「改札で待ち合わせって…どの改札?」とならないために。数学で大切な考え方「一意性」を知っておこう

みのきち
みのきち
2021.08.13

普段、私たちが見ているこの世界。
ほんの少しだけ「数学」を知ってみると、意外な奥行きが見えてくるかもしれません。

今回のテーマは、数学において大切な考え方である「一意性」です。

耳慣れない言葉かもしれませんが、「一意性」を知っておくと、日常生活に役に立つことも。まずは「待ち合わせ」の例から、「一意性」の大切さを探っていきましょう!

改札で待ち合わせって…どの改札?

「待ち合わせ」で失敗したこと、ありませんか?

例えば、「A駅の改札で待ち合わせ」と約束していて、いざA駅に行ってみると、改札が3つもあった……なんてこと、ありますよね。

特に、渋谷駅のような巨大な駅の場合、「改札で待ち合わせ」という約束では、その待ち合わせがうまくいく可能性は低いでしょう。3つどころではなく、渋谷駅にはたくさんの改札が存在しているので、「どこに行けばいいの!?」と混乱してしまいます。

しかし、渋谷駅の場合、便利な「ハチ公像」がありますよね。

「ハチ公の前で待ち合わせ」と約束しておけば、「どこ!?」となることはなく、待ち合わせした人たちが同じ場所へ向かうことができます。ハチ公前は人が多いので、お互いを見つけるのは少々困難かもしれませんが、それでも「待ち合わせした人たちが全然違う場所にいる」という事態は防げます。

こんな風に、待ち合わせの約束のときには「待ち合わせ場所は、その場所が1か所に定まるかどうか?」を事前に確認しておくことは、とても大切です。

待ち合わせの場面のほかにも、「○○は1つに定まるかどうか?」を意識しておくことで、コミュニケーションが円滑になる場面があります。

例えば、友だちと話しているとき、「鈴木さん」の話題で盛り上がったとしましょう。実は、自分が想定している「鈴木さん」と、相手が想定している「鈴木さん」が全然違う人だったとしたら……色々と誤解が生まれてしまうかもしれません!

会話のどこかで「お互いが想定している『鈴木さん』は一人に定まるか」を確認しておけば、避けられた事態です。

このように、様々な場面で「○○は1つに定まるかどうか?」を意識することは、とても大切ですよね。

「一意性」とは?

「ただ1つに定まり、それ以外には存在しないこと」を表す「一意性」という言葉があります。

日常生活であまり使わない言葉ですし、「一意性」と言われてもピンとこない人は多いと思います。しかし、数学ではよく使われる言葉で、「一意性」は数学において非常に大切なのです。

例えば

\[
2x=6
\]

を満たす\(x\)は\(x=3\)の1つに決まります。

一方で

\[
x^2=4
\]

を満たす\(x\)は、どうでしょうか?

「\(x=2\)だ!」と答えたいところですが、\(x=-2\) も \(2\) 乗すると \(4\) になりますよね。つまり、\(x=2\) と\(x=-2\) の両方とも、方程式の解となります。

最初の例では、方程式の解が1つだけですが、2つ目の例では、方程式の解は2つ存在していますよね。

このように、数学では「ただ1つに定まり、それ以外は存在しないかどうか?」、つまり、「一意性」を意識していないと、正しい答えを導き出せないことがあるのです。

最初の例のような場合を「方程式の解は“一意に定まる”」と、表現します。

ちなみに、「一意」は、英語ではunique(ユニーク)と言います。「ユニーク」と聞くと、「個性豊か」や「おもしろい」というイメージがありますが、こんな意味もあるんですね!

簡単な掛け算にも一意性が!

では、数学における「一意性」をさらに体験してみましょう!

そのために、「正の整数の掛け算」に注目してみます。
※正の整数とは、1, 2, 3, 4, 5,…といった数のことです。

例えば、36は

\begin{align*}
36&=4\times9\\
36&=2\times18\\
36&=6\times6
\end{align*}

など、様々な正の整数の積で表現することができます。

つまり、36を正の整数の積で表現する場合、その仕方は一意に定まりません。

しかし、これを「素数の積」で表現するとなると、状況は変わります。
※素数とは、1より大きい整数で、1と自分自身以外で割れないもののことです。2や3や5は素数ですが、6は2や3で割れるので素数ではありません。

36を素数の積で表現すると

\[
36=2\times2\times3\times3
\]

となり、「2, 2, 3, 3」の組み合わせしかありえません。

他にも、108を素数の積で表現すると

\[
108=2\times2\times3\times3\times3
\]

となり、「2, 2, 3, 3, 3」の組み合わせで表現され、これしかありえません。

255を素数の積で表現すると

\[
255=3\times5\times17
\]

となり、「3, 5, 17」の組み合わせで表現され、これしかありえません。

「正の整数の積」の場合は様々な表現の仕方があっても、「素数の積」では、ただ1通りの表現の仕方に定まってしまうのです。

このような「正の整数は、素数の積で表現され、しかもその表現の仕方はただ1通りに定まる」という性質は「素因数分解の一意性」と呼ばれています。

「素因数分解」とは、正の整数を素数の積で表現すること。そして、その仕方は、一意に定まるという性質です。

素数の組み合わせ方で、正の整数が決まってしまう……つまり、素数こそが、正の整数を決定づける構成要素であることを「素因数分解の一意性」が教えてくれています。

この性質は、正の整数について考える上で、非常に大切なものです。また、現代の抽象代数学では「素因数分解の一意性」を一般化した定理をよく使います。それほどまでに、重要な性質なんですね!

出席番号、社員ID…便利な「一意性」

「一意性」は、数学の世界だけのものではありません。私たちの日常生活でも、よく使われています。

その一つに「出席番号」があります。

@ナンスカ

50音順や誕生日順などで、クラス全員に、1, 2, 3, 4, 5,…と出席番号が振られていましたよね。

「個人を識別するのならば、名前でも良いのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、名前の場合は、たまたま同姓同名だったということが起こり得ます。もちろん、その確率は低いでしょうが、ないとは言いきれないですよね。また、生年月日も、たまたま同じ人がいる可能性があります。

しかし、出席番号であれば、その心配はいりません。「○○中学校 2年1組 出席番号13番」という情報で、○○中学校にいる1人の個人を指し示すことができます。つまり、出席番号により、「ただ1人の個人が定まり、それ以外には存在しないこと」を実現しているのです。

他にも、社員IDや会員番号も、同じような考え方で、数字やアルファベットの羅列が一人一人に振られていますよね。個人を識別し、情報を管理するためには「一意性」はなくてはならない存在なのです。

このように考えると、数学に限らず、「一意性」はとても便利なもので、私たちの日常生活によく使われていることがわかります。

「個人の識別」以外にも、物には製造番号が振られていたり、駅の出口には「B3」「C2」などの出口番号が振られていたり。私たちは、「一意性」に囲まれて生活していると言っても過言ではありません。ぜひ、日常の中で「一意性」を意識してみてくださいね!

みのきち
WRITER PROFILE

みのきち

東京生まれ東京育ち。大学と大学院で数学を専攻。最近は、数学の命題をプログラミングして具体例を確かめることにハマっている。入浴剤とドリップコーヒーを集めるのが好き。ドイツ語の勉強中。散歩がてらパン屋を見つけると入ってしまう。

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