2022.05.16

「写真みたいにそっくり」だけではない「リアル」な作品って? ーーリアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと(平塚市美術館)

本物そっくりに描かれた写実的な絵画や彫刻作品って、見たらやっぱり「すごい!」って思っちゃいますよね。

でも、わたしたちが「リアル」に感じられるものって、「写真みたいにそっくり」に、目に見えるそのままなのでしょうか? この記事では、日本ならではの「リアル(写実)」な表現に迫る展覧会「リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと」(平塚市美術館)をご紹介します。

平塚市美術館 外観 photo by ぷらいまり
平塚市美術館 外観

「美術」から外れてしまった? 日本にもあった 独自の「写実」表現

展覧会のメインビジュアルにもなっているのは、時代末から明治にかけて活躍した人形師・安本亀八による《相撲生人形》。筋肉や表情、影のつけ方までとても精巧につくられた等身大の人形です。こうした人形は「生人形(いきにんぎょう)」と呼ばれ、江戸時代後期から明治時代にかけて日本で制作されてきました。

安本亀八《相撲生人形》1890 年、熊本市現代美術館蔵
安本亀八《相撲生人形》1890 年、熊本市現代美術館蔵

明治20年代に滞日した人類学者シュトラッツは、「解剖学の知識もなしに強い迫真性をもって模写することができる」このような生人形師の力量に感嘆した*といいます。明治時代に入ってきた西洋の「美術」や「彫刻」の定義からは外れるために美術史の表舞台から消えていたという生人形ですが、そこにはまるで魂が宿っているかのようなリアルさがありますね。

こうした、人形などの人工物に「魂が宿る」という日本ならではの発想は、日本独自の「写実」の表現にもつながっていくようです。

「リアルな感覚」を描き出す絵画作品

今回の展覧会は、「絵画」と「彫刻」の2つのパートで「写実」が紹介されています。「絵画」のパートのはじまりで紹介されるのは、江戸後末期から明治中頃に本格的な油絵技法を習得した洋画家・高橋由一の作品。東洋画とは異なる新たな技法を取り入れながらも、「精神性の重視」という東洋画の伝統に重きをおいていたといい、西洋由来ではない日本独特の写実がつくられていきます。

高橋由一《豆腐》1877 年、金刀比羅宮蔵
高橋由一《豆腐》1877 年、金刀比羅宮蔵

そうした独自の「写実」の捉え方は、現代にもつながっていくようです。

升や木桶などのなかで優雅に泳いでいるように見える金魚をモチーフにした作品は、現代の美術作家・深堀隆介さんの作品群。立体的に見える金魚は、何層もの透明な樹脂の上に絵の具を重ね、3Dプリンタのように2次元を積層して作り出されたもの。樹脂で水面のゆらぎまで再現され、金魚が想起させる美しさとはかなさのような、一瞬の印象を閉じ込めたような作品です。

深堀隆介《桜升 命名 淡紅》2017 年、平塚市美術館
深堀隆介《桜升 命名 淡紅》2017 年、平塚市美術館

深堀さんは、興福寺国宝館で「目にした仏像群が、不思議なことに全て動いて見えた」*という、日本のリアリズムを強烈に感じる体験をしたことがあるといいます。実際の人間とは少し形が異なる「仏像」でありながらも生きているように感じられるリアリティは、深堀さんの作品のリアリティにも通じるものが感じられます。

巨大なキャンバスに、器やカーテンなど、ごく身近にあるものたちを鉛筆だけで描きだすのは、秋山泉さんの作品群。1点のモチーフ以外は何もない空間が広がっているものの、そのまわりにある「空気感」が伝わってきます。「ものはそのものだけで存在しているわけではないということは、制作中に何度も意識することだ」*という秋山さんの作品には、モチーフのまわりにある空気や気配もふくめて描き出されているようです。

作者のまなざしも再現されるような彫刻作品

「彫刻」のパートでは、さまざまな素材でつくられた立体作品が並びます。会場入り口に鎮座するのは、鉄鍛金家・本郷真也さんによる≪盈虚 -鐵自在イグアナ-≫。鉄という素材で制作されたものでありながら、人が近づくと手足や尻尾が滑らかに動き、一見して硬い素材のイメージが鮮やかに裏切られます。

本郷真也《盈虚 -鐵自在イグアナ-》2019-2022 年、個人蔵 photo by ぷらいまり
本郷真也《盈虚 -鐵自在イグアナ-》2019-2022 年、個人蔵

「鉄の錆びていく特性に生命の摂理を重ねている」*という本郷さん。変化し続ける生物と、いつまでも変わらないような金属。一見相反するようにも見えるものながら、長期でみれば、同じように変化しつづけるものなのですね。

漆芸作家・若宮隆志さんは、木と漆を素材に、石や陶磁器、金属など、様々な質感を再現しています。「私が目指しているのは見立てを通して自分の思想を具現化することであり、見立ては表現したい対象を別の何かになぞらえて表現する方法」*と言います。朽ちた金属を再現した作品など、素材を再現するだけでなく、道具への哀愁のようなまなざしも感じられるようです。

モチーフそのものが「そっくり」なだけではなく、そこに宿っている気配やそのまわりの空気、作者のまなざしまでもが、見る人の中に再生されるような「写実(リアル)」を体験できる展覧会です。

「リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと」(平塚市美術館)は、2022年6月5日(日)までです。その後、足利市立美術館、高岡市美術館、ふくやま美術館、新潟市美術館、久留米市美術館 を巡回します。

*引用:「リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと」 図録

展覧会情報

市制90周年記念 リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと

展覧会URL https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/page14_00283.html

会期    2022年4月9日(土曜日)~6月5日(日曜日)
※会期中展示替えがあります(前期:4月9日~5月8日、後期:5月10日~6月5日)
開館時間  9時30分 ~17時(入場は16時30分 まで)
休館日   月曜日
観覧料金  一般900円/高大生500円
※中学生以下、毎週土曜日の高校生は無料
※各種障がい者手帳をお持ちの方と付添1 名は無料
※65歳以上で平塚市民の方は無料、市外在住の方は2割引 (年齢・住所を確認できるものをご提示ください)

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ぷらいまり

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl
Twitter:@plastic_candy

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