日常がちょっぴり楽しくなるかもしれない、「かもしれない」の魔法 ーー「ヨシタケシンスケ展かもしれない」(世田谷文学館)

ぷらいまり
ぷらいまり
2022.05.11

「りんごかもしれない」「このあと どうしちゃおう」「みえるとか みえないとか」など、「絵本」なのに大人が読んでもくすっと笑ってしまったり、はっとしたりする作品をつくられてきたヨシタケシンスケさん。そのユニークな発想が生まれるまでの「頭のなか」をのぞき見るような、初の大規模個展が世田谷文学館を皮切りに全国の会場を巡回します。

この記事では、ヨシタケシンスケさんの絵本が大好きな方はもちろん、初めて見る方もきっと楽しくて発見のある展覧会「ヨシタケシンスケ展かもしれない」(世田谷文学館)をご紹介します。

会場に入る前からわくわくする看板が  photo by ぷらいまり
会場に入る前からわくわくする看板が

日常の中にある、「かもしれない」のアイデアのもと

例えば、男の子が “目の前にあるりんごは、本当はりんごじゃないのかもしれない”、と空想を膨らませていく絵本「りんごかもしれない」など、ヨシタケシンスケさんの絵本は、身近にあるものに対して、「もし○○だったら?」と想像を膨らましたり、普段とは少しだけ違った視点から見てみたりすることで、身の周りの「あたりまえ」が変化して見える面白さがあります。そんなユニークな発想はどこから浮かぶのでしょう?

展覧会の会場でまず圧倒されるのは床から天井まで、目の前一面を覆い尽くす小さなスケッチの数々!絵本作家としてデビューする以前から、ヨシタケさんが日々描きためてきた1万枚を超える膨大なスケッチから約2,000枚を複製して展示されています。

約2,000枚のスケッチ photo by ぷらいまり
約2,000枚のスケッチ(写真撮影:ぷらいまり)

道ですれ違ったちょっと気になる人だったり、こどもと過ごす中でのちょっとした気づきだったり、ちょっと嫌だなと気になったことだったりと、決して特別ではないけれど、日常の中でちょっと心にひっかかることが小さなイラストで書き留められています。

©Shinsuke Yoshitake  photo by ぷらいまり
©Shinsuke Yoshitake(写真撮影:ぷらいまり)

会場には、ヨシタケさんの私物も多数。形のおもしろいオブジェや、お土産屋さんで気になったちょっと変わった置物など。小さいけれども、なんだか面白いな、気になるなと思ってしまうものたちが並びます。

おもしろい形のオブジェが絵本のアイデアにもなることも?  photo by ぷらいまり
おもしろい形のオブジェが絵本のアイデアにもなることも?(写真撮影:ぷらいまり)

特別なもの・ことではないけれど「日常でちょっと心にひっかかること」を捉えていくことがアイデアのもとのひとつのように感じられます。

ユニークな絵本が「できるまで」

そんな「アイデアのもと」はどうやって「絵本」になっていくのでしょうか?会場では、人気の絵本ができるまでのアイデアスケッチが多数展示され、出版社からの「こんな本をつくりましょう」というリクエストから、実際の絵本になるまでの過程をみることができます。

展示会場の様子 photo by ぷらいまり
展示会場の様子(写真撮影:ぷらいまり)

A4サイズの紙に小さな文字とイラストで、ひとりでブレインストーミングするように、たくさんのアイデアが書き留められています。最初のテーマから大きく発想を広げ、たくさんのアイデアのなかから、ひとつのストーリーが紡ぎ出されていく過程が見えてきます。

例えば、“「未来はきっとこうなるからこうするしかない」と大人は言うけれど、こんな未来もあるかもしれない” という想像が膨らむ絵本「それしかないわけないでしょう」は、当初は「『統計学的に未来はこうなる』という絵本を書いてください」という依頼から始まったのだとか。それに対して、ヨシタケさんが「暗い未来だけを伝えるのはフェアじゃないなと思い考えた企画」なのだそう。何が大切で何が面白いと思えるのか、どの絵本にもヨシタケさん自身の視点で物語が紡ぎ出されていく様子がわかります。

「それしかないわけないでしょう」原画 ©Shinsuke Yoshitake photo by ぷらいまり
「それしかないわけないでしょう」原画 ©Shinsuke Yoshitake(写真撮影:ぷらいまり)

絵本の原画も展示されています。実際の絵本よりも小さなサイズで、モノクロで描かれた原画は、カラーの絵本とはまた違った魅力がありますね。

また、会場には、造形を専攻していた大学生時代や造形作家時代の作品など、絵本作家になる前の立体作品も多数展示されています。「三次元の立体造形を経たからこそ 二次元の魅力が見えてきた」*というヨシタケさん。過去の経験もすべてつながって絵本になっていく様子が感じられます。

立体作品「カブリモノシリーズ」の展示 photo by ぷらいまり
立体作品「カブリモノシリーズ」の展示(写真撮影:ぷらいまり)

展覧会ならではの体験

会場には、絵本の中を体験できるようなパネルや、インタラクティブな展示、そして、撮影スポットなども用意されており、ただ原画を展示するだけではなく、会場のいたるところにある遊び心が見られます。

絵本「つまんない つまんない」をモチーフにしたフォトスポット photo by ぷらいまり
絵本「つまんない つまんない」をモチーフにしたフォトスポット(写真撮影:ぷらいまり)

どんな展覧会だったら楽しいか?を考えて、ヨシタケさんが展覧会のために書いた構想メモはなんと70枚以上にも及ぶそう!せっかく展覧会まで足を運んだのだから「『僕だったらこうなったらうれしいだろうな』という望みが叶うような、『こんな元の取り方があるんだ!?』っていう展覧会にできたらいいなあって思います。」*と、会場ならではの体験ができるようになっています。

「ヨシタケシンスケ展かもしれない」 photo by ぷらいまり
(写真撮影:ぷらいまり)

最初の絵本が出るまで、「『将来絵本作家になるかもしれない』なんてことは、もう1ミリも、それこそ微塵も考えていなかった」*というヨシタケさん。展覧会を見ていると、今回の展覧会タイトル「ヨシタケシンスケ展かもしれない」の「かもしれない」は、身の周りのものの見方を少し変えてくれるだけではなく、自分自身に対しての思い込みまでも変えたり、「こんな道もあるのかもしれない」と別の道を示したりしてくれる言葉のようにも感じられてきます。

展覧会の帰り道には、目に入る様々なものたちが 「○○かもしれない」 なんて、見え方が変わってくるかもしれませんね。

「ヨシタケシンスケ展かもしれない」は、世田谷文学館で2022年7月3日まで開催された後、兵庫、広島、愛知の会場を巡回します。

*引用:「ヨシタケシンスケ展かもしれない 公式図録 こっちだったかもしれない」 (白泉社) より

展覧情報

ヨシタケシンスケ展かもしれない

公式サイト https://yoshitake-ten.exhibit.jp/
会期       2022年4月9日(土)~7月3日(日) (日時指定制)
会場       世田谷文学館 東京都世田谷区南烏山1-10-10 Tel. 03-5374-9111
開館時間     10:00~18:00(展覧会入場、ミュージアムショップは17:30まで)
休館日    毎週月曜日
観覧料    一般 1,000円 / 65歳以上・大学・高校生 600円 / 小・中学生 300円 / 障害者手帳をお持ちの方500円 (ただし大学生以下は無料)
オンラインチケットサイト https://www.e-tix.jp/setabun/

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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