作品を見ていたつもりが、いつの間にか作品の一部に? ——飯川雄大「デコレータークラブ 同時に起きる、もしくは遅れて気づく」 (彫刻の森美術館)

ぷらいまり
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2022.08.26

小田急線の駅で、ちょっと不思議な貼り紙を見つけました。

小田急線全駅に掲示されているポスター
小田急線全駅に掲示されているポスター

「猫の小林さんを探しています!」という猫探しのポスター。そこに掲載されているのは、ピンク色で巨大な猫…?

「ピンクの猫の小林さん」って一体何者?この記事では、箱根にある「彫刻の森美術館」で開催中の展覧会「飯川雄大 デコレータークラブ 同時に起きる、もしくは遅れて気づく」をご紹介します。

彫刻の森美術館とは?

舞台となる箱根の「彫刻の森美術館」があるのは、箱根登山鉄道 終着駅「強羅」の一駅手前。箱根の山の雄大な自然を楽しめる、1969年にオープンした国内初の野外美術館です。

彫刻の森美術館の庭園(写真撮影:ぷらいまり)
彫刻の森美術館の庭園(写真撮影:ぷらいまり)

広大な敷地内に約120点の彫刻が展示されるほか、子供たちが中に入って遊べる「ネットの森」や、大人も塔の上まで登ることができる「幸せをよぶシンフォニー彫刻」のような体験型の作品、ピカソ館といった屋内展示や足湯もあり、1日楽しむことができます。

幸せをよぶシンフォニー彫刻 (写真撮影:ぷらいまり)
幸せをよぶシンフォニー彫刻 (写真撮影:ぷらいまり)

写真に写しても伝わらないもどかしさ《デコレータークラブ ─ピンクの猫の小林さん─》

そんな「彫刻の森美術館」の庭園を散策していると突然目の前に、巨大なピンクの猫が!その巨大さ、かわいらしさに思わずカメラを向けてしまいますが… どの位置から撮影しても、木の陰に隠れてしまって、うまく写真に収められません。

《デコレータークラブ ─ピンクの猫の小林さん─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)
《デコレータークラブ ─ピンクの猫の小林さん─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)

では、木が入らないようにと近づいて見ると… 今度は大きすぎて全体像を捉えることができません。どうやっても上手く撮影させてくれない、この巨大なピンクの猫。一体何者なの?

《デコレータークラブ ─ピンクの猫の小林さん─》/ 飯川雄大 (通常はこの角度からは撮影できません)(写真撮影:ぷらいまり)
《デコレータークラブ ─ピンクの猫の小林さん─》/ 飯川雄大 (通常はこの角度からは撮影できません)(写真撮影:ぷらいまり)

実はこちらの猫、「飯川雄大「デコレータークラブ 同時に起きる、もしくは遅れて気づく」」展の《デコレータークラブ ─ピンクの猫の小林さん─》という作品なんです。

作品なのに「ちゃんと見えない」なんて、変な感じですが、制作したアーティストの飯川雄大さんは、「普通、彫刻作品は、作品と鑑賞者の適切な距離や、いろんな角度から作品を楽しめるように展示を設計しますが、この作品では違和感を作りたい」と言います。

《デコレータークラブ ─ピンクの猫の小林さん─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)
《デコレータークラブ ─ピンクの猫の小林さん─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)

また、例えば、旅行先でかわいい猫に出会って写真を撮ったとき、撮影した自分にとっては「特別な体験」を写した写真だけれど、その写真をSNSにアップしても、見た人にはその「特別」な感覚は伝わらないのではないのではないかという疑問も、この作品で表現されているそうです。

巨大なピンクの猫が突然目の前に現れる驚きは写真だけでは伝えづらい上に、うまく撮影できないことでさらに伝わらないもどかしさを感じるかもしれません。そんな「他の人への伝えづらさ」を、「小林さん」を撮影して体験してみてくださいね。

気づけば自分も作品の一部に?《デコレータークラブ ─0人もしくは1人以上の観客に向けて─》

この展覧会は、「アートホール」という屋内の会場にも作品があります。会場に入ると、中はロープでいっぱい!ロープとつながった「ハンドル」は、自由に回せるようになっています。

《デコレータークラブ ─0人もしくは1人以上の観客に向けて─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)
《デコレータークラブ ─0人もしくは1人以上の観客に向けて─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)

いくつかあるハンドルを回してみると、壁に掛けられたバッグが持ち上げられたり、壁に張り巡らされたロープで作られた文字の色が変化していきます。

《デコレータークラブ ─0人もしくは1人以上の観客に向けて─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)
《デコレータークラブ ─0人もしくは1人以上の観客に向けて─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)

一方、回しても何が起こっているのか分からないハンドルも。つながっているロープを目で追ってみると、ロープは展示室の外へ…。

屋外を探してみると、ロープをつかった様々な仕掛けがあるようです。屋内でハンドルを回している本人は自分の起こしている変化に気づかず、一方で、遠く離れた場所にいる誰かが、その変化を見て驚いているかもしれませんね。

《デコレータークラブ ─0人もしくは1人以上の観客に向けて─》/ 飯川雄大 遠く離れた場所でひっそりと変化が(写真撮影:ぷらいまり)
《デコレータークラブ ─0人もしくは1人以上の観客に向けて─》/ 飯川雄大 遠く離れた場所でひっそりと変化が(写真撮影:ぷらいまり)

屋内の壁には、ロープで「EXPECTING SPECTATOR」(0人もしくは、一人以上の観客に向けて)という文字が描かれています。美術館に入るときには、だれもが自分は「観客」のつもりでとして入りますが、気づけば自分が変化を起こして作品の一部になっているんですね。

この会場では、この他にもひっそりと作品が展示されているので探してみてくださいね。

「デコレータークラブ」で知る感覚を「共有すること」の難しさ

ところで、作品のタイトルの中にある「デコレータークラブ(Decorator Crab)」って、聞き慣れない言葉ですよね。クラブ活動の名前みたいですが、周辺にある藻や貝殻を体中に貼り付けて擬態するカニ「モクズショイ」のこと。アーティストの飯川さんは、この擬態したカニに出会ったときの「“はっとする感覚“を、誰かと共有することは難しい」ということを作品で表現したいといいます。

会場内では、実際にそのカニを見た人の証言の映像も展示されています。 しかし、その映像には一つの仕掛けがあるんです。webで「モクズショイ」と検索すれば、たくさんの画像を見ることができますが、画像を見た感覚と、映像の中で興奮気味に語られる感覚は、少し違って感じられるかもしれません。

《デコレータークラブ ─衝動とその周辺にあるもの─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)
《デコレータークラブ ─衝動とその周辺にあるもの─》/ 飯川雄大(写真撮影:ぷらいまり)

このカニを目撃するのと同じように、この展覧会では、作品に出会ったとき・気づいたときの「はっとする感覚」と、その感覚を「共有する」ことの難しさの両面を体感できます。

展覧会の会期は、2022年7月30日〜2023年4月2日の約8ヶ月。季節の移ろいとともに、庭園の風景、そして作品の表情も変化していくかもしれません。季節ごとに異なった表情となる庭園の中で、その地形や特性を活かした作品を体験してみませんか?

展覧会情報

公式サイト https://www.hakone-oam.or.jp/specials/2022/decoratorcrab/
会期    2022年7月30日(土)〜 2023年4月2日(日)
会場    彫刻の森美術館 緑陰広場・アートホール
開館時間  9:00 〜 17:00(⼊館は閉館の30分前まで)
休館日   なし(年中無休)
入館料   大人 1,600 円/大・高校生 1,200 円/中・小学生 800 円
※毎週土曜日はファミリー優待日。保護者1名につき小・中学生5名まで無料。

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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