懐中電灯を片手に… 自分だけの「視点」を見つける展覧会。 / 「ストーリーはいつも不完全……」「色を想像する」ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展 (東京オペラシティ アートギャラリー)

ぷらいまり
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2021.05.05

視点を少し変えるだけで、知っている作品も全く違って見えてくる…そんなユニークな展覧会が、東京・初台にある東京オペラシティアートギャラリーで開催されています。

イギリスのアーティスト ライアン・ガンダーが、東京オペラシティアートギャラリーの所蔵する「寺田コレクション」をキュレーションする異色の展覧会、「ストーリーはいつも不完全……」「色を想像する」 ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展 (東京オペラシティ アートギャラリー)です。アーティストが手がけるコレクション展示は、私たちにどのような鑑賞体験をもたらしてくれるのでしょうか?

壁一面を埋め尽くす、モノクロームの作品たちとの対峙

3F, 4Fの2フロアで開催されるこの展覧会。それぞれのフロアで異なるテーマの展示となっています。4Fは「色を想像する」というテーマで、壁一面にモノクロームの作品ばかりが並びます。これは、東京オペラシティアートギャラリーの所蔵品である「寺田コレクション」の収集のテーマのひとつ、「ブラック&ホワイト」に呼応したもの。

4F 「色を想像する」 展示風景  photo by ぷらいまり
4F 「色を想像する」 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
向かい合った壁面には、作品と同じサイズの「枠」に作品タイトルなどの情報が記されるという独特な方法で展示がなされています。  photo by ぷらいまり
向かい合った壁面には、作品と同じサイズの「枠」に作品タイトルなどの情報が記されるという独特な方法で展示がなされています。(写真撮影:ぷらいまり)

壁を埋め尽くすような展示スタイルは、西洋の個人の邸宅における伝統的な美術品の飾り方にならった「サロン・スタイル」によるもの。この寺田コレクションが故・寺田小太郎氏の寄贈によるプライベート・コレクションであることを踏まえた展示方法なのだそうです。李禹煥や白髪一雄、斉藤義重、菅井汲らによる作品が壁一面に並びます。

2室目も同様にモノクロームの作品ですが、こちらでは展示室の中央から対称になるように、色やサイズ、アーティストやテーマが呼応する作品が並びます。例えば、一見、同じように「画面全体が真っ黒」にみえる作品も、並べて比較して見ることで、その画材や描き方の違い、考え方の違いが際だって見えます。

4F 第二室 展示風景  photo by ぷらいまり
4F 第二室 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

このフロアのテーマは「色を想像する」。故・寺田小太郎氏は、初めてカラー映画を見た際に「人間の想像力を深く呼び起こす白黒映画のほうがずっと魅力的だった」とがっかりしたというエピソードも。モノクロの世界というのは、私たちの想像をよりかき立てるのかもしれません。

暗闇の中、懐中電灯で作品を”見つける”

続く3Fでは、展示室に入る前に懐中電灯を受け取ります。このフロアのテーマは「ストーリーはいつも不完全……」。照明のない薄暗い展示室を、この懐中電灯を片手に歩いていきます。

3F 入り口。こちらで懐中電灯を受け取ります。 photo by ぷらいまり
3F 入り口。こちらで懐中電灯を受け取ります。(写真撮影:ぷらいまり)

薄暗い会場の中では、そこに作品が存在することは分かるものの、その色は全く見えません。普段あまり意識しませんが、私たちがものを見る・色を見るということは、光を見ているのだということを意識し直してしまいます。

3F 「ストーリーはいつも不完全……」展示風景 photo by ぷらいまり
3F 「ストーリーはいつも不完全……」展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

箔や岩絵具などを用いた作品は、懐中電灯で照らすことで、自身に向かって反射した光が暗闇からはっきりと浮かび上がり、明るい照明の下で見たときよりも魅力的にも感じられるかもしれません。

≪出るための入り口≫ / 川﨑麻児 photo by ぷらいまり
≪出るための入り口≫ / 川﨑麻児(写真撮影:ぷらいまり)

こちらのフロアは、「THE SEARCH 探索」「THE GAZE 注視」「PERSPECTIVE 視点」「PANORAMA パノラマ」「A VISION ヴィジョン」という5つのゾーンからなり、それぞれのゾーンで懐中電灯の小さな灯りの持つ意味合いが変わってくるようにも感じられます。

≪three eyes≫ / 山本麻友香 photo by ぷらいまり
≪three eyes≫ / 山本麻友香(写真撮影:ぷらいまり)

例えば「PERSPECTIVE 視点」の章では、小さな懐中電灯の灯りでは絵画全体を照らして見渡すことが難しい中、 懐中電灯を“サーチライト”のように使い、大きな作品の細部を見ていくことで、絵画全体で見ていたときには気づかなかった、ミクロな視点での魅力が見えてくるようです。

左 ≪YOGA―逆さの氣息≫ / 三宅一樹、右 ≪瀑布望遠≫ / 箱崎睦昌  photo by ぷらいまり
左 ≪YOGA―逆さの氣息≫ / 三宅一樹、右 ≪瀑布望遠≫ / 箱崎睦昌(写真撮影:ぷらいまり)

また、「A VISION ヴィジョン」の章では、懐中電灯の灯りが“スポットライト”のような効果を生み、絵画の中から劇場のようなストーリーを感じることもできます。

≪みる人≫ / 相笠昌義  photo by ぷらいまり
≪みる人≫ / 相笠昌義(写真撮影:ぷらいまり)

懐中電灯という道具によって、見る人それぞれの「視点」の違いが明快に可視化されるこの展示室。見る人によって異なる視点から、それぞれ異なるストーリーを紡ぐことができるのかもしれません。

コロナ禍で生まれた 異色の展覧会

アーティストが美術館の所蔵作品をキュレーションするという、一風変わった今回の展覧会。実は、当初はライアン・ガンダーの個展を開催予定だったものの、コロナ禍によって延期となり、当初は1フロアのみで予定していた「ガンダーが選ぶ収蔵品展」を全館で開催することとなったというもの。

ライアン・ガンダーの作品は、古今東西の美術作品や、日常生活で気に留めることのない物事をモチーフに、オブジェ、インスタレーション、絵画、写真、映像など様々な方法で表現するもの。既成概念に対して、ユーモアを交えながら独自の視点を落とし込むスタイルは、コンセプチュアルアートの最先端として国際的に注目を集めています。

展覧会 キービジュアル photo by ぷらいまり
展覧会 キービジュアル(写真撮影:ぷらいまり)

今回、惜しくもその個展は延期となったものの、その作風を存分に感じられるようでした。同じ作品でも、見せ方ひとつで印象は変わり、また、それを見る側のバックグラウンドや思想などでも変わってくる。作品の見え方はひとつではないということに気づかされる展覧会です。

「ストーリーはいつも不完全……」「色を想像する」ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展 (東京オペラシティ アートギャラリー) は、2020年6月20日までです。懐中電灯で照らして、自分だけのお気に入りの視点を見つけ出してみませんか?

展覧会情報

ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展 『ストーリーはいつも不完全……』『色を想像する』

特設webサイト https://www.operacity.jp/ag/exh239/
会期   2021 年 4 月 17 日(土) ~ 6 月 20 日(日)
会場   東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間 11:00-19:00(入場は 18:30 まで)
休館日  月曜日(5/3 は開館)
入場料  一般 1000円/大・高生 600円/中学生以下無料
※同時開催「project N 82 松田麗香」の入場料を含みます。

※新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡散防止にかかる緊急事態宣言の発令を受けた政府・東京都からの要請をふまえ、2021年4月25日[日]から5月11日[火]の予定で臨時休館いたします。その後の予定については、ウェブサイト( https://www.operacity.jp/ag/exh239/ )で改めてお知らせいたします。

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WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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