「着る」「住む」ありかたを広げる、新しい「まとう」のかたちとは?|被覆のアナロジー —組む衣服/編む建築 (インターメディアテク)

ぷらいまり
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2023.01.06

「衣食住」の「衣 (衣服) 」と「住(建築)」って、「何かに包まれる」「まとう」といった意味では、意外に近い意味を持つものですよね。どちらも私たちの身体から近い距離にあるものでありつつ、身体にあわせてつくるよりは、”出来上がっているもの”の中から自分の身体に”近いものを選ぶ”場合が多いのではないでしょうか?

一方、同じ「まとう」ものと言っても、柔らかい素材を「編んで」つくる衣服と、硬い素材を「組んで」つくる建築とでは、その素材や作り方は全く異なるようにも感じますよね。そんな今の”あたりまえ”の考え方を少し変えてみたらどんなことができるのでしょうか?

この記事では、そんな「まとう」ことの新しいかたちを試みる、ファッションデザイナーの江角泰俊氏と建築家の隈研吾氏の企画による展覧会「被覆のアナロジー —組む衣服/編む建築」(インターメディアテク)をご紹介します。

「被覆のアナロジー —組む衣服/編む建築」展示風景(写真撮影:ぷらいまり)
「被覆のアナロジー —組む衣服/編む建築」展示風景(写真撮影:ぷらいまり)

「組む」ことで生まれる、身体感覚にあわせた新しい「衣服」のかたち

会場でまず目に入るのは、レースの様な細かいパーツの重なりが美しいドレス。なんと、ボタンとボタンホールを配置した3種類の大きさの「襟」を30枚制作し、それをボタンでつなぎ止めて作られているそうです。ボタンの留め方を変えれば、着る人それぞれの体型にフィットする形、そして、好みにあった形にも作りあげることができるんですね。

《粒状テイラードガーメント》(写真撮影:ぷらいまり)
《粒状テイラードガーメント》(写真撮影:ぷらいまり)

小さなパーツを組み上げることでそれぞれの人に合った衣服を組み上げていくというのは、大きな布のパーツを縫い合わせて、標準的な人の体型に合う衣服を創り出す、大量生産的な衣服の製造方法とは大きく異なるようにも感じられます。

やたらめったら編むという職人技の「やたら編み」を用いて制作された《竹衣服:トップス》(写真撮影:ぷらいまり)
やたらめったら編むという職人技の「やたら編み」を用いて制作された《竹衣服:トップス》 (写真撮影:ぷらいまり)

部分から全体をつくりあげるこれらの衣服は、ファッションブランド「EZUMi」を手掛けるファッションデザイナーの江角泰俊氏によるもの。建築家・隈研吾氏の提言する「負ける建築」にインスパイアされたものだといいます。

「負ける建築」とは、2004年に刊行された隈氏による同名の著書の中で提言されたもの。巨大さや構造的な強さを誇示し、周囲の環境を圧倒する20世紀型の「勝つ建築」に対し、さまざまな外力を受け入れる柔軟さを有し、周囲の環境と調和する「負ける建築」を目指すべきだとする主張です。こうした新しい構造のあり方や価値観を、建築から衣服に展開されているんですね。

《テンセグリティガーメント》(写真撮影:ぷらいまり)
《テンセグリティガーメント》(写真撮影:ぷらいまり)

会場では、このほか、ブラックボックス化した複雑なデザイン・生産のプロセスを、編む・組むといったプリミティブな手法によって透明化する、竹製のドレスや、身体から衣服への新しい距離感をつくり構造体としての衣服を表現する「テンセグリティ」の服などが展示されています。

「編む」ことで生まれる、自在に形を変える新しい「建築」のかたち

これらの衣服が展示された会場の壁は、温かみのある厚手の布地で、衣服のような柔らかい曲面が形作られています。手掛けたのは、建築家・隈研吾氏。もともとの素材は、フェルトのような伸縮性のない厚手の布ですが、そこに切り込みを入れ、網目のように加工することで、ニットのような伸縮性が生まれるそうです。

厚手の布地に切り込みを入れて組み立てられた会場の壁面(写真撮影:ぷらいまり)
厚手の布地に切り込みを入れて組み立てられた会場の壁面(写真撮影:ぷらいまり)

強く、硬い構造材料と異なり、折りたたんだり丸めて移動させることもでき、自在に形を変えて使用できる柔軟な建築のかたちなんですね。

切り込みを入れた布の壁で、自在な曲面が作り出されています。(写真撮影:ぷらいまり)
切り込みを入れた布の壁で、自在な曲面が作り出されています。(写真撮影:ぷらいまり)

こうした建築のあり方には、19世紀にドイツの建築家 ゴットフリート・ゼムパーによって提言された「被覆芸術」という概念が反映されているようです。ゼムパーは、植物の枝やつるを織ったり編んだりしてつくられたプリミティブな建築の作り方を考察し、それらの建築が衣服のように編んで作られることを発見。軽く柔らかく人を包み込む衣服に近い「被覆」のイメージで建築を捉えました。

今回の展覧会で展示された衣服や壁面は、身体の感覚に近い、衣服と建築の間に位置する「被覆」のように感じられます。

持続可能な「衣・住」を支える新しい素材

今回の展覧会では、衣・住に共通する課題でもある「サステナブル」を考える新しい素材も使用されています。

例えば、隈研吾氏の制作した会場の壁に使用されているのは、再生繊維素材「TUTTI (トゥッティ)」。本来廃棄処分となる衣服や、生産過程で生じるハギレを裁断して成形したという素材です。こちらは、使用後にまた裁断して成形すれば、何度も使用できる素材なのだそう。

「TUTTI」ができるまでの様子も展示されています。(写真撮影:ぷらいまり)
「TUTTI」ができるまでの様子も展示されています。(写真撮影:ぷらいまり)

この「TUTTI」は、「布」として使用されるだけでなく、細かくほぐして人工ゼオライトなどを配合することで、〝繊維でできた土”としても利用できるそうです。

また、「テンセグリティ」の服に利用されているのは、「PANECO」という繊維リサイクルボード。こちらも廃棄衣料に使用し、まるで木製ボードのような板に加工したもの。一見、コンクリートのようにも見える外観ながら、手に取ってみると、温かみのある質感である点もユニークです。棚や机のような内装資材としての活用も進められています。

「PANECO」で制作されたテンセグリティ(写真撮影:ぷらいまり)
「PANECO」で制作されたテンセグリティ(写真撮影:ぷらいまり)

現在、世界では年間約920万トンものファッションロスがあるといわれています。様々な素材が混ざるためにリサイクルの難しいともいわれる衣服ですが、こうした新しい活用方法が検討されているんですね。

「まとう」ことについての考え方を少し広げてくれるこちらの展覧会は、2023年4月2日まで、東京駅直結のKITTE2・3Fにある「インターメディアテク」で開催されています。

展覧会情報

特別展示 「被覆のアナロジー —組む衣服/編む建築」

公式サイト http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0256
会期    2022年11月5日 — 2023年4月2日
会場    インターメディアテク2階 「GREY CUBE(フォーラム)」
時間    11時-18時(金・土は20時まで開館)※時間は変更する場合があります。
休館日   月曜日(月曜日祝日の場合は翌日休館)、年末年始、その他館が定める日
入館料     無料
事前申込不要

ぷらいまり
WRITER PROFILE

ぷらいまり

都内でサラリーマンしながら現代アートを学び、美術館・芸術祭のボランティアガイドや、レポート執筆などをしています。年間250以上の各地の展覧会を巡り、オススメしたい展覧会・アート情報を発信。 https://note.com/plastic_girl

Twitter:@plastic_candy

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