉢や硯箱も置かれています。旅館で執筆作業にいそしむ文豪のような気分も味わえるかもしれませんね。
また、「広緑(ひろえん)」エリアには、よく旅館の窓際にある、小さなテーブルと椅子の置かれたスペースが再現され、ホテル雅叙園東京のお庭の風景も楽しめるようになっています。窓の内外には、紙細工の「かみにしきごい」が空中を泳ぎ、幻想的な雰囲気です。
懐かしい雰囲気なのに新鮮?!架空の都市を舞台にした作品も
”架空の“温泉街の”ホンモノの“ネオン
「星光の間」の薄暗い空間に浮かび上がるのは独自のイラストとタイポグラフィを融合させたアーティスト・はらわたちゅん子さんによる作品「ゆのまちネオン」。架空の温泉街の看板を描いたシリーズです。
架空のお店なのに、どこかの温泉街に実在しそうな看板ですよね。デジタルで描いたイラストがアクリルパネルに転写され、暗い空間の中でカラフルな線が鮮やかに浮かび上がります。レトロな雰囲気なのに未来も感じさせるような不思議な感覚です。
今回は、なんと一部の作品をホンモノのネオン管で再現。
こちらは、以前「ナンスカ」でもご紹介させていただいた、屋外広告のデザイン・設計などを行う企業「アオイネオン」とのコラボレーションです。
50本ものネオン管を使用し、イラストを忠実に再現する職人さんによる繊細な仕事に驚きます。管の中でゆらゆらと揺らぐネオンの光からは、LEDとは違った、柔らかく温かい雰囲気も感じられるのではないでしょうか。
細かい部分までこだわりの詰まった ”理想の空間”のイラスト
「静水の間」には、イラストレーター・中村杏子さんによる、観ているだけでも楽しくなるようなカラフルなイラストの作品が展示されています。
ミニチュアやドールハウスのような建物のなかに、レトロポップなアイテムが配置されたイラスト。これらは、中村さんが「こんな場所があったらいいな」という理想の空間を描いたものだそうです。
「いぬはりこ」や「おきつね」といった作品に登場するキャラクターたちは会場内にも配置され、イラストの世界と現実の空間とをつないでくれるようにも感じられます。
地元のものは見つかった? 個性豊かなこけしやパンも
実はこんなにバリエーション豊富!奥深いこけしの世界
旅といえば、楽しいのはおみやげ選び。中でも民芸品のお土産はレトロな雰囲気が感じられますよね。「草丘の間」には、民芸品のなかでも誰もが知っている「こけし」がたくさん!
これらは、イラストレーターで郷土玩具蒐集家である佐々木一澄さんのコレクション。著書「こけし図譜」の原画とともに、約200体のこけし、郷土玩具などが展示されています。
「こけし」と一言でいっても、実は地域によって作り方やデザインに大きな違いがあるのに驚きます。日本人なら誰もが知っているようで、奥深いこけしの世界。作り手の方のイラストもあり、こうした伝統を守るひとたちの顔が見えてくるのも面白い展示です。
懐かしの「地元パン」と再会?
そして、最上階の「頂上の間」の壁面に並ぶのは、たくさんのパンの袋!こちらでは、甲斐みのりさんによる書籍「日本全国地元パン」の内容とともに、彼女が蒐集するパンの袋などが展示されています。
コンビニでは見たことがないようなレトロでかわいいパッケージの中には、「これ、地元でよく食べてたパン!」なんて、懐かしい再会があるかもしれません。
こうした地元のものって、地元を離れて初めて「他では売っていないの?」なんて気づいたりしますよね。今は全国どこでも同じ物が手に入りやすくなっていますが、地元だけで知られているパンと再会すると、旧友と再会したような嬉しい気分にもなりますね。
まとめ
「古今東西ニッポンの風景」展は、歴史ある建物の中で体験できる、懐かしく、でも不思議と新鮮な感覚にもなる展覧会でした。今回展示されていた作品に関連する書籍やグッズは売店で購入することもでき、お土産選びも楽しいです。
また、展覧会とあわせて着物のレンタルや食事もセットとなった「レトロ着物ランチ」のプランも。本展は、ほぼ全ての作品が撮影も可能なので、着物で撮影を楽しんだら、タイムスリップの旅気分がもっと味わえるかもしれませんね。
展覧会情報
和のあかり×百段階段2023 ~極彩色の百鬼夜行~
公式サイト https://www.hotelgajoen-tokyo.com/100event/nippon
会場 ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
会期 2023年12月2日(土)~12月24日(日) 2024年1月1日(月・祝)~1月14日(日)
※2023年12月25日(月)~12月31日(日)は休館
時間 11:00~18:00(最終入館 17:30)
入場料 一般 ¥1,500、学生 ¥800