現代の「アマビエ」が伝えるものとは? ーーコロナ禍とアマビエ 6人の現代アーティストが『今』を考える(角川武蔵野ミュージアム)

ぷらいまり
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2022.03.19

世界中でCOVID-19が流行し始めた2020年に突如有名になり、今や誰もが知っている妖怪「アマビエ」。今、そんな「アマビエ」に注目した展覧会が開催されています。現代に表れる「アマビエ」とはどんな姿で何を伝えようとしているのでしょうか?

この記事では、所沢の角川武蔵野ミュージアムで開催中の 「コロナ禍とアマビエ 6人の現代アーティストが『今』を考える」 展 をご紹介します。

「アマビエ」ってどんな妖怪?

「アマビエ」は、江戸時代後期頃に制作された刷り物に記録が残っている妖怪。現在の熊本県の海に現れて「これから6ヶ年間豊作がつづく。しかし同時に疫病が流行するから、私の姿を描き写した絵を人々に早々に見せよ。」と予言を告げ、海の中へと帰って行ったというもの。

そんな伝説を受け、SNSではCOVID-19の収束を願ってアマビエを自己流にアレンジした作品が多数投稿されるなど、たくさんの人たちの創意工夫が見られました。

あえて流行していたアマビエ像を描いた ≪疫病退散アマビヱ之図≫ / 会田誠 photo by ぷらいまり
あえて流行していたアマビエ像を描いた ≪疫病退散アマビヱ之図≫ / 会田誠(写真撮影:ぷらいまり)

そんなコロナ禍の2020年11月にオープンした角川武蔵野ミュージアム。オープン時より 「コロナ時代のアマビエ・プロジェクト」として、現代を生きるアーティストたちに、リレー形式で「アマビエ」をテーマとした作品の制作を依頼してきました。角川武蔵野ミュージアム アート部門ディレクターの神野真吾さんは、「アマビエ」をめぐる動きを見て「イメージの力というものが人々に安心や希望や心穏やかに過ごせるという事につながるのではないか」と考えたのだそうです。

今回、その6人のアーティストの作品が一同に会します。

6人の現代アーティストがつくりだす、新しい「アマビエ」像

記録に残った「アマビエ」には、「長髪、鳥のようなくちばし、鱗のある身体、3本足」といった特徴がありますが、アーティスト達がつくりだしたアマビエはどんな生き物なのでしょうか?

岩が地面から突き出たような角川武蔵野ミュージアムの建物の外壁の側面に浮かび上がる、遠目からでもインパクトの強い巨大な作品は、鴻池朋子さんの≪武蔵野皮トンビ≫。

≪武蔵野皮トンビ≫ / 鴻池朋子 photo by ぷらいまり
≪武蔵野皮トンビ≫ / 鴻池朋子(写真撮影:ぷらいまり)

牛革の裏革を縫い合わせた巨大なトンビには、角川武蔵野ミュージアムの周辺で作者が見つけたたくさんの生き物たちが、水性塗料やクレヨンで描かれています。直射日光や風雨にさらされれば、変化・劣化していってしまいますが、ここには、「“作品は作家のもの“という物語や見方を断ち切る」というメッセージが込められているそう。

《武蔵野皮トンビ制作インスタレーション》/ 鴻池朋子 ミュージアム内には≪武蔵野皮トンビ≫の制作のための膨大な資料も展示されています。photo by ぷらいまり
《武蔵野皮トンビ制作インスタレーション》/ 鴻池朋子 ミュージアム内には≪武蔵野皮トンビ≫の制作のための膨大な資料も展示されています。(写真撮影:ぷらいまり)

このように、一般的な「アマビエ」の像にはしばられず、コロナ禍と向き合うなかで考えた、「不安、鎮魂、普遍的な存在、生命の連鎖」といったそれぞれのイメージと、メッセージが、新しいアマビエの姿として表現されています。

ミュージアムの中に入ると、植物が根を張り巡らすように床面に言葉が広がり、柱や壁面には様々な生き物が描かれた巨大な絵画が立ち上がります。さらに、洋服を作った際に捨てられるはずだったハギレから再び命を吹き込まれた立体の生き物たちの姿も。

≪綻びの螺旋≫ / 大小島真木 photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)
≪綻びの螺旋≫ / 大小島真木 photo by ぷらいまり
≪綻びの螺旋≫ / 大小島真木(写真撮影:ぷらいまり)

大小島真木さんの作品≪綻びの螺旋≫は、「私達も死ねば、土に帰っていく生物体なんだということを思い出しながら、そのイメージを大事にしながら、生きていかねばいけない」ということを考えて制作されたといいます。

≪綻びの螺旋≫ / 大小島真木 小さなハギレが丁寧に縫い合わされて生き物たちが作られています。 photo by ぷらいまり
≪綻びの螺旋≫ / 大小島真木 小さなハギレが丁寧に縫い合わされて生き物たちが作られています。(写真撮影:ぷらいまり)

混沌の中で「想像」や「創作」の持つ意味

4Fのエディット&アートギャラリーでは、参加アーティストたちのアマビエ以外の作品もあわせて展示されています。

≪reflectwo≫ / 荒神明香 角川武蔵野ミュージアムの水盤に映る風景に着想を得た作品 photo by ぷらいまり
≪reflectwo≫ / 荒神明香 角川武蔵野ミュージアムの水盤に映る風景に着想を得た作品(写真撮影:ぷらいまり)

「僕は、見る人が参加できる絵画を描きたいと思ってきました。」という大岩オスカールさんの作品 ≪path to the light≫ は、明るい光の中に引き込まれていきそうなカラフルな油彩画。

≪path to the light≫/ 大岩オスカール photo by ぷらいまり
≪path to the light≫/ 大岩オスカール(写真撮影:ぷらいまり)

アマビエをテーマに、幅約6.8m、高さ約2.9mの巨大な白い紙面に、感染が広がった国々の形をモチーフにした妖怪たちを黒いペンで描いた≪太陽と10匹の妖怪≫とは対照的にも見えますが、どちらの作品も中心にあるのは「光」。暗い話題の多い中でも、作品の中に希望の光を見いだせるような気持ちになります。

≪太陽と10匹の妖怪≫/ 大岩オスカール 妖怪たちも中央のちいさな「光」を見つめています。 photo by ぷらいまり
≪太陽と10匹の妖怪≫/ 大岩オスカール 妖怪たちも中央のちいさな「光」を見つめています。(写真撮影:ぷらいまり)

会田誠さんは、アマビエを描いた作品≪疫病退散アマビヱ之図≫の原画とともに、サラリーマンの死体が累々と重なる7メートルの巨大絵画≪灰色の山≫などの作品を展示。映像作品≪国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ≫は、作家本人が首相になりきり「鎖国」を提案するユーモラスな作品ですが、映像作品が発表された2014年当時には、まさかその数年後に本当に海外との往来が止められることが起こるなんて想像もできませんでした。

≪国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ≫ / 会田誠 photo by ぷらいまり
≪国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ≫ / 会田誠(写真撮影:ぷらいまり)

特に日常が今までと大きくかわっていく今、想像力を働かせることの意味や、創作の持つ力も感じられるような展覧会です。

≪SHI≫ほか、 川島秀明 作品 photo by ぷらいまり
≪SHI≫ほか、 川島秀明 作品(写真撮影:ぷらいまり)

まだ感染症の収束は見えませんが、コロナ禍の中でさまざまな経験を経て6名のアーティストのつくりだしてきた独自の「アマビエ」から、それぞれのメッセージを受け取ってみませんか?

展覧会情報

コロナ禍とアマビエ 6人の現代美術家が「今」を考える

公式サイト https://kadcul.com/event/65

出品作家  会田誠 鴻池朋子 川島秀明 大岩オスカール 荒神明香 大小島真木
会期    2022年01月22日(土)− 05月08日(日)
会場    角川武蔵野ミュージアム  4階  エディットアンドアートギャラリー
開館時間  日〜木 10:00–18:00   金・土 10:00–21:00
入館締切  閉館30分前まで
休館日   第1・3・5火曜日
※ 休館日が祝日の場合は開館・翌日閉館。
※ 祝日開館時の営業時間は該当する曜日に準ずる。
※ 開館日・時間は変更される場合もございます。休館日の最新情報を公式ウェブサイトでご確認の上、ご来館ください。
※ 展示内容が変更・中止となる場合がございます。予めご了承ください。

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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