2022.05.27

もしも、算数の「秒速1mで歩くたかしくん」が加速や減速をしたら? ~意外と身近な微分の話~

普段、私たちが見ているこの世界。
ほんの少しだけ「数学」を知ってみると、意外な奥行きが見えてくるかもしれません。

今回のテーマは「秒速1mで歩くたかしくん」です。

算数の問題でよく出現する存在ですが、もしも、たかしくんが加速や減速するとしたら……一体どのように速さを計算すれば良いのでしょうか?

ありえない!?秒速1mで歩くたかしく

「たかしくんは秒速1mで歩いています」というような文章を、一度は目にしたことがある人は多いと思います。

たかしくんは秒速1mで歩いています

算数の問題でよくある設定ですが、改めて考えてみると、ちょっと不思議なことがあります。

私たちは、常に同じ秒速で歩くことはできないですよね。

ある程度のペースを保って歩いていたとしても、多少は加速したり、減速したりしますし、ときには信号で止まることもあります。

もしかしたら、小学生時代に、問題を解きながら「必ず秒速1mで歩くたかしくんって、ありえない!」なんて思ったことがある人もいるかもしれませんね。

では、現実のように、たかしくんが加速や減速をする場合、どのようにして歩く速さを計算すれば良いのでしょうか?

方法1 大体の目安を計算する

まず一つ目として、「大体の目安」を計算してしまう方法があります。

ジョギングをする

例えば、ジョギングをするときに「2時間で12km走ったから、1時間で6kmペース、1分で100mペースだな」などと考えることは、よくあると思います。

実際には、「1時間で、いつもピッタリ6km走っている」「1分で、いつもピッタリ100m走っている」なんてことはないはずです。

しかし、「その間、常に等速で走っていた」と仮定して計算することは、目安を知るために有効な方法ですよね。

このような計算は、たかしくんのケースでも使えます。

「たかしくんは、家から公園までの道のり600mを10分で歩いた」という情報が与えられたら、たとえ途中で加速や減速をしていたとしても、「その間、常に等速歩いていた」と仮定して、「分速60mだな」「秒速1mだな」と考えてしまうのです。

ざっくりすぎるようにも思えますが、このように求めた速さは、数学や物理では「平均の速さ」と呼ばれています。

小学校のときに計算していた速さは、この「平均の速さ」だったのかもしれませんね。

もちろん、実情とズレはあるものの、目安を知るのに便利ですし、ランニングやウォーキングが趣味の人たちにとって、そんなに珍しくない計算方法です。

速さを細かく調べるには?

では、もう少し速さを細かく精密に調べる方法も考えてみましょう。

ジョギング

先ほどのジョギングの例では「2時間で12km」、たかしくんの例では「10分で600m」という、スパンを考えて計算していました。

しかし、2時間や10分というスパンは、短距離走などには使えません。100mを10秒強で走ってしまう人は少なくないですよね。こういったケースでは、秒単位のスパンで考えるのが適切でしょう。

例えば、100メートル走の選手が走る様子を、直線コース全体が写る位置から1秒ごとに写真撮影することで、その選手が走る様子を調べることができます。

1秒後の写真、2秒後の写真、3秒後の写真……と撮影した写真を並べていくと、選手がダイナミックに加速している様子がわかるはずです。

もしも、カメラが連射機能を搭載しているならば、0.25秒ごとや、0.1秒ごとに撮影すれば、アニメのコマ送りのように、より精密に走る様子を調べることができます。

このように、たかしくんの歩く様子についても、短い時間を区切りつつ調べていくと、良さそうですよね!

方法2 「短い時間」に注目

ではたかしくんの歩く速さを、100メール走の選手を秒単位で撮影したように、細かく区切りながら調べていくとどうなるでしょうか。

たかしくんの歩く速さを、100メール走の選手を秒単位で撮影したように、細かく区切りながら調べていくと

家から出発して0秒後~1秒後までに、0.6m進んだとしましょう。このスパンでの平均の速さは、秒速0.6mとなります。

1秒後~2秒後までに、0.7m進んだとしましょう。このスパンでの平均の速さは、秒速0.7mとなります。

2秒後~3秒後までに、0.8m進んだとしましょう。このスパンでの平均の速さは、秒速0.8mとなります。

どうやら少しずつ加速しているようですね。

より精密に調べたい場合には、0.1秒ごと、0.01秒ごと、0.001秒ごと……というように、さらに時間を細切れにして、そのスパンでの平均の速さを計算していきます。

例えば、1分後~1分0.01秒後までに、0.009m進んだとしましょう。

このスパンでの平均の速さは

\[
\frac{0.009}{0.01}=0.9
\]

となるため、秒速0.9mとなります。

1分0.01秒後~1分0.02秒後までに、0.01m進んだとしましょう。

このスパンでの平均の速さは

\[
\frac{0.01}{0.01}=1
\]

となるため、秒速1mとなります。

時間をとても短く区切って、平均の速さを計算していくことで、たかしくんの歩く速さが、とても詳細にわかっていきますね。

さらに、考えるスパンを0.0001秒ごと、0.00001秒ごと……と、どんどん0に近付けて、平均の速さを計算してみると、より細かく精密に、歩く速さがわかってきそうです。

実は、この「限りなく0に近いスパンでの変化を調べる」という考え方は、まさに微分のアイデアそのものなのです。

関数\(f(x)\)を微分した\(f^{\prime}(x)\)は、以下のような数式で表されます。

\[
f^{\prime} (x)= \lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
\]

このように書くと難しそうに見えますが、少しずつ式の意味を見てみると、おおまかなイメージはつかめると思います。

たかしくんの例に合わせて、ざっくり説明すると、\(\lim_{h \to 0}\)は「考えるスパン(\(h\)秒)を限りなく0に近づける」という意味です。そして、分子の\(f(x+h)-f(x)\)は「\(x\)秒後から\(x+h\)秒後までの\(h\)秒間で進んだ距離」、分母の\(h\)は「\(h\)秒」という意味になっていて、平均の速さを求めていることが分かります。

つまり、限りなく0に近い\(h\)秒という、ものすごく短いスパンで考えて、たかしくんが歩く「一瞬一瞬の速さ」を計算している式であると考えることができるのです。

「難しい!」と言われがちな微分ですが、たかしくんの例に合わせて考えてみると、少し身近に感じられるかもしれません。

とはいえ微分を最初に習うのは高校ですし、大学以降も欠かせない分野なので、決して簡単な内容ではないと思います。そのため、まずは「わかりやすく等速であると仮定して考える」のは、速さについて学ぶスタートとして適切であると思います。

「秒速1mで歩くたかしくん」以外にも、算数や数学の問題では「ありえない!」と感じる設定が出てくることがありますよね。

そこで、思い切って「現実にありえる設定」に変えてみると、今回のように、内容の深みが増すことも。問題が複雑になって、難しくはなるかもしれませんが、すごく勉強になりそうですよね。

「ありえない!」でストップせず、「では、ありえる設定にしたら……」と考えてみると、算数や数学の問題に、さらなる奥行きが生まれるかもしれません!

補足

数学や物理において、「速度」と「速さ」は違うものです。「速度」はベクトルであり、「どの向きに進んだか?」という情報を持っています。一方で、「速さ」は「速度」の大きさ(スカラー)で、「どの向きに進んだか?」という情報を持ちません。とても簡単に言うと、速度は矢印で、速さは矢印の長さに対応しています。本記事では、わかりやすさを重視して、「速さ」だけで説明していますが、数学や物理を学ぶ際には、「速度」との違いに注意する必要があります。

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みのきち

みのきち

東京生まれ東京育ち。大学と大学院で数学を専攻。最近は、数学の命題をプログラミングして具体例を確かめることにハマっている。入浴剤とドリップコーヒーを集めるのが好き。ドイツ語の勉強中。散歩がてらパン屋を見つけると入ってしまう。

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