ユニークな絵本が生まれた発想のもととは? —— どっちがどっち?いわいとしお×岩井俊雄 -100かいだてのいえとメディアアートの世界- (茨城県近代美術館)

ぷらいまり
ぷらいまり
2022.07.26

「100かいだてのいえ」という絵本をご存じですか?絵本といえば横開きが一般的ですが、その常識にとらわれず縦に開き、まるで地上から100階までフロアを昇るように読むことが出来る画期的な絵本は、ミリオンセラーとなっています。

この絵本の作者、「いわいとしお」さんは、日本のメディアアートの第一人者「岩井俊雄」さんと同一人物なんです。アナログな「絵本」とハイテクな「メディアアート」、一見まったく違ったこの2つはどのようにつながるのでしょうか?

この記事では、茨城県近代美術館で開催中の「どっちがどっち?いわいとしお×岩井俊雄-100かいだてのいえとメディアアートの世界-」展をご紹介します。

会場の茨城県近代美術館のエントランスには、絵本のなかのキャラクターたちが並びます。(写真撮影:ぷらいまり)
会場の茨城県近代美術館のエントランスには、絵本のなかのキャラクターたちが並びます。(写真撮影:ぷらいまり)

画期的な絵本「100かいだてのいえ」はどう生まれた?

「TASKO」は、2012年に結成されたものづくりのプロ集団。美術・舞台制作、プロデュース、設計制作、デザイン&ウェブと、様々な専門のスタッフが集まり、独創的なアイディアと「つくる」力で、新しいものづくりに挑戦し続けているアートファクトリーです。

会場に入ると、絵本「100かいだてのいえ」の原画が並びます。コンピューターで色をつけて印刷した後、さらに色鉛筆で彩色することで、あたたかい雰囲気になっているんですね。

絵本「100かいだてのいえ」は、主人公のトチくんが「100かいだてのいえ」に招かれ、様々な生きものたちと出会いながら1階から100階まで昇っていく物語。見開きの10階ごとに違う生きものたちが住んでいて、縦開きのページをめくるたび、それぞれの生きものらしい部屋を楽しめる絵本です。

100かいだてのいえ(2008年)偕成社
100かいだてのいえ(2008年)偕成社

一般的な絵本とは違い縦長で、本の開き方も上から下にページをめくるため、フロアを「昇っていく」ように感じられます。

このユニークな絵本がうまれたきっかけは、実はひとつの困りごとから。いわいさんの娘さんが小学生になったばかりの頃、数字をおぼえられず困っていたため、数字の仕組みを絵本にすることを思いついたのだそう。画期的なアイディアは、こんな困りごとから生まれてくるんですね。会場では、この絵本がうまれるまでの「こだわり」が10のポイントで紹介されるなど、ユニークな発想の”もと”に触れられます。

いわいさんちの手作りおもちゃ(2003~2004年頃) 会場では、いわいさんが娘さんのために制作された、ユニークなアイディアが盛り込まれた手作りおもちゃたちも見ることができます。
いわいさんちの手作りおもちゃ(2003~2004年頃) 会場では、いわいさんが娘さんのために制作された、ユニークなアイディアが盛り込まれた手作りおもちゃたちも見ることができます。

世界を驚かせたメディアアート作品を会場で体験

一方、会場にはメディアアーティスト・岩井俊雄さんとしての作品も。岩井さんは日本で最初に「メディアアーティスト」という肩書きを使ったアーティスト。*

「映画が発明される以前の映像装置に魅せられた」という筑波大学時代に制作された≪驚き盤≫や≪立体ゾートロープ≫といった作品をはじめ、多くの作品を動いている状態で見ることができます。自身で動かしながら見ることができる作品もあり、像が動いて見える仕組みがよく分かります。

時間層II(1985年)/東京都写真美術館蔵
時間層II(1985年)/東京都写真美術館蔵

わたしたちは今、日常のなかでたくさんの動画に触れていますが、このような仕組みを体験しながら見ると、「動かないはずのものが動いて見える」という映像の本来的な感動を感じられますね。

テレビをストロボの代わりに使用し、ゾートロープを現代的に進化させた≪時間層Ⅱ≫(1985年)や、映像と音を融合した≪映像装置としてのピアノ≫(1995年)などの作品では、ビジュアルとサウンドが連動する心地よさが体感できます。

映像装置としてのピアノ(1995年)
映像装置としてのピアノ(1995年)

岩井さんの制作に対する信念として「見る人が作品に関わること」「誰もが親しみを持てる外観をもち、操作性にすぐれていること」そして「自らが感じた驚きや喜びを見る人に追体験させること」があるそうです。**そんな信念が展示された作品から伝わってきます。

「絵本」と「メディアアート」の意外なつながり

「絵本」と「メディアアート」、この2つは全く違うものにも見えますが、今回展示されている岩井さんの小中高生時代の作品や触れてきたものたちを見ていくと、その意外なつながりが見えてきます。

いわいとしお×岩井俊雄
いわいとしお×岩井俊雄

10歳の頃に「おもちゃはもう買いません、欲しかったら自分でつくりなさい」と母親に言われ、たくさんの工作を自分で考えて創り出していたという岩井さん。小学5年生のときに制作した「工作ブック」には、ユニークな工作のアイディアだけでなく、機構まで詳細に記され、そのいくつかは実際に制作されたのだとか。

工作ブック(1973年頃)
工作ブック(1973年頃)

このように、「自分で遊ぶオモチャは自分でつくる」ことが、メディアアーティストとしての自覚の始まりだったかもしれないと岩井さんは言います。**

また、大学卒業後に「ウゴウゴルーガ」という画期的なテレビ番組を手がけたことをきっかけに、既存のメディアであっても自身のアイディアで面白く変えていけると感じたそう。

表現するメディアが変わっても、メディアと向き合って、自分のアイディアで今までとはまったく違ったものをうみ出していくことは、どちらの作品でも変わらないように感じられる展覧会です。

「どっちがどっち?いわいとしお×岩井俊雄 -100かいだてのいえとメディアアートの世界-」展は2022年9月19日まで、茨城県水戸市の茨城県近代美術館で開催されています。

* アイデアはどこからやってくる? (14歳の世渡り術) / 岩井 俊雄  (河出書房新社)
**「どっちがどっち?いわいとしお×岩井俊雄 -100かいだてのいえとメディアアートの世界-」展 展示内解説より

展覧会情報

どっちがどっち?いわいとしお×岩井俊雄 -100かいだてのいえとメディアアートの世界-

会期  2022年7月2日(土)~9月19日(月・祝)
会場  茨城県近代美術館
入場料 一般1,000(870)円 / 満70歳以上500(430)円 / 高大生730(610)円 / 小中生370(240)円

※( )内は20名以上の団体料金
※夏休み期間を除く土曜日は高校生以下無料
※障害者手帳・指定難病特定医療費受給者証等をご持参の方は無料
※9月15日(木)~19日(月・祝)は満70歳以上の方は無料

【WEB予約をおすすめします】日時指定WEB整理券について詳しくはこちら
開館時間 午前9時30分~午後5時(入場は午後4時30分まで)
休館日  月曜日 ただし7月18日(月・祝)・9月19日(月・祝)は開館、7月19日(火)休館

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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