世田谷文学館で「江口寿史展 ノット・コンプリーテッド」が開催されています。
近年はCDジャケットや書籍カバーなどのイラスト作品でも知られる江口寿史さんですが、今回は「漫画」にフォーカスした展覧会。その独創的な漫画の世界を覗いてみましょう。

文学館で観る 江口寿史さんの独創的な漫画の世界
江口寿史さんとは?
江口寿史さんは、1956年生まれの漫画家/イラストレーター。
「すすめ!!パイレーツ」「ストップ!! ひばりくん!」といった漫画作品で知られるほか、1980年代からは、イラストレーターとしても多方面で活躍し、広告、雑誌、書籍カバー、レコードジャケットなども多く手掛けてきました。また、2023年には現代アーティストの村上隆さんとコラボした展覧会を都内で開催し、アートの領域にも活動を広げています。

「漫画」にフォーカスした展覧会
会場に入ると、通路の両面の壁面から、展示ケースまで、漫画の原稿が並びます。漫画の扉絵から、ストーリーまで、作品によっては内容を数ページ続けて読めるようになっているのも嬉しいです。

2015年から8年間、「KING OF POP」展や「彼女」展といったイラストレーションをメインにした展覧会を全国で展開してきた江口さんですが、今回は「漫画」にフォーカスした展覧会。漫画を中心とした構成としたのは、江口さん自身の発案なのだそうです。

会場の世田谷文学館は、江口寿史さんが「僕はずっと世田谷文学館での展覧会に憧れていて、やりたかった」という場所。世田谷文学館では、これまでにも「描くひと 谷口ジロー展」や「安野モヨコ展 ANNORMAL」など、様々な漫画の展覧会が開催されてきました。
漫画の中にイラスト?!独自の漫画表現
展覧会では、章立てによる分類や多くの解説はありませんが、「すすめ!!パイレーツ」「ストップ!! ひばりくん!」といった週刊少年ジャンプで連載されていた漫画からはじまり、「寿五郎ショウ」「パパリンコ物語」などの青年誌向けの漫画の原稿へと、その作風の変遷を追うことができます。

ユニークなコマ割りや、入れ子の構造になったストーリー、パロディなど、作品の1ページを読むだけでも思わずその作品ごとの世界観に引き込まれ、笑ってしまうようなギャグ漫画にはじまり、徐々に漫画の中に、イラストの要素が見えてきます。

例えば、かわいい女性のイラストだと思いながら読み進めていくと、ナンセンスなオチが待っていたり。漫画の中にイラストが描かれるというユニークな構成と、その独自のギャグに引き込まれます。

展示ではストーリーの一部が紹介されていますが、思わずその先が気になり、続きが読みたくなってしまいます。
漫画作品以外のみどころも多数
展示の後半には、漫画の扉絵だけを並べたコーナーも。こちらも、オマージュやパロディだったり、だまし絵のような要素が取り入れられたりして、漫画の一部としても、単体のイラストとしても楽しめる作品です。

なお、今回の展覧会の図録として、扉絵を集めた作品集「江口寿史扉絵大全集」も、会場で販売されています。

漫画だけでなく、イラストの作品も多数展示されていますが、今回展示されているのは、すべて漫画とつながっているイラスト作品。近年のイラスト作品はデジタル作画がメインであるのに対し、修正した箇所や、色を検討したあとなど、当時の「手の跡」が感じられる漫画原稿は、実際に会場で観る嬉しさがありますね。

また、会場内には、かつて漫画業界のカンヅメ旅館としても名高かった「ホテル錦友館」の逸失をイメージ再現したコーナーも。こちらに展示されている小物たちはすべて私物で、雑誌「週刊少年ジャンプ」も当時のものだそうです。

さらに、展示の後半では、子供の時に書いたノートや作品の構想ノートなども展示されています。一部の内容は読めるようにもなっており、作者の頭の中を覗けるような展示なので、ぜひ会場でチェックしてみてくださいね。
完成しない展覧会「ノット・コンプリーテッド」
タイトル「ノット・コンプリーテッド」の意味とは?
今回の展覧会タイトル「ノット・コンプリーテッド」には、2つの意味があるようです。
ひとつは、「生きている限り、完成はしない」という思いから。「完成だと思った地点でも、絶対不満が出てくると思うんですよね。だから、生きている限り絶対やめられない。」と江口さんは語っていました。

もうひとつは、この展覧会自体が変わり続け、最後まで完成しない展覧会になりそうだということ。こちらは、実際に展覧会が会場に並べられてみると、江口さん自身が他にも見せたいページが出てきたそうで、会期中に少しずつ展示が変更されていくようです。
閉幕まで 変化し続ける展覧会
展示内容も変化し続ける展覧会について、江口さんは「来れば来るほど面白くなる展示になると思う」とコメントされていました。
近年のイラスト作品は若い方や女性に人気のある一方、漫画のファンには、公開当時に作品に親しんできた男性が多いそうですが、今回の展覧会は、ぜひ若い人にも来て欲しいとのこと。

「生活に寄り添うように来てほしいね。僕も4ヶ月間ずっと寄り添うので、そこにある風景みたいに、展覧会に行こうなんて気負わないで、フラッと何回も来てほしいですね。」とお話されていました。
独創的な漫画と、そこから広がる美しいイラストの両方の世界を楽しむことができ、閉幕まで変化し続ける展覧会「江口寿史展 ノット・コンプリーテッド」展は、2024年2月4日まで、世田谷文学館で開催されています。
展覧会情報
江口寿史展 ノット・コンプリーテッド
公式サイト https://www.setabun.or.jp/exhibition/20230930-20240204_hisashieguchi.html
会期 2023年9月30日(土)~2024年2月4日(日) ※混雑時は入場制限あり
会場 世田谷文学館 2階展示室
開館時間 10:00~18:00※展覧会入場、ミュージアムショップの営業は17:30まで
休館日 毎週月曜日・年末年始休館(12月29日~1月3日)
ただし、10月9日(月・祝)、1月8日(月・祝)は開館、翌日休館
入場料(当日券・オンラインチケット)
一般 1,000円、65歳以上・大学・高校生 600円、小・中学生 300円、障害者手帳をお持ちの方(ただし大学生以下は無料) 500円