唯一無二のステージ表現は 果てしない試行錯誤から生まれる? / ライゾマティクス_マルティプレックス (東京都現代美術館)

ぷらいまり
ぷらいまり
2021.04.17

欲しいのは 偶然の成功ではなく 失敗の原因です

真鍋大度

リオオリンピック閉会式のパフォーマンスやPerfumeのライヴ演出、OK Goのプロモーションビデオなど、きっと誰もが一度は目にしたことがある作品を手がけてきたクリエイティブ集団・ライゾマティクス。結成から15年間、技術と表現の新しい可能性を探求し続けてきた彼らの展覧会が東京都現代美術館で開催されています。華々しいステージを多数手がけるライゾマティクスですが、展覧会の中では、その主宰の一人である真鍋大度氏の上記のような言葉が表れます。これはどういった意味なのでしょうか?

この記事では、ライゾマティクス初の美術館での大規模個展「ライゾマティクス_マルティプレックス」展をご紹介します。

過去15年の活動を振り返る展覧会

2006年に4名で活動をスタートしたライゾマティクス。新しいメディアを自分たちでつくりだした上で作品に発展させたり、複数の分野の技術・知識に精通するメンバーで全ての工程を完結させたりと、これまでの「メディアアート」とはまた違った方法で表現を探る、新しいタイプのクリエイター集団です。

≪Rhizome≫ (2021) / ライゾマティクス  photo by ぷらいまり
≪Rhizome≫ (2021) / ライゾマティクス(写真撮影:ぷらいまり)

展覧会を構成する8つの作品のうち、7作品が新作という今回の展覧会。彼らの活動を振り返る「年表」までも《Rizomatiks Chronicle》という映像作品として展開されています。ライゾマティクスが15年間で手がけたプロジェクトは500超にものぼるそう!それらの膨大な作品のメタデータを使って自動で樹形図を生成していく作品となっています。

この作品を通じ、メディアアートの領域を超え、研究開発的要素の強いプロジェクトから、建築、デザイン、広告やエンターテイメントなどのビジネスまで、データ主導で様々な手法を用いた表現を追求してきた彼らの多岐にわたる活動の様子を観ることができます。

圧巻の新作インスタレーション群

新作の中でも特に大きな作品のひとつは、今回の展覧会のタイトルとも重なる新作《Rhizomatiks ✕ ELEVENPLAY “multiplex”》。AR(拡張現実), MR(複合現実), DR(減損現実)など、複数のレイヤーから構成されるダンスパフォーマンス作品です。自動走行するキューブのオブジェとプロジェクションによって演出された無人のステージを自動走行カメラが撮影。無人ながら「パフォーマンス」とも思えるステージがライブで展開されます。

《Rhizomatiks ✕ ELEVENPLAY
《Rhizomatiks ✕ ELEVENPLAY "multiplex"》 (2021) / ライゾマティクス(写真撮影:ぷらいまり)

また、自動走行カメラによって撮影されているリアルタイムのステージ映像と、事前に収録されたダンスカンパニー・ELEVENPLAYのパフォーマンスが組み合わされた映像も同時に展開。ステージ上には人がいなくても、その存在を感じられるようです。

《Rhizomatiks ✕ ELEVENPLAY
《Rhizomatiks ✕ ELEVENPLAY "multiplex"》 (2021) / ライゾマティクス(写真撮影:ぷらいまり)

また《particles 2021》は、2011年に発表された作品をアップデート。吹き抜け空間に構成された巨大なボールサーキットの上を多数のボールが転がり、そのボールにレーザー光を照射することで空間に光の像が描き出されます。物理的な構造は2011年の発表時と同様ながら、今回はボールの位置を検出するのにカメラを使ったトラッキングを利用するなど、新しい技術を取り入れることで表現がどう変わるのか?の検証も試みているといいます。

《particles 2021》 (2021) /  ライゾマティクス  photo by ぷらいまり
《particles 2021》 (2021) / ライゾマティクス(写真撮影:ぷらいまり)

類を見ない作品群は無数の試行錯誤から生まれる

圧巻の作品群のなか、今回の展覧会の中では≪Rhizomatiks Archive & Behind the scene≫として、過去の作品群の映像での紹介とともに、舞台裏での試行錯誤の様子が紹介されています。

プリント基板・プロトタイプ・治具(≪Rhizomatiks Archive & Behind the scene≫より)  photo by ぷらいまり
プリント基板・プロトタイプ・治具(≪Rhizomatiks Archive & Behind the scene≫より)(写真撮影:ぷらいまり)

2008年に発表され、音楽に合わせて顔の表情を電気信号で操作する映像がYouTubeで話題となった≪Electric Stimulus to Face≫のような実験的な作品の展示も。完成したパフォーマンスや映像作品はとてもスマートですが、そこにたどりつくまでに、新しいメディア・技術をどう使いこなすのか?と、手仕事的な試行錯誤を繰り返す様子がうかがえます。

≪Electric Stimulus to Face≫ https://www.youtube.com/watch?v=YxdlYFCp5Ic  YouTubeに公開された映像(上)とともに、会場にはそのデバイス(下)も展示されています。 photo by ぷらいまり
≪Electric Stimulus to Face≫ https://www.youtube.com/watch?v=YxdlYFCp5Ic YouTubeに公開された映像(上)とともに、会場にはそのデバイス(下)も展示されています。(写真撮影:ぷらいまり)

冒頭の “欲しいのは 偶然の成功ではなく 失敗の原因です” という言葉も、これらの試行錯誤の様子の映像に添えられたもの。1回の良い映像を収められれば良いのではなく、PerfumeやELEVENPLAYのステージや、リオオリンピック閉会式でのステージなど、その場限りの失敗のできないコラボレーションを多数展開し、革新的でありながらも再現性の求められる作品を展開してきたからこその言葉ですね。

Perfume《Reframe 2019》2019 年 (撮影:上山陽介)  [参考図版]  photo by ぷらいまり
Perfume《Reframe 2019》2019 年 (撮影:上山陽介) [参考図版](写真撮影:ぷらいまり)

その試行錯誤は真剣そのものでありつつ、失敗も楽しみながら新しい表現を生み出していく様子も印象的です。ライブで展開される作品群と、新しい表現が生まれる舞台裏。是非、会場で併せてご覧ください。

なお、今回の展覧会は2021年3月30日からオンライン会場でも展開されています。是非こちらでも楽しんでください。

展覧会情報

ライゾマティクス_マルティプレックス

展覧会サイト  https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/rhizomatiks/
オンライン会場 https://mot.rhizomatiks.com/

会場 東京都現代美術館
会期 2021年3月20日[土・祝]- 6月20日[日]
休館日  月曜日(5月3日は開館)、5月6日
開館時間 10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
観覧料  一般 1,500円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 900円 / 中高生 500円 / 小学生以下無料

※ 本展のチケットでMOTコレクションもご覧いただけます。(当面の間休室)
※ 小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※ 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
※予約優先チケットあり

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WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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