わたしたちは毎日、スマートフォンの画面の中で、写真や動画を楽しんでいますよね。大画面の映画も良いけれど、小さな画面を覗き見て、好きなものを独り占めして見るのもまた楽しい時間。
そんなふうに、写真や映像を「覗き見る」ことに着目した展覧会が開催されています。
この記事では、東京都写真美術館で開催中の「TOPコレクション 何が見える?「覗き見る」まなざしの系譜」展をご紹介します。
海外の風景から、空想の世界まで。「覗き見る」装置の歴史を体験
東京都写真美術館の所蔵する、映像史・写真史に関わる豊富な作品と資料を中心に、「覗き見る」ことを可能にした装置とそれに関わる資料や作品を、テーマごとに5つの章に分けて紹介する展覧会です。歴史的な「覗き見る」装置の一部は体験もできます。
ここではない世界を覗き見る楽しみ
第1章は「覗き見る愉しみ」。「カメラ・オブスクラ」は、重厚な木箱に開けた穴を通じ、箱の外の三次元の世界を、箱の中で二次元に投影する装置。今、私たちが使うカメラの先祖ともいえるこの装置。会場では実際に中を覗いてみることもできます。
その「カメラ・オブスクラ」と対になるように、箱の中で立体的な世界を見せるのが「ピープショー」。会場には、各国で発展したさまざまなピープショーが紹介されています。複数枚の切り絵を差し込み、小さな穴から覗いて見る「ペーパーピープショー」は、小さな箱の中を覗くと、ここではない物語の世界に入り込む気分になる装置です。
このほか、平面の絵をレンズ越しに見ることで立体感・奥行き感を見せる「眼鏡絵」など、覗き込むことで別世界にトリップできるような装置が並びます。
立体の世界に没入して楽しむ
第3章「立体的に見る」では、ふたつのレンズの付いたビューワーを通して見ることで、2枚組の写真が立体的に浮かび上がる「ステレオスコープ」の装置と、その写真が多数紹介されています。ここでは、ビューワーのレプリカを手に取って実際に立体視も楽しめるんです。
展示された写真は、観光地の美しい風景から、明治初期の日本の日常風景、それに、日露戦争中の風景まで。
現代の「VRゴーグル」の祖先のようなこの「ステレオスコープ」。明治45年の少年雑誌には、この「ステレオスコープ」の広告が掲載され、「座ながら名所を知られる本眼鏡を一度覗けば忽ち美人忽ち名所と取換現れて実地に臨むが如く身室内に有を忘るる」※1なんてコピーがあったそう!好きなものに没入して見たい欲望は、今も昔も変わらないんですね。
小さな装置の中で 絵や写真が動き出す
第4章は「動き出すイメージ」。アニメのように描かれた絵を、円盤のスリットから覗いて見る「フェナキスティスコープ」や、回転する筒状のスリットから覗く「ゾートロープ」などの装置が紹介されています。
あのエジソンが最初のアイデアを考案した「キネトスコープ」は、まさにパラパラマンガのように一枚ずつ絵をめくってつくる映像を、ひとりずつ木箱を覗いて楽しむ装置。会場では、そのレプリカの装置で実際に映像を楽しむこともできます。
この「キネトスコープ」は、映画の原型となる映像装置と近い年に一般興行が始まったものの、大人数で一度に見られる映画に興行形式での軍配が上がったといいます。でも、現在でも、大きなスクリーンで映像を見るのも、スマホやVRゴーグルでひとりずつ没入して映像を見るのと違った魅力があるように、「覗き見る」魅力が感じられますね。
科学の目で世界を覗いてみると…?
第2章では「観察する眼」として、顕微鏡や望遠鏡といった、肉眼では見えない世界を覗き見た作品が紹介されています。
例えば、ハロルド・ユージン・エジャートンによる写真は、高速のフラッシュ装置「ストロボスコープ」を用いて撮影した、肉眼では見えない一瞬の世界を切り取った作品。縄跳びをする人の動きや、リンゴを貫通する銃弾など、人の眼では捉えられない世界です。
こうしたレンズを用いた装置は、覗き見ることで「人間の視覚を拡張させる装置」とも言えるんですね。
「覗き見る」ことからイマジネーションを広げた写真作品も
最後の第5章では、「「覗き見る」まなざしの先に」と題し、こうして見てきた「覗き見る」イメージにつながる現代の写真作品として、奈良原一高、オノデラ・ユキ、出光真子、伊藤隆介の4名の写真・映像作品を紹介しています。
伊藤隆介の《オデッサの階段》は、「戦艦ポチョムキン」という映画のワンシーンで、乳母車が階段を落下する悲劇的なシーンを元にした作品。こちらの作品では小さなジオラマの中で、乳母車は同じ場所を回り続け、そのようすを1つの視点から切り取った映像が大きなスクリーンに映されています。
1点でだけで「覗き見」て切り取った視点の外側には、実は、その視点からは見えない、全く違った世界が広がっているということも連想させます。
まとめ
肉眼では捉えられないものや、遠くにある世界、この世にない美しい場所など、実際には目の前で見られないものを「覗き見る」体験ができるこの展覧会。その場では見えないものを「観たい」という欲望は昔からずっとあることに気づき、それを叶えていく歴史を体感できるような展覧会です。
スマホの中で好きなものを見ることに慣れた今、改めて「覗き見る」ことに注目した体験をしてみませんか?
※1 TOPコレクション 何が見える?「覗き見る」まなざしの系譜 図録 「覗き眼鏡から見る近代の視覚と娯楽」/ 草原真知子 より
展覧会情報
TOPコレクション 何が見える?「覗き見る」まなざしの系譜
公式サイト https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4536.html
開催期間 2023年7月19日(水)~10月15日(日)
開館時間 10:00~18:00(木・金曜日は20:00まで、図書室を除く)
休館日 毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
料金 一般 700円/学生 560円/中高生・65歳以上 350円
※ 東京都写真美術館では「サマーナイトミュージアム」として、2023年7月20日 – 8月31日の木・金曜日の開館時間を21時まで延長し、夜間限定で割引料金があります。