みなさん、こんにちは。半分台湾人のSeikyoです。
今回ご紹介するのは、台湾のデザイナーによって路上の文字を「書体化」した取り組みについてレポートしていきたいと思います。
早速みていきましょう!
スクーターから見えた、細長い路面の文字
この「台湾道路体」プロジェクトを手掛けたのは、台湾のUIデザイナーのTom Liouさん。始まりは何気ない日常の風景からでした。
ある日スクーターで街中を駆けている際に、ふと「減速慢行(=スピード落とせ)」と書かれた路面標識に目が止まり、そこから道路で見かける文字を集めてフォント化できないのかというシンプルな発想から、この壮大なプロジェクトが始まったのです。
台湾の街中の看板や新聞のタイトル、チラシや求人広告などに印刷されている文字をよく観察してみると、スペースを埋める目的であったり、逆に限られたスペースの中に全ての文字を詰め込むために、本来の書体を変形する形で解決しようとする事例をよく見かけることがあります。
そうした「任意に変形された書体たち」を目の当たりにしたデザイナーの彼は、路面に細長く塗装された文字たちと、最初から横幅を縮めて縦に細長くして開発された「コンデンス書体」と呼ばれるフォントとの相性が良いことに気づき、1から書体を作ることに乗り出したのです。
台湾のフォント市場にはまだ少なかった「コンデンス書体」
コンデンス書体とは、通常の書体に比べて横幅が狭く設計されたフォントのことを指します。
例えばポスターの制作やパッケージの成分表示用のラベルを作る際に、決められたスペースの中に一定の文字量を流し込む必要があります。スペースが十分でない場合、文字サイズ自体を小さくするか、文字に長体などの変形をかけるかといった方法が考えられますが、既成のフォントに変形をかけることは、すなわち本来最も美しく見える縦横比で作られた文字のデザインを崩すことになり、視認性や可読性を著しく悪化させてしまうことにつながります。
その際に解決策として使われるのがコンデンス書体で、あらかじめ横幅を狭めた状態で文字がデザインされているので、可読性だけでなく文字の美しさも担保した、いわば「長体フォント」が役に立ちます。
細部の調整を重ねた「フォント作り」
5,000文字に及ぶ台湾の常用漢字を手掛けるのは、決して容易なことではありません。
5年の歳月をかけて幾度となく細かな調整を積み重ね、初期のデザインから文字の高さを0.8倍に、ウェイトを1.5倍にするなど、文字の重心や全体的なバランスを見て、視認性が高く幅広い用途を想定して何度も改良が行われました。街中の文字を探し集め、ないものは1から文字を作り上げ、新たなルールを制定するのに時には途中でガイドラインを見直す必要もあったそうです。
様々な応用の可能性を秘めたフォント
台湾の路面標識の文字をベースにしつつも、書体の利用シーンは紙やデジタル媒体を問わず、幅広く使用されることが想定され、デザイナー自身によっていくつかの使用イメージが作成されています。
行政文書の表紙デザインのタイトルからランディングページのデザインまで、細長くスタイリッシュな書体を取り入れることで、幅広く認知してもらうだけでなく、何よりデザイナー自身が様々な分野のデザインに参画することで、デザインの質の底上げが図れるところも、大きな魅力のように感じます。
今回ご紹介した「台湾道路体」は、今年の上半期にクラウドファンディングが計画されており、早くも完成品が他のデザイナーの手に届く日が近づいています。
何気ない日常の景色から始まった、「1からフォントを作る」というプロジェクト。近い将来台湾の街中のあちらこちらで、この書体を見かけることを期待したいと思います。
では、次回もお楽しみに!
|「台湾道路体」紹介記事
https://www.goldenpin.org.tw/en/20210618/
|Tom Liouさんの公式Instagram
https://www.instagram.com/tomliou_design/
(台湾道路体の最新情報をご確認いただけます。)