日常に「ズレ」を加えると広がる風景とは?|「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館現代美術ギャラリー)

ぷらいまり
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2022.12.09

カラフルな電飾看板。一見、夜の繁華街にある看板のようですが、よく見ると、50音順に並んだ海外の地名?でも、その土地の名前からイメージする雰囲気とは全然違うような…

《看板屋なかざき》(2005) / 中﨑透(写真撮影:ぷらいまり)
《看板屋なかざき》(2005) / 中﨑透(写真撮影:ぷらいまり)

この作品を制作したのは、「ズレ」をテーマにゆるやかな手法で多様な作品を制作する、美術家・中﨑透さん。その大規模な個展が、茨城県水戸市にある水戸芸術館 現代美術ギャラリーで開催されています。

モノが本来持った意味や、見慣れたモノの雰囲気が少しだけ「ズレ」ると、どんな世界がみえるのでしょうか?この記事では、この展覧会の様子をご紹介します。

「ズレ」で変容して見える、身近な風景

展示室は、明るくカラフルな作品でいっぱい。中﨑透さんが大学生時代から現在まで、約20年間に制作してきた多くの種類の作品たちが展示されています。

「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

例えば、「看板」をモチーフにした作品。誰もがすぐにロゴを思い出すようなブランドの名前が全く違ったイメージに作り直されたものや、土地の名前を繁華街の看板風にした作品など、もともと “何かを伝える” 役割の看板の意味合いが変わってしまう作品です。

例えば、カタカナ英語を並べた看板《color or white》。外国語をカタカナにすることで、もとの言葉の意味を飲み込んでしまうようなイメージを、カラフルなカタカナとモノクロームの外国語の看板として対比しています。

《color or white》(2007) / 中﨑透 (写真撮影:ぷらいまり)
《color or white》(2007) / 中﨑透 (写真撮影:ぷらいまり)

また、こうした電飾看板から発展した「カラーアクリル板と蛍光灯」を組み合わせた立体作品も。そのモチーフになっているのは、人の身体や本といった身近なものたち。蛍光灯は単色の白色ですが、クリアなカラーアクリル板を通したり、不透明なアクリル板に反射したりすることで灯りの色が変化し、角度によって印象が全く変わって見える作品です。

《book #1》, 《book #2》(2022) / 中﨑透(写真撮影:ぷらいまり)
《book #1》, 《book #2》(2022) / 中﨑透(写真撮影:ぷらいまり)

《stripes_red & white》などの作品は、ある衣料品店にあった壁紙やカーテンをモチーフに制作したライトボックス作品。紅白幕や、普段は気に留めない部屋の隅にあるシンプルな柄のカーテンも、素材を変えると「こんな柄だったっけ?」と新鮮な驚きが感じられますね。

《stripes_red & white》《strips_shirt》《stripes_pants》(2020) / 中﨑透(写真撮影:ぷらいまり)
《stripes_red & white》《strips_shirt》《stripes_pants》(2020) / 中﨑透(写真撮影:ぷらいまり)

パフォーマンスの作品も。例えば、《le, home or house, yes or no, or yeah!!》は、「イエ(家)」という言葉をひたすら言い続けるパフォーマンス作品。様々なトーンで言い続けているうち、英語の「Yes」や「Yeah!」と聞こえたり、日本語で「いえいえ」なんて否定しているように聞こえたり。同じ「言葉」なのに、言い続けることでその意味が変わって聞こえてくるような不思議な感覚です。

パフォーマンスから立体作品に展開された《le, home or house, yes or no, or yeah!!》(2007)(写真撮影:ぷらいまり)
パフォーマンスから立体作品に展開された《le, home or house, yes or no, or yeah!!》(2007)(写真撮影:ぷらいまり)

他にも、ドローイングから陶芸、ドローイング、さらに、過去の小さな展覧会を再現する部分もあるなど、本当に多くの作品が展示されています。

  2021年の個展「Poolside Snowman」の様子を再構成して展示 (「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景)(写真撮影:ぷらいまり)
2021年の個展「Poolside Snowman」の様子を再構成して展示 (「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景)(写真撮影:ぷらいまり)

展覧会全体が大きな新作?

ひとつずつの作品にある「ズレ」からも不思議な感覚が生まれますが、もうひとつユニークなのが展覧会の構成。 過去の作品も展示しながら、まるで展覧会そのものがひとつの大きな新作のようになっています。

実はこの展覧会が開催されている水戸市は中﨑さんの故郷であり、会場の水戸芸術館自体も高校時代から親しんだ身近な場所。今回の展覧会のために、水戸に生まれ育ち、現在も水戸に住む5人にインタビューを行い、そこから抽出した言葉を展覧会の中で展示。作品たちは、その言葉とともに展示されています。

5人へのインタビューから抽出された言葉(「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景)(写真撮影:ぷらいまり)
5人へのインタビューから抽出された言葉(「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景)(写真撮影:ぷらいまり)

展示された作品の多くは過去に制作されたもの。それらの作品と5人の言葉は本来繋がりがないはずなのに、緩やかにイメージがつながるような作品と言葉が並べて展示されると、なんだかその言葉のために作られた作品のように見えてきます。でも、改めて解説を読むと、作品の中に込められているのは、添えられた言葉とは全く違った物語。

「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

各地の芸術祭で、その土地の記憶をもとにした作品も数多く制作してきている中﨑さんの作品は、今回の展覧会の言葉とはテーマとなっている場所や時代も全く違うことも。そんな、全く違った記憶を持った作品が、添えられた言葉の物語のようにもみえてしまう。関係の無い2つの物語が1つの作品から再生されるような、不思議な感覚です。

5人の記憶と作品が交差して生まれる「フィクション」

展覧会を見ている間、この5人の経歴などは知らされません。でもそのコメントから、年代も性別も、職業も全く違う5人であることがわかります。

それぞれ全く別々の物語ですが、水戸芸術館という場を通じ、5つの物語はなんとなく交差するように見えてきます。さらに、作品と合わせて見ているうちに、水戸出身である中﨑さん本人の物語のように錯覚して見えてきたりも。

「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

作品も、5人それぞれの言葉も、それぞれが違った物語をもった“本当のこと”ですが、つなぎあわせることで全く違った「フィクション」がつくられるような展覧会です。

タイトルの「フィクション・トラベラー」のとおり、モノが本来持った意味や、見慣れたモノの雰囲気、そして誰かの記憶が少しだけ「ズレ」ることから生まれる、”フィクションの旅”を会場で楽しんでみませんか?

「中﨑透 フィクション・トラベラー」は、水戸芸術館で2023年1月29日(日)まで開催されています。

「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

展覧会情報

中﨑透 フィクション・トラベラー

「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館)  会場入り口(写真撮影:ぷらいまり)
「中﨑透 フィクション・トラベラー」(水戸芸術館) 会場入り口(写真撮影:ぷらいまり)

公式サイト https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5186.html
会期    2022年11月5日(土)~2023年1月29日(日)
会場    水戸芸術館現代美術ギャラリー
開催時間  10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日   月曜日、年末年始(2022年12月27日(火)~2023年1月3日(火))
※ただし1月9日(月・祝)は開館、1月10日(火)休館

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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